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柚季と渚の休日


「おーい。とりあえず、うちのクラスが焼きそばをメインで出す喫茶店でいくことを申請して正式に許可をもらってきたぞ~」


 渚の家で料理をつくってから1週間ほど経ったある日。あれから、渚は清修たちの文化祭実行委員の仕事を手伝ってくれるようになったのだった。


「それじゃあ、事前に打ち合わせしたように、前日は製麺を含む焼きそばの下準備と当日の調理は柚季が頼む。あたしと清修はその他の買い出しと当日は接客担当な。クラスの他の奴らへの指示とかはあたしがやっておくから」


 もともと仕切り上手で、コミュニケーション能力に長けた渚は、清修や柚季に変わって今では実質的に文化祭の準備を切り盛りしているのだった。


「ありがとう。渚」


 柚季が渚に礼を言う。


「おお。これくらいの事は任せておけよ。それよりも、この前の休みで夏海と一緒にビーフシチューをつくったんだ。ほら、みてくれよ」


 スマホで撮った写真を柚季にみせる渚。そこには、大皿に載ったビーフシチューを中心して渚と夏海がピースしている自撮り画像があったのだった。


「すごーい。本当に渚と夏海ちゃんのふたりでつくったの?」


「ああ、柚季に教えてもらったように、前日から赤ワインでマリネする工程を飛ばして、フライパンで焼くようにしたらけっこう手軽にできるもんなんだな」


「うん。あれは、野菜を炒める時にトマトの水分がなくなりすぎると、小麦粉が焦げちゃうから、それさえ気をつければ難しくないでしょ」


 清修を余所に、料理の話題で盛り上がる柚季と渚。そして、いつのまにかふたりは、かつての

「武藤さん」「水原」ではなく、お互いにファーストネームで呼びあっているのであった。


「それでさ、今度の土曜日、柚季はあいてるか? また一緒に料理をつくりてぇんだよ」


「いいよ。今度はわたしの家に来る?」


「おお。それじゃあ、夏海も連れていくよ」


 そして、あっというまに休日の予定を埋めてしまうのだった。


「もちろん、清修も来るでしょ?」


 問いかける柚季。しかし、清修は気まずそうに答える。


「すまん。今度の土日はバイトがあるから無理なんだよ」


「ええ、そうなの?」


「ああ、だから、今度の休みはふたりで楽しんでくれ」


 こうして、次の週末は、柚季と渚。清修のいない、初めての休日となったのだった。




「おーい。柚季、来たぞ~」


『うん。それじゃあ、鍵をあけるから、待っててね』


 土曜日の朝。柚季の家の前まできた渚と夏海。そして、渚が電話で呼び出すと、柚季は中から鍵をあけて2人を出迎えてくれるのだった。


「いらっしゃい。さあ、あがって」


「おう。すまねえな。柚季。おじゃましまーす。ああ、あと、これはお土産だから、あとで食ってくれ」


「ありがとう」


 そして、渚と夏海は家にあがる。


「柚季ちゃん。おはよう」


 すると、さっそく夏海が柚季のもとに駆け寄って笑顔で挨拶する。


「おはよう。夏海ちゃん」


「ねえねえ、柚季ちゃん。あれ、つくってくれた?」


「ええ。ちゃんと夏海ちゃんのお誕生日ケーキつくったから、お昼ごはんの時に一緒に食べましょう」


「それで、ちゃんと両方つくってくれた?」


「ええ。ちゃんとチョコレートタルトとティラミス、ふたつとも作っておいてから」


「わーい。柚季ちゃん。大好きー❤」


 そして、夏海は満面の笑みで柚季に抱きつくのであった。


「あのさぁ、柚季。せっかく作ってもらって悪いんだが、夏海の誕生日は8月だから1か月以上も過ぎてるぞ」


 その様子をみて疑問の声を呈する渚。


「うん。それは分かってるんだけど、この前、夏海ちゃんが誕生日はわたしがつくったケーキをどうしても食べたいって言うの。だけど、夏海ちゃんの誕生日はもう1か月以上も過ぎていて、来年まで待てないって話になったから、『じゃあ、今年の分を1か月遅れで祝おうか』ってなったの」


「チョコレートタルトとティラミス、ふたつもつくったのは?」


「だって、夏海ちゃんにどっちが食べたいって訊いたら『両方食べたい!』って言うんだもん」


 まさか、妹の夏海が渚の知らないところでそんなおねだりをしていたとは……。渚は大きくため息をつくのであった。


「すまねえ。柚季。かかった材料費とか諸々はあとで払うから」


「えー、べつにいいよ。わたしが好きでやってるんだもん」


 恐縮する渚に、手を振って「気にしないくていいよ」と笑う柚季。


「お姉ちゃんたち、なにやってるのー?」


 そして、夏海は無邪気にそんな柚季たちをせかすのであった。


 家にあがった渚と夏海はさっそくキッチンへ向かう。


「なつみ、あんま柚季にわがまま言うんじゃねーぞ」


「えー、だって柚季ちゃんのつくったケーキ食べたかったんだもん。お姉ちゃんは食べたくない?」


「そりゃあ、食いてぇけどさぁ」


「そうでしょう?」


 そして、お互いに持ってきたエプロンを羽織るのであった。


 しかし……


 渚は柚季の自宅のキッチンの設備に改めて驚く。


 みたことがない調理器具や外国製の調味料が、決して手狭ではないキッチンに所狭しと並べられているのだ。


「それで、柚季。今日は何をつくるんだ?」


 準備ができると、渚は傍にいる柚季に問いかける。


「今日はね、『アクアパッツァ』をつくろうと思うの」


「あー、それ、聞いたことある。たしか魚をつかったイタリア料理だろ?」


「そうそう。今日はスズキのいいのが手に入ったし、あとトスカーナ風のバゲットのサラダを作ろうと思うの」


 そして、まず柚季はフライパンにオリーブオイルをひいて温めると、あらかじめ塩を振っているスズキの切り身を皮のほうを下にして投入するのだった。


「本来は魚一尾まるごと使った料理だけど、今日は家でもつくりやすいように切り身を使うね。でも、切り身でも皮や骨がついてるほうがおいしいよ」


 丁寧に解説してくれる柚季。しかし、神妙な顔をしたまま返事をしない。


「どうしたの?」


「あー、いや、すまん。そういえば、柚季の親はイタリアンの料理人なのに、柚季自身がイタリアンをつくってるのは初めて見るなぁって思ってただけだ」


「そう? わたし、家ではむしろイタリアンを一番つくってるんだけどな」


「えー? でも、少なくとも、あたしはこうやって柚季にイタリアンを教えてもらうのも、調理しているのも見るのも初めてだぞ」


 その渚の言葉に、柚季は何かに気づいたように顔をハッとさせる。


「それは今まで、わたしが清修の喜ぶ料理ばっかりつくっていたからだと思う」


「なんだ? 清修はイタリアンが苦手なのか?」


「うーん。そういうわけじゃないよ。むしろ、清修は好き嫌いがないから、どんな料理も美味しそうに食べてくれるよ。でもね、何回も料理をつくっているとだいたいの好みが把握できたの」


「あいつは、どういう料理が好きなんだ?」


「まずは魚や野菜よりも圧倒的にお肉が大好き。それも、砂糖や醤油をたっぷり使ってるような甘辛くて白米に合うような味つけしてるやつ」


「あー、たしかに清修はそういう下品なくらい濃い味付けした肉料理が好きだな」


「うん。わたしとしてはもうちょっと栄養に偏りなく食べてほしいから、お弁当には野菜料理を多く入れてるんだけど、休みの日とは清修に喜んでほしいから肉料理が多くなっちゃうんだよね~」


 そう苦笑する柚季。


 その困ったような顔は、疑いようない母性愛に満ちており、渚はそれだけで腹がいっぱいになるのだった。



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