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水族館へ②


 そして、清修と柚季は水族館へとたどり着く。


〝ああ。なつかしいな。昔に来た時と変わらなねぇや〟


 休日ということもあって、その水族館の大きな建物周辺には家族連れやカップルの姿が目立つのであった。そして、柚季は予めネットでチケットを購入したのであろう、スマホの画面を受付にみせて入館するのであった。


「いきましょうか」


「ああ」


 ふたりは館内の入り口のすぐそばにあるエスカレーターに乗り込む。まずは、このエスカレーターで最上階まで昇り、そこから展示を見るたびに各階に下っていくという経路になっているのだという。


薄暗く、ひんやりとした通路を抜けると、最初の展示物が現れる。その水槽の中身は、森の渓流をイメージして造られたといい、ぬいぐるみのような愛らしい姿をしたカワウソやオシドリなどが来訪者たちを出迎えてくれるのであった。


「かわいい」


 本当に思わず口に出てしまったのだろう。柚季のつぶやきが清修の耳に届く。


〝あーそういや、『ユウ』のやつ、8年前の時もグッズショップでカワウソのぬいぐるみが欲しいとか親にねだってたっけ〟


 来る前は、中の展示物の事などほとんど覚えてなかったのだが、やはり実際に柚季と共に現場に訪れてみると、さまざまな記憶が蘇ってくるのであった。


 そして、その後も、さまざまな水生生物が清修と柚季が出迎えてくれる。


「あの魚はなんだ?」


「あれはスズキね。洗いやイタリア料理のアクアパッツァなんかにするとおいしいのよ」


「あの魚もうまいのか?」


「ええ。カワハギもお刺身すると、おいしいわよ。とくに肝をつけて食べると最高よ」


 そんな質疑応答を交わしながら、清修と柚季は館内をゆっくりゆっくりと歩いていく。それは、8年の空白を埋めてくれるかのような緩やかな時の流れだった。


 そして、楽しい時間もやがて終わりが近づく。


 あとひとつの水槽を残して、館内の展示物は終了である。


 そして、最後の水槽は今までと趣が違っていた。


 今までの展示物は、水槽を横や上から見下ろす形をとっていたが、この水槽だけは通路がパイプ状のガラスになっており、しかも、それが水槽内を横断する形となっている。


 上下左右・360度、水と魚に囲まれた空間。まるで海の中を歩いているような感覚にさせてくれるのが売りだという。


 先程と同じような歩調で歩いていく清修。


 しかし、それまで傍らに存在していた気配が消え、違和感にふりむく。


 すると、柚季はパイプ状の通路の入り口で足をすくめて、固まっているのだった。顔色はあきらかに青ざめ、額にはわずかに脂汗が滲んでいる。


〝ああ、そうだ。たしか、こいつ、八年前の時もこの海中トンネルでこうやって固まっていたぞ〟


 8年前の『ユウ』曰く、この海中トンネルは他の水槽と違って、いきなりひび割れて、そのまま濁流に飲み込まれてしまいそうな感覚があるのだという。


 たしかに、「海の中を歩く」がこの展示のコンセプトだけに、通路は天井も低く横幅を狭い。しかも、照明を控えめにして薄暗くしているため、かなりの圧迫感がある。これは、柚季でなくても閉所恐怖症・暗所恐怖症の人間にとってはツライかもしれないのであった。 もちろん、今のこの状況もいつもの幼なじみアピールの演技である。しかし、今回は清修の目には本気で怖がっているようにみえるのだった。


 清修はすぐに柚季がいる通路の入り口まで戻る。そして、何も言わず柚季の手を握り、さらに覆いかぶさるように肩を抱いてやるのだった。


 そう、清修は8年前の時も、こうやって半泣きになっている柚季の手を握って一緒にこの海中トンネルを渡ったのだ。


 水槽に目も暮れず、清修の身体に顔を寄せて、おぼつかない足取りで歩く柚季。


 それでも清修は、そんな柚季の震える手を握りながら、ゆっくりと歩いてやるのであった。


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