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転生したら犬でした。たぶん前世より忙しい  作者: くじら


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1/2

目が覚めたら犬でした




 目が覚めたら、低かった。

 視界が、とにかく低い。


 それと――脚が四本あった。


「……あ」


 声を出そうとしたら、


「ワン!」


 可愛らしい鳴き声が出た。


(違う。俺はそんな可愛い声を出すタイプじゃない)


 だが現実は残酷だった。

 俺は犬だった。しかも雑種。中型。白い。

 そして、尻尾が勝手に振れている。


(やめろ。喜んでない)



 俺の飼い主は、ひよりという可愛い女の子だった。

 当然だが、彼女は俺が元人間だなんて欠片も知らない。


「モチ〜!!!」


 その呼び方にも最初は抵抗した。

 餅? なぜ餅?



 だが今では、呼ばれると反射で振り向く。

 犬という生き物は、理性が弱い。



犬と言うのも大変だ。と、犬になって初めてわかった。



「今日はお風呂だよ〜」


(嫌だァ!!!)


 全力で逃げようとしたが、捕獲された。

 そして風呂場。


 シャワー。泡。ゴシゴシ。


「ほら、綺麗にしようね〜」


(そこは!!

 そこは人間だった頃なら自分でやってた部分だ!!!)


 だが俺は犬。

 尊厳は泡と一緒に流されていった。


「はい、さっぱり〜」


(……社会的に死んだ)





 散歩は嫌いじゃない。

 ただし、これを除けば。


(電柱の匂いなんて嗅ぎたくない!!!)


 そう思った次の瞬間。


 くんくん。


(……なぜだ)


「モチ、情報収集してるね〜」


(違う。身体が勝手に)



犬と言うのは自由なようで自由じゃない!!!


だって!!!



だってな!!!



服ひとつ選べない!!!んだ!!!


「今日はこれ着せよっか!」


 差し出されたのは、ヒラヒラの服。


(俺は雄だ!!!

 元・人間の男だ!!!

 こんな可憐な布――)


 ……着せられた。


(クッ……一生の不覚……

 これが従順な犬……)


「似合う〜!!!可愛い!!!」


(世界が俺を試している)





「モチ〜」


 仕事から帰ったひよりは、俺を抱きしめる。


(……いい匂いだ)


 可愛い女の子の飼い犬。

 悪くない。悪くないぞ。


「犬吸いさせて〜」


 腹に顔を埋められる。


 スーハー。スーハー。


「はぁ〜生き返る〜。今日はキツかった〜」


(……まあ、役に立ってるなら、いい)



そんな忙しい毎日を過ごしてた俺は思わず寝てた場所から顔を上げる。


 昼間、ひよりが仕事に出たあと。

 テレビから流れてきたニュース。


「地震が発生しました。震源地は――」


 そこは、

 俺が人間だった頃に住んでいた場所だった。


(……)


 気づいたら、外に飛び出していた。




 犬の足で、歩いた。

 走った。


 人間の子供に追われ、

 俺より大きな犬には威嚇され、時には噛まれた。


 夜は寒い。

 腹も減る。


 残飯を漁ろうとしても、

 犬には犬の縄張りがあって、ろくに食べられない。


 朝と夜の区別が、

 いつからか曖昧になっていた。


(俺、何してるんだろう)


 ――そうだ。

 人間だった頃の家族が心配で、飛び出したんだった。




 力尽きて座り込んだ先は、街角の家電屋だった。


 道路に面したテレビから、映像が流れる。


『仕事から帰って来たら居なくなってたんです!!!

 白い中型犬の雑種で、お尻に黒い斑点があります!!!

 見掛けた方は、ぜひご連絡ください!!!

 大事な家族なんです!!!』


「モチ!!!

 帰ってきて!!!」


白い犬の写真をアップに泣き出しそうなひよりの姿


 画面の中のひよりは、

 いつものキラキラした輝きを失っていた。


 酷く、疲れて見えた。


 人間だった頃の家族。

 今の、家族。


 心が、揺れる。




 あと一時間で、

 人間だった頃の住所に着く。


 だが足が、前に進まない。


「ねぇ、あの犬……

 さっきテレビでやってた女の子の犬じゃない?」


 その声を聞いた瞬間、俺は走り出していた。


 ――そして、辿り着いた。


 俺の家があった場所。


 何も、なかった。



呆然と座り込む俺の耳に、道行く女子高生の声が届く。



「てかさぁ〜地震のフェイクニュースのドッキリって、タチ悪いよね〜」


「誰が信じるの? あんなの」


 ……ドッキリ?


 安堵と同時に、ひよりの顔が浮かぶ。


 その時。


「モチ!!!」


 振り向くと、遠くからひよりが走ってきていた。


「モチ!!!」


 涙を溢れさせ、

 両手を広げて。


 俺は、鳴いた。


「くぅ〜ん」




 あとで知った。

 俺を見た住人が、ひよりに連絡してくれたらしい。


 ひよりは、すぐに飛んできた。


 そして、色々なことが分かった。


 ここは、

 俺が生きていた時代から、何百年も後の未来だった。


 家族がいないのは、当たり前だった。



そして―――


「あら? もしかして……光輝?」


(わ、わん?)


 光輝。

 それは、俺が人間だった頃の名前。


 目の前にいたのは、

 小さくて茶色い、超小型犬。


「ふふ〜ん!

 今はキュートなチワワやってる、光輝の母ちゃんよ!」


(わわわわわん!?!?)


 母ちゃんが、俺より小さくてラブリーになっていた。


「あ、お父さんは三丁目のタマで、

 美里はそこの高層マンションの最上階よ」


 そこから出てきたのは、

 厳ついドーベルマン。


(妹、絶対俺より良いもん食ってる)



 こうして、俺の犬生はまだまだ続く。


 なお、次に着せられた服は、

 前よりヒラヒラしていた。


 ――人間としては失格だが、

 犬としては、案外悪くない人生だ。


END


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