表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2章: 失われた文明の断片


200万年前、現在のハワイ諸島の遙か西方に位置する、広大で手つかずの太平洋の海域は、まばゆいばかりの青い光に満ちていた。そこは、豊かな生命が脈打つ、まさに生命の揺りかごであった。しかし、その深部には、私たちの知る歴史には存在しない、しかし確かに息づいていた文明の微かな光が、水底で瞬いていた。それは、海洋の恵みを最大限に活用し、独自の発展を遂げた、高度な知性を持つ存在の証であった。彼らは、後に「ネプチューン号」のクルーが発見することになる、驚くべき特徴を持つ人類だった。

ある日、平和な海は突如としてその様相を一変させた。地球の歴史を揺るがす大規模な地質イベントが、予測不能な形で発生したのだ。それは、まさに天変地異と呼ぶに相応しい出来事であった。海底は激しく隆起し、あるいは深く陥没し、巨大な津波が空を覆い、すべてを飲み込もうと押し寄せた。地殻の深い部分から響く轟音は、彼らの文明が築き上げた、精密な音響探知システムにも混乱をもたらした。人々は、未曾有の災害に直面し、その場に立ち尽くすしかなかった。

この予測不能な地質変動は、瞬く間に彼らの文明を巻き込み、深淵へと飲み込んでいった。彼らの都市は、強大な地殻の力によって押し潰され、海底へと沈降していく。崩壊する建物、水中に広がる悲鳴。しかし、その混乱の中で、彼らは最後まで、その高度な知性を失うことはなかった。彼らの脳は、この絶望的な状況を瞬時に分析し、未来へのわずかな可能性を模索していたのかもしれない。

この未知の人類は、肉体的特徴においては、初期の人類であるホモ・ハビリスに酷似していた。彼らの骨格は華奢で、直立二足歩行に適応していた。しかし、決定的に異なる点が一つあった。それは、その頭蓋骨の驚くべき大きさである。彼らの頭蓋骨に残された痕跡は、現代人と比べても遜色ない、あるいはそれ以上の高度な知能を示唆していた。彼らは、私たち人類が築き上げる文明とは異なる形で発展し、海洋環境に特化した独自の技術と文化を持っていたのかもしれない。彼らの都市は、おそらく海洋の資源を巧みに利用した独特のものであり、深海の圧力にも耐えうる素材や、音波を用いた通信手段を発達させていた可能性すらあった。

彼らは、地質学的な大変動により、繁栄の頂点で、突如として海へと沈降していった。彼らの悲劇は、しかし同時に、奇跡的な保存へと繋がる。太平洋の深海、特にマリアナ海溝フォアアーク盆地の特殊な堆積層は、彼らの遺体を完璧に近い状態で封じ込めたのだ。高圧と低温、そして酸素の欠乏という極限環境は、腐敗の進行を抑制し、彼らの肉体と、そして何よりもその骨格を、まるで時が止まったかのように、数百万年後の未来へと手渡すためのタイムカプセルとした。

彼らの存在は、後の世界に何らかの形で影響を与え、数百万年後の未来に、深海の底で再発見される運命にあった。この地質イベントは、彼らの痕跡を奇跡的な保存状態で深海底に封じ込め、人類の歴史に対する私たちの理解を根底から覆す、驚くべき発見へと繋がる序章となる。深海に葬られた過去は、時を超え、未来の探求者たちによって再び光を見ることになるのだ。それは、人類の歴史が、我々が信じてきたよりもはるかに複雑で多様なものであることを示唆する、まさに「失われた文明の断片」だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ