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水原柚季


 学校を休んでいる間にクラスメイトから文化祭の実行委員を推しつけられた清修は、さっそく放課後になると、もうひとりの実行委員である柚季に声をかけられるのであった。


「今からあいてる?」


「ああ、大丈夫だ」


「そう。それなら文化祭の話がしたいから付き合ってくれないかしら」


「わかった」


 清修がそう返事すると、柚季は「家庭科室までついてきて」と淡白な声音で促すのだった。


 教室を出て廊下を歩くふたり。


「ところで、うちのクラスは何をやるんだ?」


「喫茶店をやろうと思ってるの」


「喫茶店? どういったメニューを出すんだ?」


「それを今から決めるんじゃない」


 呆れたような口調で柚季はため息をつく。


「そうか……」


 それっきり、清修と柚季のあいだで会話が途切れてしまう。流れる長い沈黙。


「あー、すまん。俺、トイレに行ってくるわ」


 重苦しい空気に耐えかねた清修は、たいして尿意を催していないにもかかわらずトイレに向かう。


 そして、小便器の前でイチモツをさらけ出し、放尿を始めるのであった。


〝あー、気が重いぜ〟


 清修が高校に入学してから2学期までの約半年間、クラスメイトたちの人物像はだいたい把握しているが、あの柚季とは今までロクに会話をしたことがない。しかし、それは清修だけではないはずだ。あの水原柚季という少女はいつも独りで、誰かと一緒に笑っている姿を見た事がない。


〝そりゃあ、あの他人に対する拒絶のオーラ丸出しの無愛想な性格じゃなぁ……〟


 そして、そんな柚季とこれから一か月以上先の文化祭まで実行委員として共に仕事しなければならない事実に気が滅入ってくるのであった。


〝本当にとんだ貧乏くじを引いちまったぜ〟


 トイレから出る清修。


 すると、柚季は何やら男子生徒と話し込んでいる。


 男のほうは清修も見た事がない相手だ。柚季の知り合いか? と思ったが、どうやらそうではないらしい。男はニコニコと愛想のよい笑いを浮かべて顔を近づけているが、柚季はあいかわずの仏頂面で視線を合わそうともしない。


「行きましょうか」


 柚季はトイレから出てきた清修の姿をみつけると、男がまだ話している途中にもかかわらず足早に立ち去ろうとするのであった。


「あっ! ちょっと、せめて返事を聞かせてよ」


「わたし、そういうのに興味ありませんから」


 まさに取りつく島もないといった冷たい態度で、男から背を向ける柚季。そして、清修と共に、当初の目的地である家庭科室へと歩き出すのであった。


「なあ。今の奴はなんなんだ? みたところ俺たちの学年じゃないよな? 二年生か?」


「なんでもないわ。ただのナンパよ」


 清修が問いただすと、柚季はそっけなく答えるのだった。


「ナンパ? 校内でナンパしてきたのか? あの男は」


「ええ。いきなり『ずっと好きだったから付き合ってくれ』って言われたわ」


「それ、ナンパじゃなくて愛の告白じゃないのか?」


「わたしにとってはナンパよ。だって、わたし、あの人と会話もしたことがないし、何の面識もないもの」


「1度も会話したことがない男から『付き合ってくれ』って愛の告白される事なんてあるのか?」


「わたしにとって、そんなに珍しい事ではないわ。繁華街を歩いていたら見知らぬ男から『付き合ってくれ』とか『愛してる』っていきなり言われる事も結構あるし」


挿絵(By みてみん)


 さも当然かのように、淡々とした口調でそう述べる柚季。


〝そうか。そうだよな。こいつ、それくらいの器量を持ってるもんな〟


 長い睫毛に縁どられた二重の瞳。絹のような漆黒の黒髪。花びらのような薄く瑞々しい唇。柚季の顔や身体はそれぞれのパーツだけでも、専門のモデルをやれてしまそうなくらい整っている。


 もちろん、全体で見ても、その顔はまるで希少種の蘭のような惚れ惚れする美しさに満ちている。


 異性の好みなど千差万別だが、現在のところ、この学園における№1美少女の栄誉を獲得しているのは間違いなく柚季である。


 そして、入学してから数多くの男子生徒が彼女にアプローチをかけてきたにもかかわらず、その全てをソデにしてきたのだという。


〝これで、もっと愛想よかったら、告白してくる男の数が今の2倍じゃきかなかったんだろうな〟 


そして、清修と柚季は家庭科室に辿り着くのであった。


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