密談(返済計画)
家に帰ったレイシアは、すぐにお祖母様に捕まった。淑女教育の再開である。
「食事後に話をしよう、レイシア」
お祖父様はそう約束をして、ギルド長と応接室に入って行った。
レイシアは、先程の出来事についてすぐに話をしたかったのだが、お祖父様と約束できたことと、お祖母様には知られたくない思いが強かったので、今はお祖母様の言うことを聞くことにして淑女教育に取り掛かった。
◇
お祖父様は、領主オズワルド・オヤマーとしてギルド長と話をした。もちろん、人払いをして。
「あれは……なんだったんだ? 今まであんなことは起きたことがあったか?」
「いいえ、私も何件か特許の申請には立ち会いましたが……、あれは……」
「頭の中で声がしなかったか? 『この件は、然るべき時期が来るまで他言無用とせよ。悟られるな。感づかれるな』と」
「私も同じ言葉を受けました。神の御言葉でしょうか」
「わからぬ。しかし、我々は大変な現場に出くわしたのだろう。ギルド長、神が降臨したなど、教会の連中に知られたらレイシアの身がどうなるか分からん。他言無用でお願いする」
「もちろんです。神が願われていることですから」
領主オズワルドとして、大きくうなづいた後、今度はレイシアの祖父として契約の話をした。レイシアもここで話に交ぜてあげたかった、と思いながら。
◇
夕食後、レイシアはお祖父様の部屋に呼ばれた。ここでも人払いはきっちりと行われた。
「お前には色々伝えたいことがあるのだが、まずは契約の話をしようか」
お祖父様はレイシアに、特許の契約について丁寧に教えた。
「今回の特許は、一番軽い特許契約だ。特許にもランクがあってな。Aランクは、再現が非常に困難なものにつけられる。うちで言えば米酒の技術特許だ。手順が細かいうえ、施設にも気を使わなければならない。少し覚えたからと言って簡単にできるものではない。また、高級薬、エリクサーレベルだな。間違うと命に関わり作るのが難しいものもこのクラスに入る。特許期間も長い」
「Aランクは再現が難しいもの」
「そうだ。次にBランク。これはな、企業や工場で再現できるものだな。いろんな所で作れるようになれば、手に入れられる人も増えるし価格も下がる。うちで言えば酒の製造技術などだ。大がかりな工場や、難しい手順。大規模な製品を作るには金も時間も技術も必要だ。大概が特許を取った者や領土でしか使われない。他でやろうとすると高額な特許料や指導料が発生する」
「なるほど」
「そして、今回の特許はCランク。それも最低のグレードだ」
「最低なのですか?」
「ああ。精米は同じCランクでもやや高い方だ。それでも特許期間は10年。なぜそうなるのかまずは説明を聞け。米玉は材料があれば、それなりのものは誰でも作れる。家庭料理としてもな」
「そうですね」
「だからレシピは公開される。しなくてもすぐ真似される。同じことならしたほうが良い。特許料が発生するからな。けれども家庭で作る時の特許料は無料だ」
「無料! なんで……」
「いちいち作ったか作ってないか管理など出来ないであろう。だがな、商売は別だ。販売するためには、特許技術使用料と特許技術販売料がかけられる。今回の件は『米玉に具材を入れる・米玉を具材で包む』という特許だ。新しい味を誰かが作っても適用される。技術料も使用料のパーセンテージも安いが、毎日売れるものだ。期待は高いぞ。おまけに登録料も安い」
「登録料?」
「ああ、ランクによって登録料は違う。Aランクなら金貨50枚~かかるが、今回はCランク、それも最低の5なので、登録申請金として大金貨2枚と、登録料として大金貨1枚ですむ」
「大金貨3枚ですか! 私には無理です!」
「だろうな。まあ、最低ランクで良かったな。登録料は儂が貸しておく。きちんとしたビジネスとしての投資だ。特許料が入ったら返してもらう。いいか?」
「はい! ありがとうございます。……ランク決めたのはお祖父様なのですか? 私のために最低ランクを付けて下さったのですね」
「いいや。決めたのは……神だ」
お祖父様はそう言うと、大きく息を吸ってレイシアに告げた。
「まずは、先程の教会での事だがな、あんな不思議な状況は、未だかつて見たことも聞いたこともない。ギルド長も同じ意見だったよ」
「そう……ですか」
「普通の手順はな、申請書と白紙の用紙を置いて水晶に手をかざす。ここまではやった通りだ」
「はい」
「神父が祈りを捧げた後、申請者が申請書を読み上げ台座に戻す。やがて、数分から数十分間経つと白紙だった紙に文字が浮かび上がってくるんだ。大体は申請不可。通ったものにはランクが付けられている」
「紙に書いてあるのですか?」
「そうだ。それを元にして契約料の額や、使用料のパーセンテージをギルド側と交渉していくのだ。だから、本当はもっとあっさりしているのだよ」
「それだけ?」
「そうだ。今回の契約の儀はイレギュラーだ。おそらく何百年振りかのな」
「何百年振り…………」
「ああ。……神が降臨したのだからな。今思うと、どれが特許に値してどのレベルが順当かは、神が決めていたのだな」
レイシアは息をのんだ。あの神聖な世界は神様の世界? そう思うと体が震え出した。
お祖父様は、そんなレイシアに確認した。
「ところで、儂とギルド長は神様から、『この件は、然るべき時期が来るまで他言無用とせよ。悟られるな。感づかれるな』と頭の中に直接話しかけられた。お前はどうだ? 何か言われてはおらぬか」
「私も同じ言葉を聞きました。私だけではなかったのですね」
「そうか、他には何かあるか?」
「いいえ、頭の中で響いた言葉はそれだけです」
「そうか。ならいい。今日あったことは3人の秘密だ。よいな」
「はい。……それにしても、神様とは一体……」
「分からん。いや、教会もギルドも我々も、便利な道具くらいにしか考えてなかったのかもしれん。慣れというものは怖いな。それはそうと、特許の契約についてだが、お金の受け取り方はどうする?」
お金の受け取り方。具体的にお金が入るイメージがなかったレイシアは、首を傾げるしかなかった。
「はあ?」
「うむ、まだ学園にも入ってはおらんし、ギルドに登録という訳にもいかんな」
「どのくらいの金額になるのでしょうか」
「それは動き出さなければ分からない。結果次第だからな。しかし、オヤマーで支援するから、かなりの金額にはなるだろう。うまくいけば数年でターナー領の借金が半分になるかもしれんな」
「借金が減るんですか」
「減りはしない。返済に充てることが出来るということだ」
「すごいです! それでしたら借金がなくなるまで返済にあててください」
「いいのか、それで?」
「はい」
「わかった。なにか必要な時はいいなさい。いつでも渡してやろう」
「ありがとうございます」
「では決まりだ。明日も教会へ行く。今日の事は黙っているように。何かあったら儂に頼れ。いいな」
「はい。よろしくお願いします。お祖父様」
そして、レイシアは部屋に戻った。




