表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏奨学生を目指す子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 【スローライフ編】  作者: みちのあかり
第四章 オヤマー領 レイシア11歳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/55

初めてのオヤマー領

 アマリーとフージに泊まって、やっとオヤマーに着いた。初めて見る景色。初めて寄った賑やかな王都。宿場町、工業地、王都。どの町も個性があり、賑わっていた。

 

 馬車の移動は無理が出来ない。馬が疲れたら休み休み。なので、どこで止まってもレイシアは外に出させてもらって、いろんな人にいろんな質問をしていた。町の様子。仕事の事。売っているものについて。


 人々は、貴族としては貧相……いや、かなり質素な服を着た女の子が、その子より立派な格式の高い服を着た従者を従えているのを見て、どこかの偉い貴族の子供が、お忍びで来ていると勘違いし、丁寧に答えてくれた。


 旅の中で、レイシアの知識と体験は、レイシア自身をまた一つ成長させた。


◇◇◇


 オヤマー領に入ると、不思議な匂いが辺り一面充満していた。


「この匂いは?」


 レイシアが聞くと、ノエルが答えた。


「この匂いは、お米を精米した(ぬか)の匂いです。オヤマー領は米の酒造りで有名ですが、今はお米そのものを美味しく食べる研究が進み、オヤマーでは安くておいしくて柔らかいお米が、庶民の間で広まり始めているのですよ。」


「食べてみたい」


 レイシアは料理人として、また、何かが大きく変わる予感がして、お米の味を知って見たかった。


「滞在中にいくらでも召し上がれますわ」


 レイシアは、深呼吸して糠の香りを確かめた。変な匂い。これが美味しくなるの?


「食べてからのお楽しみですよ。レイシア様」


 馬車は賑わう町並みをゆっくりと進んで行った。



 ターナー家より豪華な門をくぐると、大玄関が開く。大階段の前で執事以外使用人が列を作る。階段の前には、優しく微笑んだお祖父様とお祖母様。


「お久しぶりです。お祖父様お祖母様。これからお世話になります」


 スカートに手をやり、カテーシーをしたレイシア。メイド仕込みの姿勢のよさが際立つ。お祖父様がうんうんと頷くと、お祖母様は微笑んで言った。


「よく来たわね、レイシアちゃん。待っていたわ。ようこそ我が家へ」


 お祖母様が優しく声をかける。


「あら、荷物はそれだけ? どうしましょう。とりあえず着替えましょうか。確かアリシアが小さい頃着ていた服があったわよね。無いなら本宅から取ってきてちょうだい。その後にお茶を一緒にお茶を飲みましょう」


 レイシアの着ている服は、レイシアにとっては一張羅だが、お祖母様から見たら満足出来る物ではなかった。孫は男2人。女の子を着飾らせたい欲求がムラムラと湧いて出てくる。


「そうね。2ヶ月いるのだから、明日服を買いに行って、何着かオーダーメイドで作りましょう。来年のためにも……」


「おいおい、そんな興奮しないでおけ。レイシアも長旅で疲れているだろう。お茶でなく夕食まで休ませてあげたらどうだい。」


「そうですわね。馬車は疲れますものね。分かりました。レイシア、夕食までゆっくりしていなさい。ノエル、ポエム、レイシアをよろしく頼みますよ」


 顔合わせは終わり、レイシアは客間に案内された。



「やっぱり王都のお菓子は甘いわね」

 レイシアは、部屋で出されたお茶とお菓子を食べながらそうつぶやいた。


「ターナーで出されるお菓子は、果物を中心とするか、ハチミツを使ったお菓子が多いですから。砂糖はジャムを作るために使用するから甘さは控えめですよね」


 ターナー領でアリシアに付いていたノエルがそう言うと、ポエムも応えた。


「私もターナーで出されたお菓子は、素朴な感じで好きでしたわ。王都でも砂糖は貴重品なので、貴族の中では、砂糖をたくさん使った方が高級品と言うイメージが付いていますの」


「ふ~ん。そうなの。おいしい方がいいのにね。私ならもっとおいしく作るのに」


「レイシア様は、相変わらずお料理しているのですか?」


「もちろん。立派なお姉さまですから」


 レイシアの変わらない態度に二人は笑った。ノエルもポエムも、そんなレイシア様が大好きだった。



 休憩後、レイシアはクローゼットに案内された。見たこともない色とりどりのキレイなドレスが、部屋いっぱいに吊るされている。生活するのにこんなにドレスって必要? レイシアは不思議に思った。


「こちらの棚にあるのが、アリシア様がお召しになっていたドレスです」


 ノエルが指し示した棚に、20着ほどの子供用ドレスがあった。


「お母様が着ていたのですか?」


「ええ。アリシア様はそれはそれはかわいらしい方でした。今のレイシア様のように。初めての会食ですので、あまり派手にならない……、そうですね、髪の色と合わせた、この茶色のドレスなどいかがでしょうか」


 (このお洋服をお母様が着ていたのね。お母様にもこんなに小さい時があったんだ。お母様……)


 レイシアは、お母様を思い出し、少し切ない気持ちになった。ドレスをギュッと抱きしめたあと、「これにしますね」と言った。



「それでは、着替える前に入浴をいたしましょう。長旅で汚れていますからね」


 浴室に連れて行かれたレイシアは、ノエルとポエムに服を脱がされそうになった。お母様がいなくなってから、使用人の数が足りず、また、レイシア様にだからという謎の信頼感から、レイシアは身の回りのことを、誰にも頼らず、自分一人でやる習慣が身についていたのだ。


「お風呂も一人で大丈夫だわ」


「それはいけませんわ。レイシア様」

「そうです。私達の仕事がなくなってしまいますわ」


「それに、貴族の女性としての振る舞いとして失格てす。立場にはそれぞれ役割というものがあるのですよ。貴族のお嬢様は、お世話される役割があるのです」

「そうです。お世話させて下さい」


 なんだか腑に落ちないレイシアだったが、二人ががりで言われたらしょうがない。身を任せることにした。


「そういえば、こっちには温泉は無いの?」


 体を洗われながら、昔お母様が言った事を思い出し、レイシアは尋ねた。


「はい。残念ですが私はターナーでしか温泉を見たことはありません」

「私もです。温泉素敵でしたね」


 けして冷たい訳でもない水を浴びながら、冬は大変だなと思うレイシアだった。



 服を着るときも。はじめは一人で着られますと頑張ったレイシアだったが、貴族のドレスなど一人で着られるようには出来ていない。

 レイシアの事をよく知っているノエルとポエムは、レイシア様が諦めるまでやらせようと静かに見守っていた。


 構造的に一人では着ることが出来ないと分かったレイシアは、(貴族の世界は無駄にできているのね)と覚り、その後から諦めてメイドたちの言うことを聞き、手を借りる事を嫌がらないようになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ