子供たちは語る〜王太子妃は逆ハーヒロイン〜
リハビリがてらに降ってきたネタを書き出してみました。
逆ハーならこんなことになる可能性はあるよね、というお話。
そうは見えないかもしれませんが、子供たちはちゃんと仲良しです。
○第二王女
ひどいですわお母様! 全部全部お母様のせいですのよ!
……何を泣いているのか、ですって!? 決まっていますわ! 初恋の君と公爵家の皆様にとって、わたくしの嫁入りなど問題外だということです!
何せあの方々は、わたくしのことを「血の繋がった家族」としか思っていてくださらないのですから!
……お母様がそんなお顔をなさるだなんて。やはり事実ですのね。親しい友人だったはずの公爵閣下のご結婚が気に入らず、強引に呼びつけて媚薬を盛ったと──
違う? 貴女はれっきとした王太子殿下の娘?
信じられませんわ……わたくしの姿は何もかもがお母様そっくりで、父親が誰であれその特徴は欠片も見当たりませんもの。
ああ、でも……たった一つだけ、お父様にもお母様にもない、公爵閣下とわたくしの間だけの共通点がありますわね。
ほら、この口元のほくろが……
○第一王子
何をそうお怒りなのですか父上。
は? 私の婚約者が決まらないから?
何を今更。そんなもの、私が生まれて以来の二十年間ずっとの話でしょうに。原因の父上が嘆かれるなんて滑稽でしかありませんよ。
……原因とはどういう意味か、と? 自覚なしですか、やれやれ。
そもそもの話、私の誕生から十歳になるまでの間で、貴族たちの平均婚約年齢が大幅に下がっているのですよ。何のためか? 決まっています。
大事な娘がうっかり私の婚約者と定められた結果、「真実の愛」とやらを理由にいともあっさり捨てられ、国外追放の憂き目を見ることになりかねない。そんな事態は何があろうとも避けなければ──ごく普通の親きょうだいであれば、そう考えるのは自然でしょう?
ええ、勿論私はそのような愚かなことはしませんとも。ですがその「愚かなこと」を実際に実行したのが他でもない父上ですからね。母上との傍迷惑極まる、踏むべき手順を完全に無視した恋愛結婚が、国益に大打撃を与えたばかりか、我々兄妹にまで悪影響を及ぼしていることを是非ともご自覚くださいますよう。
……あ、逃げた。相も変わらず情けない父だ。
まあ、非の打ち所のない容姿を見事に受け継がせてくれたことだけは感謝するけれども。母の評判や振る舞いはどうあれ、少なくとも私は間違いなく父上の子で正統な王位継承者だと、対外的にも明確に示すことができるわけだからな。
もうすぐ国王陛下との養子縁組と、北方公国公女との縁談が秘密裏ながら無事にまとまりそうだし、後は弟妹たちをどうするか……
全員が種違いとは言え幸せになってほしいが、下の妹たちは……第二王女は修道院行きを希望しているし、第三王女は誰に似たのか結構な恋愛脳だから。
え、第二王子が恋人をつれて父上のところへ? それはまた、何が起こることやら。
○第二王子
紹介させてください父上! 彼女が僕の真実の愛の相手である男爵令嬢──何ですかいきなり! いくら父上でも、何もしていない相手にいきなり怒鳴るなんて失礼にもほどがありますよ!?
……はあ? 僕の選択が間違っているから? 男爵家の娘などではなくもっと高い身分の令嬢を連れてくるべき?
熱でもおありなんですか、父上。父上の唯一の妃である母上だって、結婚前は男爵令嬢だったでしょう。
一人息子かつ王太子の父上が母上を娶れたのですから、第二王子であり優秀な兄上がいる私なら十分に同じことが可能ですよね。父上の考える結婚相手の条件に、多少融通を利かせてくださることを期待するのは間違っていますか?
確かに仰る通り、兄上の婚約者がいないのは一大事ではありますが、それはそれこれはこれ、全く別の話では。
スペアの役割? 嫌ですね、父上。確かに僕は王家の血をいくらか引いてはいますけど、間違っても直系ではないのはご存知でしょう。彼女はそのこともしっかり受け入れてくれているのでご心配なく!
あれ、どうなさったんですか父上。顔色が明らかにこの世のものではない色合いに…………え、母上の不貞を今の今までご存知なかったと!? そんなまさか……いえ、大変失礼をいたしました。詳しくは母上と僕の実父である神官長にお聞きください。
さ、お暇しようか。父上、ではなくて王太子殿下はお疲れのようだからね。
○第三王女
あらまあ、お母様〜! ちょうどよかったですわ〜。わたしはこれから、愛する勇者様に同行して旅に出るため、お母様のお部屋へ別れのご挨拶に参上するところでしたのよ〜!
聞いてない? だって言っていませんもの、当然ですわ〜。一度お母様にお知らせすれば、すぐにお父様に伝わって止められてしまうのが目に見えておりましたから、今の今まで秘密にしていたのです〜。
ごめんなさいお母様〜。お父様との「真実の愛」を叶えたお母様なら、私の決断を支持してくださると分かっていましたけれど〜……
……反対? どうしてですの〜?
ええ、確かに勇者様のお仲間たちは、皆様それは魅力的な女性ばかりですわ〜!
ですが「英雄色を好む」と申しますし〜。何より勇者様はわたしの「真実の愛」のお相手ですもの〜! お母様譲りのこの容姿とスタイルを駆使して、全力で勇者様の正妻の座を勝ち取ってみせますわ〜! 楽しみにしていてくださいませね、お母様〜!
……ええ〜?「第二王女に続いて、あなたも私を見捨てると言うの!?」ですって〜?
そんな、誤解ですわ〜! お母様に色々思うところがあるのは否定しませんけれど〜。こうして元気にこの世に産み出してくださったことと、宮廷魔術師長譲りの膨大な魔力という、勇者様のお供として最高に役立つものを与えてくださったことにはちゃんと感謝しておりますのよ〜!
まあ、わたしが何も知らないと思っていらしたのですね〜。自分の実父が誰なのか、わたしだけでなく兄妹全員が知っておりますのに〜。
ですから誤解ですわ〜、わたしは本当に怒ってなどおりません〜。
お母様にとっては、お父様を筆頭に騎士団長、某商会長といった七人全員が「真実の愛」のお相手だったというだけのことなのでしょう〜? 全員に愛の証である子供を作って差し上げられず残念でしたわね〜。
複数の殿方を愛するお気持ちは正直理解できませんけれど〜、お母様が好きに生きていらっしゃるのですから、娘のわたしも好きな人生を送らせていただくことにしますわ〜。
お父様にもよろしくお伝えくださいませね〜。それではお元気で〜!
そうそう、第一王子と第一王女には、近いうちに結婚祝いを贈らなくてはいけないわね〜。
何がいいかしら〜。勇者様も相談に乗ってくださるそうだから、楽しい時間が過ごせそうだわ〜。
○第一王女
さてと、次は……あらお父様、いえ王太子殿下ではございませんか。わたくしに何の御用でしょう?
実の父ではなくとも同じ血に連なるのだから冷たくしないでくれ? そう仰られましても……わたくし、あなた様のことはまだ怒っておりますので。拝見したところ未だにご不満そうですし。
可愛い娘を正妃でなく側妃にしようとする帝国の方が悪い? ですから何度も申し上げている通り、それはわたくしの希望なのですわ。
──表向きは王太子の長女ですけれど、実態は王弟と王太子妃の間の不義の娘。そのような立場のわたくしを見初めてくださった皇太子殿下と歓迎してくださる皇帝ご夫妻に、真実を明かさずに嫁ぐなどという不誠実なことはしたくありませんでしたから。
正妃でないのをいいことに皇后にいびられる? 生憎ですわね。正妃ではなくともわたくしは皇太子殿下の唯一の妃であり、殿下はわたくし以外の妻を娶りはしないと断言なさいましたの。ですからわたくしも、自分がその立場に相応しいと確信を持てた暁には間違いなく正妃の座に就くと、両陛下と殿下にお約束いたしましたわ。
何より皇后陛下……お義母様は、両親の罪を何ら非のない子供が背負う必要はどこにもないと、それは優しく微笑んでわたくしに仰ってくださいました。王太子殿下は、二十年前に捨てた元婚約者の素晴らしさを未だに理解していらっしゃらないようで、残念としか申し上げられませんわね。
ああ、それとも第一王子の仰る通り、最初から理解するおつもりがないのかしら? 大陸最大を誇る帝国の皇后にまで至り、賢妃賢母と名高い元婚約者を捨ててまで娶った妻が、尊敬していた叔父やかつての友人たちと密かに通じて子を産むようなとんでもない女だったなんて、正面から認めるには大変な勇気が必要でしょうし……
その口を閉じろ? ええ構いませんわ。ご覧の通り、わたくしも侍女たちも帝国への出立準備で忙しくしておりますので、正直なところ雑談をしている暇も惜しいほどですの。
とは言え、わたくしが里帰りをするのは最短でも次期国王陛下の戴冠式でしょうから、こうして近しくお話ができるのも今日限りですわね。──たとえご存知ではなかったにせよ、実の娘ではない者を曲がりなりにも王女として扱ってくださったこと、心より感謝申し上げますわ。
帝国より、現王太子殿下のご無事を祈らせていただきます。どうかお元気で──
……ふう。やっとお帰りくださったわね。
無知は至福とはよく言ったものだわ。書類上では既にご自分が王太子ではなくなっていることなど、全く悟ってはいらっしゃらないのでしょうから。
実の息子の兄上と、娘でなくとも従妹ではあるわたくしのことは今まで通り身内として扱ってくださったにしても、弟妹たちをあからさまに見下していることと過去の皇后様への過ちは、姉として義理の娘として絶対に許せませんのよ。反省の色があるのならまだしも、全くないからこそ尚更。
今はあえて黙っていますけれど、いつ本心を明かして差し上げるべきかしらね?
やはり戴冠式当日が最適かしら……皇太子殿下と兄上にもご相談しなければ。
お読みいただきありがとうございました。
時間経過が分かりにくいですが、
第二王女→(半年後)王子二人&第三王女→(更に半年後)第一王女
くらいの流れになっております。
最後のあたりで王太子妃と元取り巻き連中がどうなっているかは基本想像にお任せ。ただ少なくとも公爵(第二王女実父)はがっつり後悔と反省をしていて、家族と国王もそれを受け入れています。
兄妹の年齢は第一王子(20)、第一王女(19)、第二王子(17)、第二王女(16・語り時点では15)、第三王女(14)です。
その気になれば兄妹それぞれをメインに短編くらいは書けそうな感じですが、今のところ予定はなし。年単位の計画のもと勇者をきっちり惚れさせて尻に敷く第三王女とか面白そうですけどね。
第二王女がちょっと心配ですけど、親と離れて失恋の傷が癒えればどうにかなるはず。