齟齬
そこから1週間、清修は文化祭をしながらも柚季の日常の警護もおこなっていた。
学校の送り迎えはもちろん、放課後に柚季が帰宅した後も家の近くで見張りをして怪しい人物がいないか目を光らせていたのだった。
もちろん学校内でも、トイレなどの場所以外では柚季から離れないようにしていた清修。
その甲斐あって、見張りを始めてから数日間は、柚季に直接、危害を加えようとする怪しい人物の姿は確認できなかった。
「あの、脅迫文だけで済んでくれたら、いいんだけどな」
しかし、渚がそう感想を述べた次の日だった。
なんと、柚季の自宅に宅配便が届き、中身は汚物やハムスターなど小動物の死骸が入っていたのだった。
「もう……やだ……」
震える声で涙目になる柚季。
最初の脅迫文は、消印が押されていたかったので直接ポストに投函されていたのが明白だった。
しかし、清修が見張りを始めた途端に、今度は宅配業者を使って嫌がらせを始めてきた。まるで、相手はこっちの行動を見透かしているようだった。
そして、ついに文化祭が明後日まで迫った木曜日。
渚にとって清修は衝撃的な発言をする。
「すまん。柚季。あしたの金曜日にどうしても外せないバイトが入ったんだ。だから、見張りができない」
その言葉に渚は激昂する。
「はあ? 清修文化祭は明後日なんだぞ! そりゃあ、見張りをしてけとは言わないけど、せめてそれまでは一緒にいてやれよ!」
しかし、清修は頭をさげるだけで自らの考えを覆さない。
それでも渚は清修を翻意させるために、なおも声を荒げるのであった。
「もういい。もういいから、渚」
柚季が渚の肩を弱々しく握りしめる。
「清修だって事情があるんだもん。ずっとわたしの家の前で見張っているわけにはいかないよ」
もちろん、柚季は口ではそう言っているが、ずっと清修に傍にいてほしいと願っているのは明白だった。
柚季はうつむき、瞳に暗い影を落とす。
〝柚季……〟
いつも他人と壁をつくり、冷めた態度でクラスメイトと接していた柚季。仲良くなるまで、かつての渚は柚季のことを思いやりなどなく、情を解さない冷徹な女だと思っていた。
しかし、今はその認識が誤りだったと痛感しているのだった。
本当の柚季は、決して他人を思いやる心がないリアリストなどではない。むしろ、その逆。本当の柚季は、非常に繊細で傷つきやすく、それでいて愛情豊かな心根の持ち主なのだ。
かつての必要以上に他人を遠ざける言動は、他人を、そして自らを必用以上に傷つけないための鎧なのだ。
だから、せめてストーカーが捕まるまでは柚季のことを第一に考えて行動するのが、親友としての役目だと思っていた。
そして、その想いは恋人である清修のほうが強いものだと渚は思っていた。しかし、それはどうやら渚の思い違いであったらしい。
「ああ、そうかい。それじゃあ勝手にしろよ!」
その熱くなった血液が顔に昇っていくのを感じながら、渚はそう吐き捨てるのだった。




