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世界平和を実現する為のざっくりとしたアイデア ~地政学や経済学などを応用して

 ■はじめに 世界は少しずつ平和になっている

 

 日本人なら誰でも知っていると思いますが、その昔、日本は様々な国々に分かれていて、なおかつ頻繁に戦争をしていました。ですが、現代ではそのような事は起こっていません。もし仮に「千葉県と東京都が戦争を始める!」なんて事を言ったら、きっと頭がおかしくなったと疑われるでしょう。

 これはアメリカでも同様で、その昔は国内では戦争をしていましたが、今では起こる可能性は限りなく低いです。

 つまりは“複数の国々が融合して一つになった”という事ですね。今のところはまだ国々の集まりであるEUは、或いは融合される過程にあると言えるのかもしれません(一つの国になる道のりはまだまだ先が長いと思われますが)。

 このような現象が起こった背景には、恐らく“情報技術”、“交通技術”の発達があるのではないかと思われます。列車や車の登場、それに伴う鉄道網や道路など、交通インフラの整備によって、社会と社会の結び付きが強くなったのです。

 当たり前ですが、国と国が遠く離れて隔たっていればまず戦争は起こりません。反対に国と国が強く結び付き、“一つの国”と見做せる程になった場合も、やはり戦争は起こらなくなります。

 という事は、戦争はその間……、国と国が接している場合のある特殊な条件下においてのみ発生するのです。そして、その “戦争が起こる特殊な条件”は、少しずつではありますが減って来ています。前述した日本やアメリカなどの事例がそれを示しているでしょう。

 

 ――では、どうしてそのように戦争は減って来ているのでしょうか?

 

 それは“戦争を行う”のが弱い方略であり、“平和”が強い方略だからです。これは紛争が頻繁に起こっている地域で社会があまり発展していない点からも明らかです。強い方略がより多く生き残るのは当然。従って長い時間をかければ、情報技術や交通技術の発展によってより社会と社会が結びつき易くなるのに伴って、戦争は減っていくのではないかと思われます。

 

 がしかし、それまでに戦争によって多くの尊い命が失われ、社会的損失を出してしまうでしょう。ならば、もう少しその時間を短縮できた方が良いのは言うまでもありません。

 

 漠然とした勘のようなものなのですが、僕は随分前から「戦争は減らせるのではないか?」と思っていました。ただ、それはあまりに漠然とし過ぎていて明確な形を帯びてはいませんでした。先に述べた“情報技術”や“交通技術”なども含めて、幾つかの要因を出す事はできていたのですが、十分ではありません。

 なので、小説やエッセイなどで一部のみを取り込んでいたくらいだったのです。が、最近になって地政学を多少は学んだ事もあって「メインテーマとして扱えるのではないか?」と思えるくらいのアイデアが浮かびました。或いは“世界平和”の実現を早められるかもしれません。

 正直に告白するのならば、まだ“粗いアイデア”の段階で、より具体的な方法としてはまとめ切れていないのですが(そもそも膨大な仕事量になるので、仕事しながらでは無理かもしれません)、誰かの役に立つのではないかと考え、今回それを書いてみる事にしてみました。

 

 ■何故、簡単には平和に至らないのか?

 

 “平和”は強い方略だと説明しましたが、そうだとすると疑問が生じます。何故、平和に至るのには時間がかかるのでしょう? これは実は“合成の誤謬”で説明が可能です。

 例えば、世の中のほとんどの人が平和的行動を執った場合、社会全体にとってはその方が大きな利益になります。治安が良くなればそれだけ住み易くなりますし、また身を護る為の余分なコストも必要なくなります。信頼関係があれば取引はよりスムーズになり、円滑に商談も進み、それで節約できた資源をもっと別の有益な何かに使えるようになるでしょう。

 がしかし、“個人”に注目するのなら必ずしも合理的とは言えなくなります。何故なら、盗みや強盗をすれば、手っ取り早く利益を得られるからです。わざわざ真面目に働く必要はありません。ただ、それを社会の多くの人がやってしまうと治安が悪化し、社会全体も、そしてその人自身も不利益を被るようになってしまうのです。

 つまり、個々人を観れば合理的な行動であったとしても、社会全体にとっては不合理な行動になるのです。このような現象を“合成の誤謬”と呼びます。

 なかなか世界が平和な状態に至らないのも、これと同じ原理だと考えるべきでしょう。戦争をしない方が人間社会全体にとっては合理的ですが、各々の国家にとっては必ずしもそうではないのです。

 これを変え“、人間社会全体にとっての合理的”な行動をしてもらう最もシンプルな方法は、国に対しての“警察”的な組織を生み出す事です。かつてかの天才物理学者のアインシュタインもそのような提案をしたそうですが、国を取り締まれるような絶大な力を持った組織を作り出せるのかどうかがまず分かりませんし、仮に作り出せたとして、そのような組織が暴走をしないようにコントロールできるのかどうかも分かりません。ですから、この考えは、今のところはまだ現実的ではないでしょう。

 次点の策として、「何処かの国が戦争を始める、または始めそうであったのなら、様々な国々で協調し、戦争を始めた国に圧力をかけられる体制を作り出す」といったものがあります。これは既にある程度は実現していると観るべきでしょう。しかし、決して十分ではありません。

 ロシアによるウクライナ侵攻を受け、EU各国はウクライナを支援しました。しかし、EUの代表国の一つとも言えるドイツの行った支援は、“ヘルメット5000個の供与”といった程度のものでしかありませんでした(『参考文献 あの国の本当の思惑を見抜く地政学 178ページから』 ただし、その後、パトリオットの供与をドイツは行っているようです)。どうしてこのようにドイツが弱腰だったのかと言えば、ロシアにエネルギーの供給を依存しているからだと言われています。

 もしロシアがドイツに対して厳しい態度に出れば、天然ガスや石油といったエネルギー資源の供給を遮断されてしまうかもしれません。

 ドイツはそれを恐れたと言うのですね。

 

 ところで、ドイツは再生可能エネルギーへの転換を目指していると言われています。その所為で企業の外国への移転を招いてしまっているので、失策であると評価される場合が多いようですが、このようなドイツの事情を鑑みるのなら、長期的な方向性としては“間違っていなかった”と言えそうです。もし、再生可能エネルギーが普及し、エネルギー自給率を上げる事に成功していたなら、ロシア依存からドイツは脱却できていたのですから。

 もちろん、やり方はあまり上手くなかったかもしれません。

 太陽光線が弱いドイツは、弱光下でも発電効率があまり下がらない太陽電池の技術発展を待つべきだったかもしれませんし、各企業の負担を増やすというやり方も避けるべきでした。

 再生可能エネルギーを普及させれば、エネルギー資源の輸入によって国外に流出していた富が国内で回るようになりますし、通貨の循環を考慮した政策にすれば、「支出は増えるが、収入も増える」という状態を作り出せる為、税金で再生可能エネルギーで増えた分を賄う事が可能なのです(原理は後で説明します)。

 

 ■サプライチェーンは戦争抑止に利用できる

 

 さて、以上の話を踏まえた上で考えてください。

 もし仮にです。ドイツが再生可能エネルギーの導入により、エネルギー自給率を高められていたとしたら、果たしてロシアによるウクライナ侵攻は起きていたでしょうか? 断言はできませんが、少なくとも起きなかった可能性はあったかもしれません。ただ、ドイツ一国では影響力は限定的ですから、あったとしても可能性は低いでしょう。ですが、もし再生可能エネルギーが人間社会全体に普及していたとしたらどうでしょう? ロシアは資金を調達できず、ウクライナ侵攻を断念していたかもしれません。

 (追い込み過ぎるのも問題なので、もしロシアが経済的に困窮してしまったなら支援の手を差し伸べる必要もあるでしょうが)

 2025年5月現在、アメリカ・トランプ政権が関税政策を行っています。これは自国産業の保護を目的とした政策ですが、このような政策を行った場合、過去には戦争が起こってしまっているので、「第三次世界大戦の引き金になるのではないか?」という懸念の声が上がっています。ですが、少なくとも今のところは、その心配は少なそうです(まだ分かりませんが)。

 これは恐らくはサプライチェーンの多様化によって各国がある程度はリスクの分散に成功しており、更にアメリカも“自国産業の保護”と銘打ちながらも、サプライチェーンを断たれた自身への被害が大きく、政策が変更される期待が高いからでしょう。トランプ政権は政策をコロコロとよく変えますから、少し耐えれば状況が変わる可能性があるのです。

 これはつまりはそれだけ各国が強く結び付いており、かつ柔軟性が高くなっている事を意味しています。そして、それが“戦争抑止”に役立っているのです。

 これは国や企業がリスク分散や利益追求の結果、そのようになっているだけに過ぎませんが、もっと積極的に“サプライチェーン”を戦争抑止に応用する事もできるのではないでしょうか?

 戦争が起こりそうな地域、戦争を起こしそうな国を分析し、それら地域や国に技術や資源が集中しているようなら、代替手段の研究や他地域での開発によって依存度の分散化を促し、経済的軍事的な強みを奪う事によって戦争を回避するのです。

 例えば、ウクライナです。

 ウクライナは地政学的には、ロシアとEUの緩衝国家に位置すると分析されます。このウクライナは近年になってEUに接近しており、つまりは“ウクライナ側の緩衝国家”になりかけていました。EUにとってはこの方が安心かもしれませんが、当然ながらロシアにとっては脅威となります。また、ウクライナには冬でも使える不凍港があり、かつ鉱物資源も埋まっているとされているので、魅力的でもあります。

 その為、ロシアには侵略によってウクライナを“ロシア側の緩衝国家”としようと(または併合)する理由があり、しかもロシアは伝統的に領土に固執する性質を持ってもいるので、実は十分に侵略を警戒すべき状態にあったのだそうです。ロシアによるウクライナ侵攻を予想していた人は少ないそうですが、一部の地政学者は随分前から警鐘を鳴らしていたらしいのですね(参考文献『あの国の本当の思惑を見抜く地政学 社會部部長 サンマーク出版 150ページから』)。

 仮に世界中がエネルギー資源への依存度を弱め、ロシアの“強み”を奪いつつ、ウクライナの中立性に配慮し、経済的にロシアを支援していたのなら、恐らくはウクライナ侵攻は事前に防げていた事でしょう。

 

 このような試みを行う為には、戦争が起こりそうな地域の分析が必要になって来ます。それには地政学を用いるのが恐らくはベストではないかと思われます。

 その為にまずは地政学がどんな発想で国家を考えるのかという点から説明をします。

 (正直に告白するのなら、地政学の勉強が十分であるという自信がないので、興味を惹かれた方は地政学の書籍などで自ら勉強をされた方が良いかもしれません)

 

 ■“海”のあるなしで国家を分類する 海洋国家と大陸国家

 

 地政学において最も重視されている地形は“海”です。何故なら、海は巨大な自然の要害であり、“海のあるなし”によって防御力が著しく異なって来るからです。

 例えば、海に護れた島国である日本はほとんど他国から征服された事がありません。イギリスも一度しか征服された事がなく、アメリカにいたっては攻められた経験すらも一度しかないのです(『参考文献 あの国の本当の思惑を見抜く地政学 86ページから』)。

 その為、海に囲まれた国は他国からの侵略にそれほど神経質にならずに済み、同じ理由から同盟関係も結び易いのです(仮に裏切られたとしても被害を低く抑えられる)。また海は自然の要害であるのと同時に便利な交通ルートでもあります。最もエネルギー効率に優れた運搬手段である船を利用して、海に面した国となら何処へとでも繋がりを持てます。

 対して大陸での支配権が強い国は、土地が広く、資源などに恵まれているケースが多い反面、(当たり前ですが)地続きで他国と繋がっている為に、常に“いつ攻め込まれるか分からない”という緊張状態を強いられる事が多くなり、同盟関係も希薄、そして他の国に阻まれる為に交易範囲も限定されます。

 海のあるなしによって、このような大きな違いが生まれる為、地政学では国家を大きく海洋国家と大陸国家に分類します。

 アメリカ、イギリス、日本、台湾などが代表的な海洋国家であり、ロシア、中国、インドなどが大陸国家になります。

 

 戦争が起こる事を警戒するのなら、防御面に弱く、資源に恵まれている場合が多い大陸国家であるという事になるでしょう。

 

 ■緩衝国家と主導国家

 

 国と国が接すると高い緊張状態が生まれます。その為、それを防ぐ為に“緩衝国家”が求められます。

 しかし、この緩衝国家がどちら側に属しているでかが重要で、仮に緩衝国家が相手国に属してしまったなら、自国にとっては脅威となってしまいます。

 前述した、ロシアにとってのウクライナは当にこのような事例で、接する国によっては、戦争の危険性が大きく増す事になります。緩衝国家が中立を保てるのであれば、或いはそれがベストかもしれませんが、レアケースだと考えられます。立っている鉛筆は直ぐに倒れてしまいますが、これと同じで、“中立の状態”というのはとても不安定なのです。少しの刺激で簡単に傾く。

 その為、緩衝国家は非常に攻め込まれ易い特性を持っていると言えます。

 なので、緩衝国家か否かという点は、戦争のリスクを判断する上で一つの大きな指標になると考えられます。ただし、緩衝国家というのは相対的に決まるもので、“分類”と言うよりは属性の一つと見做した方が良いでしょう。

 例えば、日本はアメリカと中国の緩衝国家と言えますが、同時に主導国家であるとも言えます。

 

 ■地政学の妥当性について

 

 ここで説明する“戦争を抑止する”アイデアは地政学をベースにしようとしています。その為、地政学自体の妥当性についても言及しなくてはなりません。

 地政学に自然科学ほどの信頼性があるかと問われたなら「ない」と答えざるを得ないでしょう。何故なら、自然科学と呼ぶには検証の為のデータ量が少なすぎるからです。地政学は恐らくは形式科学に分類すべき分野で、それが効果的であるのは、或いは“人々がそれを信じている”からであるのかもしれません。

 ただし、“正しい証拠”と見做せるデータが全くない訳ではありません。

 例えば地政学において、防御面で恵まれている海洋国家と海洋国家は同盟関係を結び易いと説明しましたが、日本と台湾は正式には、外交関係を結んではいませんが、非常に良好な関係を築いていて、実質的には同盟関係を結んでいると言ってしまっても過言ではない状態になっています。それに対し、大陸国家である韓国は日本との関係があまり芳しくありません。

 台湾も韓国も日本の隣国である上に、植民地支配されたという似たような経緯があります。そしてこれは予測になりますが、恐らく日本は両国を“日本側の緩衝国家”にしようとしていたのではないかと考えられます。日本は両国に対し教育インフラに力を入れて国力の強化に努めていましたが、これはある程度の国力がなければ諸外国に対抗できず、緩衝国家として役に立たないからでしょう。

 ですが、海洋国家である台湾は比較的戦禍に巻き込まれ難かったのに対し、大陸国家である韓国は直に戦禍に見舞われてしまいました(日本だけではなく、韓国は中国やロシアといった外国に翻弄された経験があります)。日本への感情に大きな差が生まれる事になるのは自明ではないでしょうか?

 つまり、海洋国家と大陸国家の特性によってこのような差が生まれたと説明できるのです。

 その他、大陸国家である中国やロシアも領土への拘りが強いですが、これも“防御面に弱い”という特性の裏返しであるという説明が可能です。

 

 地政学は完全とは言い切れませんが、それでも国家と国家の関係を理解するツールとして十分に有効であると判断できます。

 

 ■地政学を用いて“戦争の起こり易さ”を分析する

 

 それでは地政学をベースにして、戦争が起こり易い地域を考えていきましょう。

 戦争は複数の国の間で起こるものですが、それでは煩雑になってしまうので、“攻め込まれ易さ”にポイントを絞って観ていきます。

 まず、第一の条件です。

 先に述べた通り、海洋国家と大陸国家では、“攻め込まれる”リスクが高いのは大陸国家の方です。

 次に、第二の条件です。

 十分な力を持っている主導国家よりも、国力で劣り、隣接する国にとって脅威となる緩衝国家の方が攻め込まれ易くなります。

 まとめると、大陸国家でかつ緩衝国家の場合において、より“攻め込まれる”リスクが高くなるという事になります。

 ただし、もちろん条件はこれだけではありません。第三の条件として、資源の有無や地理的な有用性なども考慮しなくてはならないでしょう。大陸国家で攻め込み易くても、メリットがなければ侵略をするはずがないのは自明です。

 また緩衝国家で資源や地理的な優位性があったとしても、軍事力が高く好戦的な敵対国が隣接していなければ攻め込まれるリスクは高くなりません。これを第四の条件とします。

 では、実際に今、ロシアに攻め込まれているウクライナにこの考えを当て嵌めてみましょう。

 

 まず、ウクライナは大陸国家なので第一の条件を満たします。そして、EUとロシアの“EU側の緩衝国家”と見做せるので、第二の条件も満たしています。また鉱物資源が埋まっていると推測され不凍港もあるので第三の条件も満たし、ロシアは好戦的で軍事力の高い国なので第四の条件も満たします。

 

 ――つまり、ウクライナを分析すると、極めて“攻め込まれ易い”という結論になるのです。

 

 他でも試してみましょう。

 現在、中国による軍事侵攻がテールリスク(突発的なリスク)として懸念されている台湾にこの分析手法を当て嵌めます。

 

 まず、台湾は海洋国家なので第一の条件は満たしません。が、アメリカと中国の“アメリカ側の緩衝国家”と見做せるので、第二の条件は満たします。資源にはあまり恵まれていませんが、重要な海路に面しており、半導体技術などが進んでいるので第三の条件は満たしています。中国は周辺諸国と領土問題を抱えていて軍事力も高いと予想されているので、第四の条件は満たしているとしても良いでしょう。

 

 こう考えると、台湾は比較的“攻め込まれ易い”位置にあると言えます。

 ただし、だからこそアメリカ軍が周辺海域に常駐しているのですし、また「中国の軍部は腐敗しており、戦争できるような状態にない」という見解を持っている人もいるので、それを信じるのであれば攻め込まれるリスクはもう少し低く見積もるべきかもしれません。

 

 ■戦争抑止の手段

 

 分析方法が明確になったので、今度はどのようにすれば戦争を抑止できるかを考えてみましょう。

 既にアメリカが中国に対して行っているように、軍事力を抑止力として用いるのは有効ですが、一部の国の国力に依存してしまう事になる上に政権によってどのように体制が変化するのかが不明の為、これだけでは安定しません。なので、二重三重の抑止手段が望まれます。

 まずは攻め込まれる可能性が高い地域の資源、逆に攻め込む可能性が高い国の資源に着目します。

 エネルギー資源が最も重要なので、仮にエネルギー資源だとしておきましょう。

 攻め込まれる地域にエネルギー資源が豊富であった場合でも、攻め込む国にエネルギー資源が豊富であった場合でも、戦争を促す要因になってしまいます。エネルギー資源を手に入れる為に戦争をしかけるかもしれませんし、戦争をしかける国がエネルギー資源を外交カードに使って侵略を認めるように国際社会に圧力をかけるかもしれません。

 実際、ロシアの豊富なエネルギー資源を、“核兵器以上の最大の武器”とまで評価している人もいます。

 なので、再生可能エネルギーの開発によってエネルギー資源に依存しない状態を作り出す事には戦争抑止の効果が期待できます。

 

 問題は“それが可能かどうか?”という点でしょう。EUとロシアを例に取るのなら、現状はこれにそれほど成功してはいません。それには幾つかの要因が考えられます。

 まず、EU諸国はあまりに性急に再生可能エネルギーの普及を行おうとし過ぎました。例えばヨーロッパは全般的に太陽光線が弱いので、弱光下でも発電効率があまり下がらないペロブスカイト太陽電池の技術発展を待つべきでしたし、送電網のコントロール技術もまだ不十分です。そして、そもそもまだ各国は再生可能エネルギーを効果的に普及できる政策を執ってはいないのです。経済成長の仕組みを考えるのなら、もっと効果的な方法があります。

 それを考える為に、まずはGDPの計算式を観てみましょう。

 

 消費+投資+政府支出+(輸出-輸入)

 

 再生可能エネルギーを普及させれば、投資や政府支出が増え、エネルギー資源の輸入が減るので、この計算式に当て嵌めるとGDPを増やす効果があると簡単に分かります。

 しかし、それをやろうとすると一時的にしろ企業や個人への負担を増やす事になりかねません。しかしこれには回避方法があります。

 経済成長は、生産性向上と新生産物(新産業)の誕生で成り立っています。生産性向上で余った労働力を、新たな生産物の生産の為に使う事で経済成長が起こるのですね(同じ生産物の生産量が増える場合でも経済成長は起こりますが)。

 例えば、お米だけを作っている農家に生産性の向上が起こって労働力が余ったとしましょう。その労働力を用いて野菜を作り始め、それが売れたならその分だけGDPは増えます。つまり、経済成長します。

 この時、野菜に関する取引が増えますから、通貨需要が増えます。その分ならば、通貨供給が可能になるので、国は通貨を増刷できる事になります(因みに、これを“成長通貨”と呼びます)。

 そして、“増刷した通貨”を予め国民に供給しておく事も実は可能なのです。先の事例では、野菜を買う為の通貨を先に国民に供給できるのですね。もちろん初めの一回だけですが、それ以降は支出が増えた分、収入も増えるので大きな問題はありません(もちろん、収入の増減には個人差がありますが、税制でカバーは可能でしょう)。

 これと同様の方法は、もちろん、再生可能エネルギーでも活かせますし、他の生産物でも可能です。

 例えば、中国はレアアース市場でかなりのシェアを占めていて、これにより経済的な優位性を持っていますが、リサイクル技術の活用や他の地域の開発によって、この優位性を低くする事が可能です。

 もちろん、労働力が余っていなければ使えませんが。

 

 資源についてばかり述べて来ましたが、農業については、戦争抑止とはまた違った観点から“分散化”が望ましいと判断できます。今後、世界にどのような気候変動が起こるか不透明です。もし農業生産を一部の地域に集中させてしまったなら、その地域に災害などが発生した場合、世界中が飢える事になってしまいます。分散化をしておけば、これを予防できます。

 

 現在、日本は半導体産業を復活させようと工場を誘致したり造ったりしています。台湾に半導体産業を集中させてしまうと、中国が台湾に侵攻する動機を強くさせてしまうので戦争抑止の観点からも正しい試みと言えるでしょう。

 ……もっとも、官民癒着など、あまりよろしくない話もよく耳にしますが。

 単なる利権目的の政策ではなく、本物の産業に育ってくれることを願いましょう。

 

 なお、資源や技術ばかりに焦点を当てて来ましたが、“売り先としての依存”でも同様の効果があります。

 

 ■デジタル経済について

 

 ここでデジタル経済の特性についても少し述べておきます。

 あまり意識している人は多くありませんが、実物経済とデジタル経済は根本から性質が異なっています。あまりに膨大になるので、詳しくは専門の書籍を当たってもらうのが一番だと思いますが、“戦争抑止”にとって重要な特性がデジタル経済には二点ほどあります。

 一つはスケールメリットがあまりに大きい点です。

 デジタル化可能な商品は、コピーが容易で、ほとんどコストをかけずにインターネットを介しての販売が極めて広い範囲に可能なので、スケールメリットを活かし易く、ゲームや映画、その他ソフトなどの開発に莫大な予算をかける事が可能になっています。

 もう一つは、勝者総取りの性質がある点です。

 極少数の勝者だけが生き残り、企業が大規模化する傾向にあります。その為、マイクロソフトやGoogleなどが巨大なシェアを占め、独占禁止法などの法律違反になってしまうケースすらも増えています。

 そして、このような特性がある為、現在、巨大IT産業はアメリカに偏る傾向にあります。しかも、これら製品は各国の企業にとって必要不可欠なインフラに既になっており、もし仮にサービスを停止されたならその被害は甚大な規模になってしまいます。

 従って、アメリカがもしやろうと思えば、この優位性を政治的軍事的に活用できるのです。今のところはまだその兆候すらありませんが(ただし、既に情報はアメリカに抜き取られていると考えた方が良いでしょう)、何らかの対策を講じた方が良いのは言うまでもありません。

 (トランプ大統領なら、もし気付いてしまったらやりかねない…… と、思うのは僕だけでしょうか?)

 恐らく、現在、この対策を行っているのは中国だけです。独自のOSを開発し、外国製のソフトウェアをできる限り除外しようとしています。

 ……もっとも、それだって成功するとは限らないのですが。

 

 余談ですが、中国の情報産業はアメリカなどに対して友好的だという話を耳にした事があります。中国はある時、情報産業抑制政策を執り始めましたが、その背景には、アメリカに対して対抗したいと思っている中国共産党の思惑もあるのだとか。

 近年になり、中国は経済が不調の為か、情報産業への抑制を解き始めていますが、もしこの話が本当だとすれば“良い兆候”と言えるかもしれません。

 (いえ、あまり自信はないのですが……)

 

 ■その他の要因 文化、または国民一人一人の気質について

 

 今回は主にマクロ経済的な視点から、戦争抑止の方法を語って来ましたが、もちろん、他の観点もあります。

 よりディテールな観点から戦争抑止の方法を扱った書籍として『戦争と交渉の経済学 クリストファー・ブラットマン 草思社』を紹介しておきます。

 なお、この書籍では石油などのエネルギー資源が戦争の原因になっている点について説明されてあります(269ページ)。再生可能エネルギーの普及に戦争抑止効果が期待できるのが、ここからでも言えるでしょう。

 この書籍では、戦争が起こる原因として“不確実性”や“コミットメント問題”、“誤認識”を挙げているのですが、ロシアによるウクライナ侵攻においてもこれが原因となっている点が読み取れます。

 ロシアはウクライナが“EU側の緩衝国家”となる事を恐れていたのだと考えられますが、恐らくはEU側にとってみれば、ロシアに圧力をかけているつもりはなかったでしょう。自由と民主主義、そして資本主義経済下では戦争は必要としないからです。

 「資本主義経済を受け入れれば、社会はより豊かになる」

 プーチン大統領は「西側諸国はそのように言っていたが、それは嘘だった」といったような発言をしたそうです。が、もしその言葉が本心だったとするのなら、それは誤解です。

 何故なら、資本主義経済により社会が豊かになるには、暗黙の前提条件として、“ある程度、経済競争で勝つこと”があるからです。ロシアがこれを理解していないとは、EU側は考えていなかったのではないでしょうか?

 このような“齟齬”を取り除く事にも、恐らくは戦争抑止効果があるのではないかと思われます。

 また国家の最小単位である個人に着目する事にも戦争抑止効果はあるかもしれません。

 社会によってそこに暮らす人々の気性は大きく異なりますが、その研究を行っている人達もいます。

 『平気で暴力をふるう脳 デブラ・ニーホフ 草思社』

 『暴力の解剖学 エイドリアン・レイン 紀伊國屋書店』

 これら書籍では、例えば“魚を食べる事が暴力の抑制に役立つ”可能性について述べられています。日本は非常に暴力事件が少ない社会ですが、その原因は魚食文化ではないかというのです。

 (個人的には、日本は女系社会の影響が強い為、女性が“優しい男性”をパートナーに選び続けたことで幼形成熟が起こっている可能性も疑っているのですが)

 当然ながら、暴力性を減らし“穏やかな気性”にするアプローチは戦争を抑止する上でも役に立つでしょう。

 

 ざっくりとしたアイデアでしたが、以上になります(2025年5月)。

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