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帰路 〜闇の怪異〜

作者: 逢坂 蒼

夏のホラー2023参加作品。


帰り道の暗闇に潜む怪異との遭遇を描いたショートショート。

 

 とある日、とある町、とある所での帰り道。いつもの帰り道なのに、私の目の前に不意に現れた暗闇は、私の心に唐突に不安を与えた。

 街灯の光はあまりにも遠く暗く、私の足音は不気味な響きを辺りに響かせていた。それはまるでその場には私しか居ない事を暗示するかのように。


 その時不意に、何かが私を追いかけているような気がして、背筋にゾクゾクと悪寒が走った。私は今過ぎてきた薄闇を振り返り、背後を確認しようとしたが、そこには当然何も無く、私はホッと一人胸を撫で下ろしたのだ。


 しかし次の瞬間、私の耳に何かが近付いてくるような音がした。しかも背後の薄闇から。そしてそれはまるで、誰かが私に(ささや)いているかのような音だったのだ。私は恐怖に打ち震え、その場を去ろうと目の前の暗闇へと歩を進めた。

 それでもまだ何かが近付いて来る気配は消えず、私は知らず知らずのうちに歩幅を速めていた。

 暗闇に対する不安は、背後からの得体の知れない気配にいつの間にか掻き消されていた。


 闇を抜けた先には、それまでの街並みと明らかに異質な、見慣れない風景が、(ほの)暗い街灯の灯りに浮かび上がっていた。そして私の目の前には、やはり見慣れない建物が闇の中から現れた。それは、いかにも古く、荒れ果てているように見えた。

 私は、その建物に何かが潜んでいるような気がして、思わず足を止めたのである。


 すると、その時、建物の中から何かが吐き出されるかのように出てきた。それは、人の姿をした何かだった。男なのか女なのかすら分からない、人の姿をした何か。それが人では有り得ない動きをしながらゆっくりと私に近付いて来るのが見える。


 私は、その姿をつぶさに確認することができなかった。何故かそれを確認する事が「良くない事」の様に思えたからだ。


 私はその何かから後退(あとずさ)りし距離を置こうとするが、その何かは確実に少しずつ距離を詰めて来る。そして一瞬だけ、確実に私の方へと頭を向けるとクチと思しきモノを開く。私を見て口角を上げて笑ったのが目に飛び込んで来た。

 それを見た瞬間、私は踵を返して全速力で走り出した。しかし、その人の様な何かは私を追いかけてきた。私は恐怖に駆られ、ただただ必死に逃げた。


 そしてやっとのことで、私は自宅に辿り着いた。何処をどう通って来たか、全く記憶に無いが無事に辿り着いたのである。


 しかし、自宅に辿り着いてからも私の心はまだ酷く動揺していた。あの何かが、私を追いかけてくるのではないかと、恐怖に打ち震えていた。アレは暗闇が私に見せた「恐怖」と言う幻覚だったのかもしれないが、私の心に消える事の無い深い傷を残したのは確かだ。


 そんな事があったあと、私は、いつも以上に帰り道を注意深く歩くようになった。あの日以来、私は、夜の暗闇を怖がるようになってしまったのであった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 街頭の不具合とか、家からの灯りが住人の旅行など消えたりで普段より闇がちょっとでも深いことはありますが、そういう闇がたまに異界に繋がるのでは、という本能的な恐怖がうまく出てました。
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