第一章-① ある冬の日
「……誰?」
目の前の少女に、私は思わず聞き返した。
「あぁ、私は今学期から中学三年生として編入する、いわゆる転校生だよ」
ニット帽の少女は答えた。
中学三年生ならば、同学年である。接点があるので邪険には扱わないでおこう。
「……同じ学年なんだ」
「君も中学三年生なのかい?」
「そうよ。クラスは?」
「三組らしいが、まだどこに教室があるか知らなくてね、それよりも、さっきの二つの不幸とやらは何と何なんだい?」
とても馴れなれしいくて回りくどい口調 —不思議とヤな感じはしない— だったせいで二つの不幸、というのがさっき口にした”踏んだり蹴ったり”の”踏んだり”と”蹴ったり”を示していると気づくのに五秒かかった。ていうか教室わからないのにこんなこと聞いてくるのか。
「……この天気の中登校させられたことと、」
ほら あれ、と張り紙を指し示すと、少女は壁に寄り、目を凝らしてうーむ、と小さく声を漏らした。
「今日問井さんという方に学校の案内をしてもらう予定だったのだが、本日いらっしゃらないのは雪の為か」
「問井先生?!」
「ん?問井さんがどうかしたのかい?」
どうしたも何も、校舎の改修工事で天井の張り替えをしてる、とか夜中に黒猫に餌やりしてる、とか人体模型に話しかけてる、という噂が立ってたりする、(噂立てた奴夜中まで学校に残ってたんだろうか)とにかく、変なことで有名な問井先生が、転校生の案内だって?
「簡単に言うと、問井先生は変な人なのよ、学校の案内を任せられるとはとても思えないような」
「ほーう?」
少女は問井先生に興味を持ったようだが私は気にしたくないので話を切り替える。
「いつ問井先生が来るか分からないけど待つつもり?」
「うーん、どうしようか?」
少女の口調は相変わらず、ニヤニヤと形容ができるくらいには口角も上げて話してはいるがとても困っているようだった。私が同じ境遇であればとても困っているだろうし少しくらい先生を探すのを手伝うのもやぶさかではないが、問井先生には会いたくない。
二人で唸っていると、本日二人目の知らない声をかけられた。黙って突っ立っていたら話しかけても問題なさそうな空気になっていたようだ。
「あのー、すみませーん、えっと、問井先生がどこにいらっしゃるのか知りませんかー?」
またか、と振り向きつつ、だいぶしゃちほこばった声に質問を返す。
「あなた、転校生?」
「え?あ、はい、そうですが……?」
目の前にいた少年は、なぜそんなことを知っているのか、なぜ確認されたのか少し驚いているようだったが、私は先生に確認しなきゃいけないことが増えて頭が痛い。その少年は印象に残るような特徴は持っていなかったが、雪まみれなことも相まって悪天候の中、迷子になった子供のような雰囲気だった。
ん?聞き馴染みならぬ見馴染みのあるストラップのように小さなノート、それもよくあるリングで綴じられたメモ帳ではないものを、少年は身につけていた。巷では有名で便利な文房具だったりするのだろうか。
「えっと……」
まじまじと少年の胸ポケットを見ていると、やや気まずそうに声を出す。失礼だったと慌てて顔を戻して30秒前と同じことを話す。
「ええ、あなたが探している問井先生は学校には居ないと思うわ、ほら、これ、」
「ええっ」
同じやり取りを繰り返したが、反応はだいぶ違った。こっちは本当に慌てた様子だが。どちらにせよ、2人とも困っているしたった今助けようかと思った手前、すぐ見捨てては後味が悪い。溜息と共にスマホを出して電話をかける。
「はあ……問井先生」
一連の流れを傍観していた2人が口と目を大きく開いて絶句する。
「「えっ」」
「転校生の担当してるんですか?」
問井先生など敬意など一ミリも混ぜないバッサリとした言葉で十分だ。どうせあちらも気にしてはいない。
『あ、村上ちゃん、そうなんだよー、僕はやれないって言ったのに押し付けられちゃってねー、どうしよっか』
「そんなことはどうでもいいんで、今、何処にいるんですか?転校生の人たち待ってるんで早く学校に着いてください、そして仕事してください」
『ごーめんごめん、もう間に合わなさそうだから学校案内頼んでいい?』
溜め息を噛み殺しながら再度確認する。
「あと、何分で、学校に、来れるんですか」
『え?もういるよ?』
「は?」
流石に顔が引きつった。
「じゃあ先生は学校にいるのに、学校にいる生徒を待たせてるんですか?」
『あー、まぁ、そうなるね、でも今学校のために働いてるんだけど…』
「何やってるんですか!初対面の人を待たせて恥ずかしいと思わないんですか!」
『転校生達なら面接とテストの担当だったから面識あるよ』
「それだけだろ!!」
『まあまあ、落ち着いて、ほら吸ってー、吐いてー、ゆっくりー、吸ってー、吐いてー』
ピキっ
すーーっ
「生徒待たせてるんだから早く戻ってきて案内をしてください!」
『今のは語尾の!を取ってって意味だったんだけどなー』
取れるわけないだろう、こんなときにこんな早口言葉みたいなのを平気で言う奴を相手してたら。
もういいや。話すのも疲れるからこちらも言いたいことを言って切ろう。
「だいたい、私わざわざ校舎の中で電話かけてるんで!何か問題になったら他の先生になんとか言っといてくださいよ!」
『僕だって学校の中からかけてるよ』
「先生は別にいいでしょ!」
ぶつっ
ふぅ、スカッとした。ただ何か忘れているようでスッキリしない。
後ろで放置していた2人からの視線に気がつき、そしてそれが自分に向けられていて、少し冷静になる。頬が赤いのは寒いせいだ、きっと。
「ま、まあ、聞いてたとおもうけど、私が案内することになったから」
「は、はい」
「えっと、まずは何処に行くんだい?」
しまった、先生にどこの案内をする予定なのか確認しておけばよかった — あくまで、先生がどこを案内するのか、を。もっというなら先生が今どこにいるのか、も。
「……2人とも中等部三年でしょ?じゃあここからそこまで離れてないし、まずクラスのホームルーム教室に行きましょう」
続く
おはようございます!私の業界ではいつでもおはようございますなので今後もおはようございますで行きます!おはようございます!
1週間ちょっと空いてしまいましたが、このペースで続けられたらいーなぁみたいにゆるーく活動していく予定です!
ゆくゆくはラノベくらいの分量で一回完結させてゆくゆくは……むっふっふ♪
と言う夢でした!(実話)くそう!




