表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏奨学生を目指す子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 【スローライフ編】  作者: みちのあかり
第一章 レイシア初めての体験 (レイシア5歳)
9/55

閑話 メイド長の思惑

 (わたくし)は先代のターナー様から使えているメイド長のキクリと申します。

 奥様が出産のため実家に帰ってから、奥様付きのメイド始め使用人がかなり減りましたが、奥様が来られる前から元々いた使用人は最低限残っているので、特に問題は無いでしょう。


 奥様が帰られて二週間位後、レイシア様がトコトコと近付いてきて「お願いがあるの」と言われました。おやつは3時ですよと言えば、メイドの仕事を習いたいとのこと。


 「レイシア様、メイドへの頼み方や扱い方ならお教えしますが、レイシア様が仕事を覚える必要はございません」と言っては見ましたがレイシア様は、


 「メイドはお世話をする仕事でしょ。わたしは赤ちゃんのお世話ができるステキなおねえさまになるの」


と、もう一度お願いされました。


 旦那様に相談したらこう言われました。


「まあ、レイシアもアリシアがいなくなって寂しいんだろう。今は良い姉になるとがんばっているから、遊ばせてあげると思って少し付き合ってやってくれ」


 お嬢様の遊び相手。そうですね、綺麗な歩き方やマナー等は、貴族として身に着けるのは必要な事です。今のうちに教えても良いかもしれませんね。

 まあ、小さいのですぐ飽きるでしょう。どうせやるなら本格的に。そう思って週に一度、日曜日だけ教えることに致しました。



「ではレイシア様、始めましょう。よろしいですか。メイドは皆さまのお世話をする仕事です。分かりますね。しかし今のレイシア様ではメイド仕事は無理です」


「どうして?」


「自分のお世話も出来ないからです。自分の世話が出来ないのに他人の世話が出来ますか。まず初めは、一人で着替えができる様になる所からです」


 ターナー家のメイド服を渡して着替えさせました。奥様付きのメイドの服は最近流行りのスカート丈が短い物だが、メイドが足を見せるなんて、隙だらけではありませんか。はぁ、つい愚痴が……あら、お嬢様可愛い。


 その後、日常生活で(お世話されない側が)必要な事を教え、体験させました。


「では本日はここまで。よいですかレイシア様。一度習って出来る事は何もありません。毎日コツコツと継続して行く事が大切です。手を抜いたりしたらすぐに出来なくなりますよ。それだけは心に留めて下さい」


「毎日コツコツですね」

レイシア様は素直に頷いて初日は終わりました。



 その日からレイシア様は、自分の事はなるべく自分でするようになりました。メイドに起こされる前に起き、洗顔 歯磨き 着替え(一部ドレス除く)部屋の掃除 教会へ通う支度 等など拙いながらも頑張っております。ならば私も本気で仕込みましょう。



「本日は、対応について。TPOを学びます」「はい」


「本日は、言葉遣いです。『かしこまりました』復唱」「かしこまりました」

 

「本日は歩き方です。まずは1冊本を頭に乗せて白線の上を歩きます。3冊乗せて歩けたら合格です」「はい」


「本日は、お辞儀の仕方です。基本3段階に分かれていますので状況に応じて使い分けます。まず初めは軽く15度」「(ペコ)」


 お嬢様は素直なので飲み込みがお早い。それに努力家です。基本的な作法と考え方はすぐに覚えてしまいました。



 ターナー家の一部メイドには、密かに伝え続けられている事がある。それが、


  [ターナー式メイド歩行術]


 ターナー家への絶対の忠誠があり、技術を会得出来るセンス・体力・根性が感じられる者だけに伝えられる事が出来る、秘中の技術。


 私は先代のメイド長に教わりました。「必ず次代に伝えるのよ」そう言い残して彼女は去っていっきました。重圧から逃れる事が出来たという、爽やかな顔をして。


 今のターナー家には伝えるべき人材がいない。以前2人に教えたが会得することができなかった。

 でも、レイシアお嬢様なら……。


 真面目で努力家、センスもありそう。何よりターナー家(自分の家族)を裏切ることなどあり得ない。私ももういつまで務められるか。お嬢様に一旦託し、お嬢様からメイドに伝えて貰えれば。


 よし、お嬢様を鍛えよう。



 何年も使われていない社交ホール。お嬢様と2人きり。誰も入らないように内鍵をかけた。


「お嬢様。なぜターナー家のメイドのスカートがこのように長いのか分かりますか。それは足の運びを悟らせないためです。混み合うパーティー会場、酔いが回ってふらつくゲスト、嫌がらせでご令嬢にワインをかけようとする悪役令嬢、色っぽいメイドを連れ去ろうとする小太りの成金貴族。その様なパーティーの中でも、自由自在に動き回るために伝えられた歩行術。それが[ターナー式メイド歩行術]です。それではレッスンの開始です」


 スカートの裾を摘み太ももがあらわになるまでたくし上げる。恥ずかしさで震えそうになる。しかし脚の使い方を伝授するにはこの方法しかないのよ。レッスンに集中しましょう。ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。


「お尻をキュッと引き締め、膝をこの様にほんの少しだけ曲げます」


 お嬢様は私と同じ様に、いえ、豪快にスカートをたくし上げ、膝を曲げました。そうだよね。5歳だから恥ずかしくないわよね。意識しすぎていましたわ、私。


「曲げ過ぎです……そうそこ! そこでキープ。踵がわずかに上っているから意識して……そう。そして爪先をナプキン2枚分程上げて前に移動。このように動かします」


「足がプルプルします」


「最初は仕方ありません。慣れて来ればずっと出来る様になりますよ。これが[ターナー式メイド歩行術その一 【猫脚】 猫脚は全ての歩行術の基礎となります。この歩行が、どんな時でも出来るように、訓練は怠らないこと。よろしいですか」


「はい。先生」


「よろしいです。では本日はここまでにいたしましょう」


 私は、お嬢様は必ず最終奥義【盤投】まで到達出来る。そんな予感で心が踊った。


 もちろん、一般的なメイドのお仕事は、お嬢様は完璧にこなせるようになりましたよ。これで素敵なお姉さまになれますね。レイシアお嬢様。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ