追憶
それは、すでに過ぎ去った夏の日の遠い記憶。幼い清修の目の前にひとりの少年がいる。
「あの、大丈夫?」
怯えと警戒が入り混じったような声音で、その少年は恐る恐る清修に問いかけるのだった。
「………」
しかし、清修は何も答えない。大木の幹に背を預けるようにして、地面に座り込んでうつむいているのだった。
「気分が悪いの? それともどこか痛いの?」
問いかける少年に対して清修は小さくかぶりをふる。
「ハラ減った……」
そして、ようやく微かな声を喉からふり絞るのだった。
「お腹が減ってるの?」
「ああ」
「どこか痛いとかじゃなくて、お腹が減ってたから動けないの?」
「ああ」
その瞬間、清修の腹の虫が大きく鳴り響く。
「あははは」
すると、今まで心配そうに清修の顔を覗きこんでいた少年は吹き出して笑ってしまうのだった。
「それだったら、ボクの家に来る? 何か食べさせてあげるよ」
「いいのか?」
「うん。今、家にはパパもママもいないから遠慮しなくていいよ」
そして、少年は清修の手を握って立たせてくれるのだった。
「ねえ、キミの名前は何ていうの?」
少年が清修に問いかける。
「清修。黒駒清修」
「ふーん。セイシュウっていうんだ」
やわらかい笑みを浮かべる少年。
「ボクの名前はね――」
自己紹介をしようと少年の口は小さく開かれる。
しかし、そこで清修の意識は夢の世界から現実の時間へと引き戻されるのだった。
瞼を開けた清修は覚醒して、意識を過ぎ去った夏の日から現代へと引き戻す。
朝から電車に乗っていた清修は、クロスシートの窓際の席でうたた寝をしてしまったようだ。
2学期になり最近は朝夕とずいぶん涼しくなってきたはずなのに、今日はまた暑さが戻ってきたようだ。残暑と呼ぶに厳しすぎる日差しが清修の顔を照らすのだった。
〝ひさしぶりにあの頃の夢を見たな〟
しかし、驚きはなかった。
原因も分かっている。
そして、今日はそれを確認するために、普段はあまり乗る事のない電車に乗って来たのだ。
『次は白崎海浜公園。次は白崎海浜公園。お降りのお客さまは――』
早朝という事もあり、人もまばらな電車内にアナウンスが響く。
そして、清修は腰を浮かして、降りる準備をするのだった。




