獏 Ⅳ最終話
このお話はフィクションです・
実際に物まねはしないで下さい
獏Ⅳ 最終話
「やっと見つけたぞ」
占い師の周りに物々しい警備服の男達が取り囲んだ。
「ついに年貢の納め時か」
「ああ、この航跡トレーサーが完成したからにはもう逃げられないぞ」
「そんなものを開発してまでわしの仕事を妨害するのか」
「もちろんだ、時間犯罪は重罪だ。お前は一体何人の人生を狂わせたんだ」
「狂わせたんじゃない元に戻したんだ」
「それは裁判所で言ってくれ。俺は犯罪者を取り締まるだけだ」
すると隊長格の男が前に出てきた。
「おい、獏とやらお前は何が不満でそんな犯罪をやってるんだ」
「隊長、犯罪者の尋問は我々のしごとじゃありません」
「だまっとれ、俺はいまこいつと話しているんだ」
睨まれた部下はおとなしく引き下がる。
その目には恨みが入っている。
本部に帰って直訴するのが目に見えるが隊長は気にしない。
獏と呼ばれた男は淡々と答える。
「わしは悪夢を食いたいんだ。できれば本当の悪夢を何とかしたいのだ」
「そうか。だがな、時間の復元作用は強力だぞ。お前が助けた1000人
近くはいずれも似たような違う不幸に巻き込まれてしまったがな」
「判っている。だから今回少しパターンを変えてみたのさ」
「ほう、どう変えたのだ」
「時間の復元作用を超えて作用させたのさ」
「まさか!」
「彼女は今までのパターンでは助けられないから二回続けて作用させたのさ」
部下がしゃしゃり出てきた。
「それは、絶対にやってはいけない超重犯罪だぞ」
隊長はその部下を張り倒した。
「長官の息子だといっても現場は俺がしきっているんだ黙っていろ」
部下は今度こそ完全に怒り勝手にタイムマシンで帰っていった。
「いいのか、無視しても」
「ああ、かまわんよ長官も承知だ。甘やかしすぎたから厳しくしてくれと
言われている」
「難儀だな」
「それでうまくいったのか」
「ああ、なんとか結婚までこぎつけた」
「ほうそれは期待できるな」
「それに付随して弟も助けたのだがな」
「なぜだ、うまくいっていたなら無視すればいいだろう」
「彼女が自殺を考えそれを恋人が止めるのだがその恋人がまずいのだ」
「どういうことだ」
「二股をかけて将来浮気する。そして奥さんが弟と浮気するのさ」
「それで、浮気をするなら最初からくっつけてしまえという意味か」
「そう、それにより歴史が動く」
「?」
「その男の孫がタイムマシンを発明したのさ」
「どちらにしても差が無いように思うが?」
「タイムマシンの発明の原動力が恨みなんだ、だから平和な家族からタイムマシン
は生まれない」
「すると我々は存在しないのか?」
「本来ならそうなる予定がこちらは失敗したようだ」
「時間の復元力はたいしたものだな」
「もう一つ仕掛けたんだ」
「なんだ」
「あの平成の大虐殺を未然に防いだ」
「おいおい大丈夫なのか?」
「妹を殺して逆上した犯人はその後上野駅をバイクで襲撃したのを知ってるだろう」
「あの事件か」
「その犯人を未遂で捕まえたのさ」
「よくやるよ」
「もっとも副産物ではないが彼氏も事故で重傷になるところだったのは笑ってしま
うけどな」
「似たもの夫婦になるのかな、おっと悪い連絡がはいった」
そう隊長はいうと携帯電話で話をする。
しばらく話をしたあとおもむろに話し始める。
「ようやく、HITしたようだ。ほんのわずか寿命が延びたようだぜ」
「すごい、それでどの結果がうまくいったんだ」
隊長はすまなさそうな顔で答えた。
「どれも失敗だそうだ。ただ最後の旦那が事故にあったトラックの運ちゃんが時間
が戻っても覚えていたらしい。それ以来、運転がおとなしくなって本来おきた事
故の数件が未発になった
その影響らしい」
「なんと、それじゃ大虐殺は?」
「別の犯人が東京駅地下に突っ込んだという」
「やれやれ無駄骨か」
「いやそうでもないぞ。おかげで寿命が延びたのだからな」
「???」
「上層部からお達しだ。見逃して好きにやらせろという指示が出た」
「!無罪放免かい」
「ああ、出来れば人類の悪夢を食ってくれということらしい」
「もちろんさ、だから頑張っているんだ」
「だが、時間ももう無いぞ。俺の時間であと2年だ」
「判っている、わしも馬鹿なやつが惑星破壊弾を地球に打ち込んだ悪夢はなんとか
したいさ」
「言っておくがそれは超国家機密だぞ」
そういった隊長の周りの部下は全員石になっていた。
その頃、隊長に叱られて逃げ出した部下はタイムマシンの不調で秘密の格納庫に侵
入していた。
そして、躓いた拍子に試作装置のスイッチを押してしまう。
事態に焦った男はそのことを誰にも言わずに逃げ出した。
試作装置は静かに動き、惑星破壊弾と言われる廃棄爆弾を飲み込んだ。
無害化されていた爆弾は本来の機能を取り返して静かに作動を開始する。
ステルス機能搭載の爆弾はジグザグに穴を掘って地球の地下に侵入をしていく。
発射場所も時間も不明だった。
ただ、タイムマシンで爆発直後に逃げ出した獏はその原因を必死に探した。
時間局の事情を知らない者は必死にその男の行方を追う。
足りない人手を求めて長官の息子まで呼び出したのだ。