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お誘い


「今日はチキン・フリカッセを作ってきたの」

「この前、あなたが食べたいって言ってた豚の角煮を作ってきたわよ。いっぱい作ってきたから、遠慮なく食べていいわよ」

「ほら、この料理が、この前わたしが言っていた牛肉で作った『チャルシ・カラヒ』よ。『チャルシ』っていうのはウルドゥー語で『中毒者』って意味で、その名前のとおり『病みつき』になる美味しさよ」




 それからというもの、柚季は放課後になると毎日のように手料理を披露してくれて、清修はそれをむさぼり食らう日々を送っていたのだった。


「それでね、わたしの幼なじみの男の子もね。よく食べる子だったわ」


「とくに肉料理と甘いものが大好きで、わたしが彼に初めてつくってあげたのもパンケーキだったわ」


「わたしと同い年だったけど、今は何をしてるのかしら」


 そして、その際に披露してくれる思い出話もだんだんと露骨さを増していくのだった。


「そうか。そんな小さい頃から、料理をしてたのか。水原はすごいな~」


 あくまで清修のほうから気づいてほしいと願っている柚季と、必死になってアピールしている柚季の姿がかわいいので気づかないふりをしている清修。


 今日もまた清修は、柚季のアピールをのらりくらりとかわすのだった。


 そして、そんな清修の反応を見せられるたびに、柚季は悲しさと怒りと悔しさが入り混じった涙目で下唇を噛みしめる。


〝うっ……〟


 さすがに、そんな表情を毎日のようにみせられると、鈍感な清修の胸にもちくりとした罪悪感が日増しに強くなっていくのだった


〝うーん。さすがにこれ以上、ごまかすのはキツくなってきたぞ〟


 試食会を始めたばかりの頃は、たまに過去の話をするくらいだったのだが、あまりに清修がとぼけまくったせいで、今では食べているあいだ、柚季はずっと思い出話を語るようになってしまったのだった。


 そして、その必死のアピールが実らない現実に疲れてしまったのだろうか。今日の柚季は次第に口数が減っていき、そのまま黙り込んでしまうのであった。


 ふたりのあいだに気まずい沈黙が流れる。


 そして、そんな雰囲気のまま、試食会は終了したのだった。


 秋の夕暮れは早い。窓の外では夕暮れの色彩がアスファルトを照らしている。ふたりは後片づけをすまして、家庭科室を施錠する。明日は土曜日なので、月曜日の放課後まではお預けである。


「それじゃあな、水原」


 先程からずっとうつむいたまま無言の柚季。


「ちょっと待って!」


 しかし、柚季はとつぜん顔をあげて、清修を呼び止める。それは、清修が驚くほどの大きな声だった。


「その……あの……」


 だが、威勢がよかったのは最初だけで、あとはしどろもどろになってしまう。


「あ、あのね……」


 しかし、ようやく意を決したのか柚季はまっすぐな瞳で清修を見つめて、声をふり絞るのだった。


「あした、わたしとふたりで水族館へ出かけない?」


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