文化祭
まばゆいばかりの朝の光が窓から差し込み校舎内の廊下は白い明るさに満たされる。登校してきた生徒たちの話し声がそこかしこで響き渡り、教室内は活気に満ちてくるのだった。
幾度となく繰り返されてきた朝のさわやかな風景。
しかし、前日に学校を休み、二日ぶりに登校を果たした黒駒清修は教室に入るなり、驚きで即座に立ち尽くしてしまうのであった。
その視線の先に存在するのは、黒板の中央に大きく記されたチョークの文字。
「文化祭実行委員 黒駒清修」
立っているだけでも不快感を覚えるような夏の暑さも徐々にやわらぎ、夕方から朝にかけては長袖を着用しないと肌寒く感じるようになってきた秋の日。
高校生活の2学期というのは、イベントが目白押しだけあって、クラスの者たちも朝から浮き足立っているように見える。
しかし、それとは逆に清修の気もちは沈み、自然と舌打ちが出てしまう。
〝なんで、俺がこんな面倒な役割を押しつけられるんだ〟
文化祭を楽しみたいが、面倒くさい仕事はごめん被る――うちのクラスの連中は、きっと誰もがそういった考えの持ち主だったのだろう。
だから、ちょうど実行委員を決める日にちょうど学校を休んでいた清修に、その責務をすべて押し付けたというわけだ。
文句のひとつでも言いたくなるが、きっと自分が逆の立場だったら、同じように欠席している誰かにその役割を押しつけていただろう。
運が悪かった。そう自分に言い聞かせて、清修は自らの机に座るのであった。
「よー、清修。文化祭実行委員就任おめでとう」
すると、隣の座席の女子生徒がケラケラと挑発的な笑みを浮かべて清修に語りかける。
「うるせー! テメェはケンカ売ってんのか?」
「なに言ってやがんだ。お祝いしてやってるんじゃねえか」
不機嫌な態度を微塵も隠そうともしない女子生徒の嘲りに応じる清修。
校則違反スレスレの明るい茶髪。切れ長のつり目。崩して着用された制服のブレザーと耳に開けた大きなピアス。なによりも微塵の色香も感じさせない伝法な男口調。
彼女の名前は、武藤渚。その見た目から分かるように、時代遅れのヤンキー少女である。
「まあ、あれだな。清修、実行委委員を決める日に欠席しているオマエが悪い。ズル休みしてるから、そんな目に遭うんだよ」
「ズル休みじゃねえよ。そういや、武藤。オマエ、ヤンキーのくせに入学以来、真面目に皆勤賞をキープしてるな。ヤンキーのくせに」
「はあ?」
ことさら「ヤンキー」という単語を強調する清修。そして、その皮肉に渚は目を剥いて怒りを露わにするのだった。
「ふざけんじゃねえ! あたしはヤンキーじゃねー! 勝手にあたしをあんな時代遅れの遺物にしてんじゃねえよ!」
「だったら、なんなんだよ?」
「はあ? どこからどうみてもギャルだろが、ギャル! オマエのような陰キャに大人気、コミュ症やオタクにも分け隔てなく接してくれるやさしいギャルだよ」
「馬鹿野郎。同じ明るい髪色で派手な格好してても、オマエのはギャルのそれじゃなくて、完全にヤンキーなんだよ」
「テメェ! 聞き捨てならねぇ! オモテに出やがれ!」
自称ギャル。しかし、実態は完全なヤンキー少女の渚。
しかし、男女を問わず、清修がこの高校に入学してから最も気の置けない友人であることは間違いない。
「まあ、実行委員はもうひとりいるから、そいつと一緒にがんばって文化祭を盛り上げるんだな」
そして、渚はそう吐き捨てるのだった。
「あん? もうひとりって、実行委委員は俺の他にいるのか?」
渚に問いかける清修。
「なんだ。知らねえのか。実行委員は男女1名ずつ選ばれるんだよ」
「それで、俺のパートナーは誰なんだ?」
「ああ、あいつだよ」
そして、渚は教室の隅――窓際のいちばん後ろの席に座っているクラスメイトの少女を指さす。
「水原柚季。あいつがオマエのパートナーだよ」
流れるようなサラサラの黒髪ロングヘアー。ほっそりとした長い手足。雪のように綺麗な白い肌。
渚が指さす少女――水原柚季はにぎやかな朝の空気の中、誰とも会話することなく気だるげな表情でスマホをいじっているのだった。




