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貧乏奨学生を目指す子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 【スローライフ編】  作者: みちのあかり
第二章 お母様と弟 レイシア6歳

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お母様の帰還

 アリシアが、里帰り出産のため実家に帰ったのが、レイシアの5歳の誕生日が終わった、王国歴405年11月末。

 翌年の2月5日出産。赤子を連れての馬車旅など、簡単に出来るわけもなく、父母の


「いつまでもいていいのよ~」

「何なら別れて戻っておいで」


「あんな男のどこがいいのよ~」

「そうだ。今からでも良い縁談が、」


「あなた!アリシアちゃんは、ずっと家にいててもいいのよ~」

「そうだな。早く別れて家にいなさい」


 と言う精神を削られる攻撃をかいくぐり、ターナー領に戻れたのは、約一年半後の407年6月になってからだった。


◇ ◇ ◇


「お母様と弟が帰って来るのですか、お父様!」


 6歳になったレイシアは、『素敵なお姉さま計画』のおかけでボキャブラリーも増え、お姉さまらしく振る舞える自信があった。元になっている情報が、なんとなく怪しい感じはあるが……。


「ああ、来月の6月4日に帰ってくると手紙が来た」


「やったー」


 レイシアはぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んだ。


「弟のクリシュにもやっと会える」


 満面の笑顔で喜んでいたが、父は、


「クリシュは一緒には来ないようだ」


 と、手紙を差し出して言った。


「なんで……」


「すぐに来ないだけだ。母さんが来て、部屋の準備とか育児環境を確認してからゆっくり来るからら6月中には一緒住めるよ」


「よかった」


 レイシアはフゥと安心した息をついた。


「じゃあ、お母様のための『お帰りなさいお母様パーティー』を開かなくてはいけませんね。お父様、予算下さい」


 と言うと、メイド長の所に走って行った。父クリフトは、(レイシアもしっかりしてきたな)と暢気(のんき)に思った。

 

 そして、レイシアの一年半の努力と成長の集大成、レイシアと師匠達(お父様抜き)が全力で企画した、


『お帰りなさいませアリシア様(お母様)パーティー』


が、幕を上げるのだった。



 アリシアがターナー家に戻る当日。

 アリシアはまっすぐ帰る事ができなかった。

 とんだ所で足止めをくらっていたのだ。



「ふぅ~。やっぱり温泉は最高~」


 アリシアは一時の自由と開放感と温泉を心ゆくまで満喫していた。


 前日まで移動に着いてきた父母は、ターナー領に足を踏み入れる気は更々なく、前の宿場町でお別れ。別れる際も、「戻っておいで」「早く別れろ」の雨嵐。夜明けと共に逃げるように馬車を出させて今に至る。


「温泉でデトックスしないと、愛しい(クリフト)(レイシア)に気分良く会えないわ。あ~、癒やされる~」


 予定を変更して温泉に来たのは、(この一年半で溜まった毒素を抜いてから会いたい)、と言う思いからなのだが、もう一方では、(心の底から温泉に浸かりたい)、と言う欲求(わがまま)からの行動である事も否定出来ない。


 なにせこの世界において、風呂とは、『水を張った行水する場所』でしかないのだから。

『お風呂でお湯を沸かす』という思考は()()()()()()()()ない。

 温かいお湯に浸かると言う文化はわずかに温泉が湧き出る所、いずれも王国の端にある辺鄙な場所にあるくらいだ。


 冬場も冷たい風呂で体を拭きながら、温泉を夢見ること一年半。

 愛しの夫や娘に合う前に温泉に浸かることの何が悪い。


 綺麗になった私を見せたい。そんなどうでもいい言い訳を考えながら温泉に入っているのであった。


 もちろん従者達も、温泉に魅了されているため、誰も温泉に寄ることを(いさ)める者はなく、一同、温泉でくつろいでいるのだった。


 (待っていてね、レイシア。お母さんもうすぐ行くから)


 心の中ではそう思うのだがなかなか湯からは上がれない。

 アリシアは、その後メイクにも時間がかかり、結局3時間程、温泉に居続ける事になってしまった。



 という情報は、温泉で働いているサチを中心とした孤児院の情報網をフル活用し、逐一レイシアに報告が上がっていた。


 「今その状況ですと、アリシア様の身支度、メイクの時間を計算に入れたら、こちらに到着するのは15時半~16時かと思われます」


 メイド長が到着見込み時間を告げる。レイシアは、スタッフ全員を見渡し、


 「これからプランCバージョン4を決行します。総員、マニュアル確認と持ち場の最終確認を。15:10分までには各部署指定された場所にて待機。楽団の皆様はそれまでに着換えとチューニングを終わらせて下さい。それでは皆さま、素敵なパーティーになりますように、ご協力お願いします」


 レイシアが大声で告げ皆を見渡すと、この一年半のレイシアの努力を知っているスタッフからは、感動の涙と盛大な拍手と喝采が起きたのだった。


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