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プリン


「今日はね、プリンを作ってきたの」


 柚季は家庭科室の冷蔵庫にあらかじめ冷やしておいたプリンを取り出す。


 透明なガラスの器に入れられたレモンイエローのプリンは、見ているだけでその柔らかさが容易に想像できるのであった。


〝ひゅー。うまそうだな~〟


 さっそくスプーンですくって、最初の一口をほおばる清修。


 タマゴと牛乳と砂糖の甘さ、そして、カラメルソースのほろ苦さが舌の上で踊って、儚く消えていくのであった。


 もはや、恒例となった清修と柚季の放課後の試食会。 結局、清修は未だに柚季がかつての幼なじみである『ユウ』だと気づいたことは告げていない。あくまでも、ただのいちクラスメイト。文化祭実行委員のパートナーとして柚季の反応を楽しみながら、試食会で料理を堪能するという意地の悪い選択肢を選んだのだった。


 今日のメニューは柚季お手製のプリン。最近はとろふろ食感のものが人気だが、柚季のつくってくれたプリンは固めで、しっかりとした舌触りが特徴的だった。


「美味しい?」


 柚季が清修に問いかける。


「ああ。甘くてコクがあって、とにかくスッゲーうまい」


「そう、よかった」


「ところで、これはけっこう固めの食感だけど、最近のコンビニとかに置いてあるやつだと、もっとやわらかめのとろふわ食感が多いだろ。なんで、同じプリンなのに、あんなにも食感に違いがでるんだ?」


「それは生クリームの量の違いね。生クリームを多く入れると、いわゆる『とろふわ食感』のプリンになるのよ。そっちのほうがよかった?」


「ううん。俺、プリンはしっかり固めで、弾力あるほうが好きだから、これでいい」


「そう。よかった」


 まるで慈母のようなやさしさを満ちた笑みで見せる柚季。


「でもさぁ、水原」


「なに?」


「これは文化祭の喫茶店に出すための試食会だろ? 俺の好みよりも、他のみんな好みや店として提供しやすいかのほうが重要じゃないのか?」


 すると、今更その事実を思い出した柚季はハッとした表情を見せる。


挿絵(By みてみん)


「そ、それもそうね」


そして、顔を真っ赤にしながら呟くのであった。


〝かわいいなぁ〟


 その柚季の様子を眺めながら、清修はニヤニヤと頬を緩めさせるのであった。


 もちろん清修は、柚季が文化祭の喫茶店のメニューなど眼中になく、昔と同じようにただ清修のためだけに料理を作ってくれている事など理解している。


 しかし、その事を悟られていないと思っている柚季のリアクションを見るのが楽しくて、ついつい意地悪をしてしまうのであった。


「いっぱい作ってしまったんだけど、おかわりいる?」


「うん。食う!」


 いっぱい作ってしまった、なんて言いかたをしているが、毎回、柚季は最初から清修の食欲を計算に入れて大量に作ってくれている。


 そして、余ってしまったと口では言っているが、他の人間におすそ分けするような事は絶対にない(実際、この試食会の事はいろいろと噂になっている。今でも家庭科室の外では、熱烈な柚季ファンというべき男子生徒がもの欲し気な目をしているのだった)。すべては清修のために作ってくれたものなのだ。


「それでね、わたしも昔、その幼なじみの男の子にプリンをつくってあげたの」

「その時も、その男の子、あなたのようにひとりで五個も六個も食べていたわ」

「その男の子は運動神経がよくて、木登りなんか猿のようにあっというまに高いところまで登っていってたわ」

 

 そして、柚季はもはや恒例とも言うべき、幼なじみの男の子の話題を振り始めるのだった。


 もちろん、話を振りながら、期待に満ちた眼差しで清修を見つめるのを忘れない。


「へえ、水原の幼なじみって今はどこの高校に行ってるんだ?」


「さ、さあ……8年前に別れて以来、消息は分からないわ」


「そうか、また会えるといいな」


「ええ、そうね」


 あくまでも清修はとぼけまくるのであった。


 すると、柚季は不満げに唇を尖らせて、頬をふくらます。


〝こいつ、普段はクールぶってるけど、俺の事になると、すぐに表情(かお)に出るんだよな〟


その子供じみた表情はかつての『ユウ』を充分に連想させるものだったが、それでも清修は気づかないふりをして、その反応を慈しむのであった。

そして、プリンを食べ終わった清修は、柚季とふたりで後片づけをする。


「なあ、水原。なんか関西のほうには、カレーを食うような平皿に白米とビーフカツを乗せて、デミグラスソースをかける料理があるって聞いたんだけど、知ってるか?」


「ああ、兵庫県の加古川(かこがわ)市近辺で昔から食べられている『かつめし』ね。わたしも食べたことはないけど、知ってはいるわ」


「だったら、あしたの試食会のメニューはこれにしないか? こんなメニューがあったほうが喫茶店っぽいだろ」


 我ながら無茶苦茶な提案だとは思う。なにせ揚げ物なんか火事の危険性があるうえに、調理の手間もかかる。第一、デミグラスソースなんて誰が作るのだ。絶対に文化祭なんかでできる料理ではない。


 しかし、柚季は……


「そうね。それはいい考えね。それじゃあ、あしたはかつめしを作ってみようかしら」


 あっさりと承諾してくれるのであった。


「それじゃあ、今から材料を買いにいくから、ついてきてくれる?」


「ああ、わかった」


 そして、清修と柚季は学校を出て、食材を買いに行くのであった。


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