第一章-④ 答え合わせ
「おばけ、ですか?」
そう、もう一人の転校生は聞き返した。
「そうだよ、あの普通のピエロの着ぐるみは、元々おばけが憑いてたんだ」
「勝手に動いてたとか人を驚かせてたとか、そういうことなのか?」
「そうそう、あの白くてふわふわ浮いてる奴だけじゃないけどね。不思議な力を使うのも使うのもいるし空も飛ぶやつもいる」
うそだ。信じられないというか、驚きと呆れで隣の四辻君に聞く。
「あの、先生の言ってたことって本当なんですか?」
「だいたいあってる」
うそだあ。
「こう見えてさっきおばけ退治をしたから疲れてるんだよ」
「うそつけ。いつも通りけろっとしてるだろーが」
「まあまあ」
「そんなの、居るわけないじゃないですか。今まで見たこと無いんですよ」
「それはよかった、僕らのおばけ退治は完璧だということだ。だって基本的におばけはこの学園にしか出ないからね」
この学園にしか出ないおばけというのもおかしな話だ。なぜそんな場所を学校にするのだろうか。
「先生先生、どうしてお化けは他の場所では出ないんだい?もしかして子供が好きな妖精だったりするのか?」
「残念、不正解!お化けが子供と遊ぶのが好きなわけじゃないんだ。むしろ、子供がお化けとか魔法とか、ファンタジーが好きだから呼び寄せてしまうんだよ」
「でも、今まで行った学校のどこでもそんなの居ませんでした」
「どの学校でもどの子供たちでもおばけを集めるわけじゃなくて、体質?個人差?にもよるからなんだ。」
「ほーう」
もう一人の転校生は興味深そうにしているが、僕は話についていけていない。現実味が薄くなっていることしか感じられなくなってきた。これは夢なのかな、そうかもな。
「それで僕から転校組の二人に質問なんだけど、お化けとか、夢みたいな生き物や出来事を見たことってある?ないならないでいいんだけどね」
ない。あったとしても気のせいにしてすぐ忘れるし、例え三分前に見ていたとしてもないと言い張る。
「僕は、ありません」
「私も、ないですね」
まあそうなるよな、という感じだ。
「先生、なぜお化けを見たことがあるのか、なんてことを聞くんです?誰もそんなことに正直に答えないと思いますよ」
幽霊とか信じてないし。
「まあね、普通そんなこと聞いても気になってる子を聞かれたときと同じで、正直に答えてくれる人はいないと思う」
「ではなぜ?」
「じゃ、ホントは今日か明日の放課後にまとめて伝えようと思っていたことを話しとこっか。
お化けっていうのは魔法を持っていてね、自分が持っている不思議な力を人に移すことができるのさ。生まれつき持ってるケースも同じくらいあるけど、この学園はそういう不思議な力を持ってしまった子供たちの治療をしているんだ」
「持ってしまった?不思議な力が使えるなら使えないよりも便利なんじゃ」
「能力が使えると便利な場合も確かにある。でも制御できていないと危ないし、無意識の内におばけを集めることがあるんだよね、そして余計に不思議な力が広まってしまう。だからその制御の方法を調べる必要がある。学園本部もここも、他の支部も、危険になる前にそれっぽい兆候がある子供たちを集めているんだ」
今まで見ことのないおばけに興味はないが、超能力とか不思議なものというのは少し気になる。
「じゃあ、もしかして僕たちも魔法とか……?」
「いや、君は普通に転校してきただけだよ」
何か不思議な力が使えるかもしれないと思ったが、そんなことはなかった。それもそうだ。僕は呼ばれて来たわけではなく、魔法などは身に覚えがない。
「使える可能性が全くないわけじゃないけどね。ただ、魔法が使えるかどうかで生徒の扱いを変えてるわけでもないから発症予防とかはしっかりしてね、もし発症したら危ないから」
「わかりました……」
「それでね、おばけとか魔法とかっていうのは人の認識の上で成り立っているんだ。例えば今日退治したおばけは自分の周りを寒くしてくる小さい氷の塊みたいな厄介なやつだった。きっと生徒とか先生が『いやー今日は寒いなーこんなに急に天気が変わるなんてきっと何か変なことがあったに違いない』って思ってたのがおばけを呼んだんだろうね。お陰でいくらカイロを貼ってもあったかくならないし、いやーすぐに倒せてよかった」
「先生、話が逸れていってるわ」
「おっと失敬、こんな感じでおばけは人の想像とか好奇心に呼び寄せられる。魔法も似たように、『こうなれ!』っていう強い願いとか祈りから生まれる。特に、魔法っていうのは個人の強い意識によって生まれるから使う人の意思が強いほど影響も大きくなる。逆に、おばけは個々人の想像の強さより、人数が影響力につながるかな、おばけとか不思議な現象について考える人数が増えると、もう大変」
おばけを知ってる人が増えるとおばけ退治が大変になるなんて、どうやって退治しているのだろう。無理じゃないのだろうか。
「先生、そんなどんどん強くなるおばけをどうやって退治するんですか?」
「おばけを完全に無視してしまえばいい。そうしたらおばけは人に干渉する力がなくなる」
「でも誰かは気づくんじゃないのかな?」
「そういう時はぁ」
そういう時は?
「魔法でちょっとボコボコにして弱ったところで『機械の不具合』とか『気のせい』にする」
「なんとも適当なんだな」
「でも機械っていうのは『よく故障するもの』だからね」
うーん……ものすごい大雑把な説明、というか本当にそんなので退治できるのかな。
「こんなので退治できるわけねーだろって思ってるかもしんねーが、こんなので退治できるぞ」
「うそだぁ」
「『いる』って思うからより強くなっちゃうけど、『おばけなんてないさ、おばけなんて嘘さ』って思わせてしまえばどんどん影響力がなくなって、最後には消えてしまう。とにかく、意識の上に成り立っている儚い存在なんだ」
「そんな童謡のような勢いで言われても、少し信じられないな」
「まあそのうちきっと慣れるさ。
そしてね、おばけとか人が使う魔法っていうのは、物に対しての影響は強いんだけど、他の人に対しては影響が小さいんだ。なぜかというと人の意識っていうのは自分自身への認識が1番強いからさ、自己認識は他者からの認識に打ち勝ちやすいんだ。だから魔法を使える使えないに関わらず自分についてよく知っている人はおばけとか他人の魔法の影響を受けにくい」
「つまり、芯が通ってる人とか自分が出来ることの範囲を理解している人はおばけよりも強いってことですか?」
「そうそう。ちなみに魔法が使える人は自己認識も強い傾向があるよ」
僕たちは一応魔法が使えないらしいのに、先生はどうしてここまで話すのだろう。何か得でもあるのだろうか。
「どうしてそんなに深い部分まで話すんですか?先生の話を聞く限りだとおばけは居ない、と考える傍観者を減らしてしまうんじゃ」
「君たちにもおばけ退治に協力してほしくって」
「魔法が使えなくてもそんなのできるのかい?私たちじゃおばけとお話しするくらいしかできないと思うんだが」
「お話してもいいけれど安全な状態を確保してね。危険なおばけの退治は先生だけでやるし危険じゃないおばけ退治は魔法が使える生徒たちにお願いしていることもあるんだけど、どっちにしてもその後でいい感じの噂を広める必要があるからさ。その噂を考えたり広めたりする仕事をする人もいなきゃだめなんだ」
「ではなぜそれをわざわざ僕たちに?」
「実は転校する前の面談で君たちに魔法をかけてみたらさ、魔法がなかなか効果しなくってビックリしたよ。強制していないから仕方ないけど、去年まで居た裏方をしてくれる高校生たちもそろそろ受験があるからって人数が減っちゃって。おばけからの魔法が効かない生徒じゃないとそういう裏方も難しいし、入学してくれて丁度よかったよ」
魔法が使えなくてもそういうことには関われるのか。ちょっと面白そうだし参加してもいいかな。
「僕、参加します」
「それは嬉しいなぁ。君は?」
「私も入ろう」
「よかった!それじゃあおばけ退治は風紀委員の仕事になってるから担任の先生に言って風紀委員にしてもらってね」
明日から風紀委員か、頑張らなくっちゃ。
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一連の話を聞いてみて、おばけというのはあんまり普段の生活とかけ離れた存在ではないというのがわかりました。今この日記を書きながら振り返ってみると、
・おばけは魔法が使える人の周りに集まる
・おばけや魔法は人の想像したものとして出てきて、想像されなくなったら消える
ということが重要そうです。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ということらしいです。
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「ああ、先生、この封筒を本部の先生から渡されていたんだった」
「ほいほい、引き継ぎの資料だね」
例の封筒の引き渡しがあっさり行われた。今の話もあり魔法を使うための触媒みたいな物かと思ったが、どこの学校にもある普通のものだったようだ。僕の場合は同じ市内だから学校同士で共有されてるんだろう。
「ふーん、本部の方に入学した時は魔法が効いてたって書いてある。だからおばけについてあんまり話されてなかったんだね。それじゃ、今日のタスクは終わったからもう好きにしていいよ、もう少し学校を回ってもいいし、帰ってもいい。明日の登校は一時間遅くなりそうだから学校のウェブサイトを確認してね。あと、転校生二人のクラスでのお披露目は明日に移ったから気をつけてね」
「はいはい、いつも通りね」
「うぃー」
「わかりました」
やらなくてはいけないことを終えた先生は書類仕事に戻ったようだ。
「……もしもし、もう一人の転校生くん、この地域ではこういう対応は普通なのかい?」
本部の方は気候も違うのだろう。もう一人の転校生は天気についてそう尋ねてきた。
「雪のことですか?」
「雪とか休校とか」
「まあ、あんまりたくさんではないですが、そんなに珍しいことでもないです」
「昼から晴れるらしいし明日は学校なくならないな」
それじゃ、登校初日から休校になってしまい少し予定とは変わってしまったけど、色々日記に書きたいことがあるし帰ろうかな。今書いたことも貼り付けてまとめなくてはいけないし。
「私は最寄り駅から四つ先の駅で一度乗り換えて帰るんだが、生徒目線の学校について話してはくれないだろうか?なに、違う駅なら途中まででいいさ」
それは僕も聞きたいな。また日記に書くことが増えた。
「お、聞きたい?俺は話すことが大好きだからなんでも聞け!」
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そして、学校案内を終えた後、在校生の方達ともう一人の転校生と話をしながら帰ってきました。この人たちと友達になれたらといいな。いや、なれたら、という少しずれていて、なぜなら、
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「そうだな、学校で必要な知識は先生が教えてくれたかもしれない。でもな、先生からしたらどうでもいいことも生徒にとっては重要なんだよ」
四辻くんは本当ににおしゃべりで、いくつもの話をまとめて話すから質問をする暇がなかった。
「購買のパンはな、旨いし安いから売り切れてることもあってな、昼飯にするなら朝のうちに買っといた方がいいぞ。パンの他にもコンビニ弁当とかちょっとしたお菓子とかカフェオレとか売ってるから腹が減ってもなんとかなる。中等部までは給食もあるけどな」
とか
「ほとんどの先生が部活か同好会の顧問だし、部活の他に委員会とかクラス担任とかを受け持ってる人もいるから放課後でも忙しい。ああそういえば今朝も雪の対応で大変そうだったな」
とか。そして今の話題は、
「うちの部活はテニス部と吹奏楽部が強くて何度も全国に行ってる。ただ、今から練習してもあと三年しかないから経験者じゃないと無理かもな。俺はテニス部なんだけど二人とも部活とかなんかやってた?」
「いえ、僕は陸上部にいました」
テニスもオーケストラもやったことがない。やっていたとしてもテニスコートがない学校もあったのでやめていたかもしれない。オーケストラも転校のたびに楽譜を覚えたりするのが難しいと思う。陸上部はほとんどの学校にあり、大会とかにはあまり出ていないが、それでも走っている間は気分がよかった。
「んー、残念ながらただのバドミントン部員だったなぁ」
全部面白そうだけど、これからの中学の三ヶ月と高校の三年の間も、陸上部を続けていたいとも思っている。
「そりゃ残念。ま、掛け持ちもできるからテニス部も考えといて。……(チラッ)」
「……私は運動部じゃなくて茶道部よ」
そんなこんなで駅に着いた。駅の構内でも車両の中でも列車の音と通勤ラッシュのサラリーマンたちのせいで会話が進まなかったが、メッセージアプリのアドレスも交換してもらった。聞きたいことが出来た場合にどこでも聞くことができるのはものすごく心強い。
そうしてもう一人の転校生は四つ目の駅で、四辻くんは五つ目の駅で乗り換えのために電車を降りた。ただ鞄を置いてスマートフォンをいじっていただけではあったが、四辻くんが降りてから空気の動きが鈍くなる。ちょうどサラリーマンたちも降りていってしまい静寂が際立つ。
上村さんも僕も自分からコミュニケーションを取る方ではないため気まずい。なにか話しかけることはないだろうか。そうだ、家はどのあたりにあるのだろうか。僕はこのまま三駅ほど進めば家の最寄り駅だが、上村さんはどこなのだろうか。路線が同じなら少し気になる。
「上村さんの最寄り駅ってどこですか?」
「 ?」
「え?」
車両内はうるさかったため、どちらの言葉も伝わっていないようだ。少し大きめにはっきり声を出す。
「あの、上村さんの、最寄駅って、どこですか!」
「ああ、最寄り駅?あと、三駅よ!」
最寄りの駅が一緒だったようだ。もしかして隣の小学校だったりするのかもしれない。それに、地域が近いと話題ができる。
「最寄り駅、一緒なんですね」
「うちの学園って市内の色々なところから通えるじゃない、でも同じ学年に駅が一緒だった人はいなかったわね。私は月園中央小だったけど、小学校はどこ?」
「月園西です」
「隣ね。学園には月園中学校から来たの?多分中学校の校区もあのあたりでしょう」
「いえ、市内のいろんな学校を回ってました」
「どれくらいの数の中学を回ってたの?」
「全部で十一校で、今回で十二校目になります。長期休みを挟んだら大体転校していました」
「よく即答できるわね」
「記憶力には少し自信があって。担任の先生の名前も答えられますよ」
「そう、それはいいわ。私は学園にしか行ったことがないから普通だと思うけど、学園の校舎とか雰囲気はどう?」
「そうですね、最近作られた校舎なだけあって廊下とか教室とかが綺麗でした。木造だったりすると大掃除しても汚れが取れなくて大変で」
「ふーん」
誰でも急に入ってきた異物には興味が引かれるのだろう。あまり喋っていなかった上村さんもエンジンがかかると話が続く。やはり転校生というガソリンは質が良く、もう駅に着いてしまった。
駅の出口の外で上村さんにさよならと言って別れようとすると、彼女は首を傾げていた。
「……月園西小ってこっちだったかしら?」
そういえば、小学校の校区ではなく、少し外れた月園中央小学校側だったかもしれない。家が遠くてあまり友達を呼ばなかったな。
「実は家は校区の外にあったんです」
「高校ならともかく、小学校で校区の外側から登校するのは珍しいわね」
「そうですね、どうしてだっけ」
「覚えてないの?記憶力いいんでしょう」
「う……」
上村さんは少し呆れているようだが、煽り立てたり責め立てたりしてはいなかった。やはり優しい人なのだろう。しかし少し遅れたが思い出すことはできた。
「あ、そうだ、小学校の高学年のあたりで月園中央から月園西に転校したんだった」
そうそう、小学校でも一回だけ転校をしていた。なんでだっけ?
「……あなたって中学三年生よね」
「……? そうですね」
「月園中央小学校に通ってたのよね」
「半分だけでしたが、そうですね」
今朝胸の辺りを見られていたように顔をじっと見られた。な、なんだろう。
「……誰?」
だ、だれ?今朝はそれなりに仲良くなったと思ってたのに、なんで?うーん。
「だって、私も六年前は月園中央にいたもの。あなたみたいな…………落ち着いた雰囲気の男子はいなかったわ」
「あっ」
そういえばそうか。中学校で同学年なのだから小学校でも同学年なのだ。しかし僕のことを覚えていないらしい。まあ僕自身は転校についてすら覚えていなかったけれど。でももう会っていない六年前のクラスメイトなど忘れてしまうのも当たり前だろう。
「体育とかパッとした特技はなかった?それこそ陸上とかかけっことか」
小学校低学年くらいの記憶からは、先生用の大きな机くらいしか思い出せなかった。
「なんていうか、ずっと先生の席の近くに居た気がします」
「うーん…………あっ、もしかしてずっと先生の机の横で泣いてたチビで泣き虫の子?」
「た、多分」
チビで泣き虫だったのか、僕……
「確か、すぐに馬鹿な男子たちにからかわれるから授業中は先生がそばで見てたのよ……って、自分のことなのに覚えてないの?」
恐らく実際に自分はそんな風だったのだろう。ただ絶対にそれだったかはわからないので、ちょっと断言できない。
「うーん……多分そうです」
「ふーん、あの私よりも背が低かったあの泣き虫も、もうすぐ立派な高校生なのね。時代の流れは早いわ」
そんなに何度も言われるほどだったかな……?
「うちの男子どもは馬鹿もいるけどみんな配慮ができるから、こんな時期の転校生でも仲良くしてくれるわ。最初の方は物珍しさで囲まれたりするかもしれないけどね」
「そうですか……」
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そう言ってくれてとてもほっとしました。
そして、上村さんと別れて帰ってきました。駅から家までの帰り道で同級生と話すのは去年の三月ぶりで慣れませんでしたが、小学生の頃みたいに楽しかったです。
先生が言っていたおばけや友人関係含めて、明日から始まる新たな学校生活は忙しくなると思ってるし、そしてそれ以上に楽しくなるといいな。
続く
おはようございます!セミヒトリです!
ようやく一章がまとめられた……!長かった……!始めたのが昨年の10月くらいだから半年で終わりました!
期間が空いてしまった理由なんですけど、ちょっと予定があって忙しかったのと、区切りがつかなかったんです。許してください……前回の半分くらいの遅れなので……
(一転して元気になる作者)そして、ここから短編的な構成が始まる予定なので、ぜひ楽しんでいってください!わくわく
(とりあえず一章の物語まとめ直そうかな)




