光り喰い その後
光り喰い その後
あれから私は、自分が徐々に変わっていくのを、否応なく自覚していった。
はじめに感じたのは、光が二種類に分けられると言うことだった。
人工の光の味気なさ、太陽、月、星という自然の光のうっとりとするほどの魅力。
もちろんTVに映る、波の反射光や深海生物の光る色も魅力的ではあったが、何か紙を噛んでいるような感じもついてまわった。
私はタバコを吸っていたが、ある日、タバコの先に光る火を延々と眺めている自分に気が付きハッとした。
しかも私は、その火を食べようとしていたのだ。
私は、ぞくりとした。
何かが、私の中で何かが変わっていっている。
しかも、私自身、それに気が付かないまま。
私は、職を辞した。
かの友人のように溶鉱炉に、いつか飛び込むことになると予感してきたからだ。
溶けた鉄のあの紅く美しい色。
仕事でさえなければ、間近で延々と見ていたい衝動は抑えられなかった。
家の中にいても、悶々とする日々。
気が付けばライターを点け、その炎を見つめている自分。
私は、外に出た。
街の中は人工の光ばかりで、心が寒くなる。
明治のようにガス灯があれば、私の心も潤うであろうと夢想する。
そんな自分にハッと気が付く。
私は、火を見る事に心を奪われている。
その事に気が付く時間が、段々と少なくなって来ている。
私は、私に恐怖した。
このまま行けば、私は火を、炎を見るために、とんでもない事をしでかすかも知れない。
夜、家に戻ると、買ってきたろうそくに火を点け、うっとりと見つめている自分がいた。
いつの間にろうそくなんて買ってきたのか、私は覚えがない。
しかし、確かに買ったのは自分なのだ。
ろうそくの火のなんと美しく、甘美なものか。
溶けていくロウが芯に吸い寄せられ、そこから青、オレンジに移り、そして太陽光に向かうような美しいグラデーションの光を放つ。
そしてその火はそこにとどまりながら、涙滴型の生物のようにゆらりと揺れ続ける。
私はそのろうそくを手に、火を口元に近づけた。
熱さは気にならなかった。
口の中に入れると、瞬間的な痛みが走ったが、それだけだった。
違うっ。
私が欲しいのはこれじゃない。
私は口を開けると、消えてしまっているろうそくの先を見た。
芯の先から白い煙が、火を待ち望んでいるように、か細く立ち上っていた。
再びライターに手を伸ばす。
私はハッとなった。
違う。
私は、何をしているんだ。
私は混乱していく頭の中で、必死に考えた。
そう、見るから、私は、火に魅入られるのだ。
見さえしなければいい、見さえしなければ。
私はまるで恐怖に怯える老人のようにガクガクと立ち上がった。
膝が壊れた機械のようにふるえ、まともに歩けない。
体も手も、ふるえ続ける。
私は混乱の中、それを二本探し出した。
机の上に手を置き、それを左右一本ずつ握り締める。
手はそれでもふるえ続けた。
手の中には竹串が一本ずつ。
私はそれを両の目ではっきりと捉えた。
とがった先が、私の目を狙っていた。
見さえしなければいい、見さえしなければ。
私は呪文のように唱え続け、その先に向かって一気に顔を落とした。
脳裏に一瞬の電気のような白い光が走り、後は何も見えなくなった。