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ガールズ?トーク(2)

 一体どこから声が? 空耳? と思いながらキョロキョロしていると、心から軽蔑するような表情をしたマーガレットさんが「あっち」とすぐそばの窓を指さした。窓? まさか……!?


「危険な事をするくらいなら正面から来てと言ったでしょーっ!?」


 窓の外にあるアルマン様の顔! ここ三階だよ!? 落ちたらどうする気!! あれだけ言って聞かせたのに、全然躾られていなかった!!


 慌てて窓に駆け寄って鍵を開ける。それを待っていたかのように素早く窓を開け、中に入ってくるアルマン様。


「服飾部の入り口ドアは鍵が掛かっていて開けてもらえなかった。邪魔をするなと言われたからずっと窓から見ていただけだ。見るな、とは言われていない」


 まさか初めからいたの!? ならば、先程の会話も全て聞いていたのかもしれない!


「本当に行動が変態よねぇ」

「煩い。あと私のジゼルを返せ」


 勢いよくアルマン様に抱き寄せられ、唇にキスされる。突然の事に頭が追い付かず、目をぱちぱちさせてしまう。


 伏せられた長い睫毛の下からゆっくりと覗いてきたのは、あの靴墨のような黒。超至近距離で見つめてくる黒に吸い込まれそうになっていたが、服飾部社員の囃し立てるような声で我に帰る。恥ずかしくて腕の中で身動ぎしようとするが、許されない。動こうとする度に、離さないと言わんばかりに腕の力を強められ、縋り付くように執拗に口付けられる。


 昨晩と同じように体の力が抜け、自分の足で立っていられなくなるが、それでも逃れることは叶わず。先程までマーガレットさんがパターンを引いていた机の上に押し倒され、机とアルマン様に挟まれ余計に逃れられなくなってしまう。軽く体重をかけられるだけで、こんなにも動けなくなってしまうなんて知らなかった。


 硬い机に縫い留めるかのように押さえつけられた両手。唯一自由のきく指先でアルマン様の手の甲を握るようにして力を込めてみるが、やはり効果は無し。皆の前でこんな事をされてしまうだなんて、私は……羞恥心で死にそうです!!


「はい撤退ー!アルマン様がご乱心なので全社員撤退撤退〜!!」


 気を使ってくれたのかマーガレットさんが服飾部社員達を部屋の外に連れ出してくれる。「えー、もっとラブシーン見たかったのにぃ」なんて声が聞こえるが、アルマン様は恥ずかしく無いわけ!?


「や、ぁ……」


 一瞬唇が離れた瞬間を狙って、辞めてくれるように意思表示してみるが効果はない。


「それ……煽っているの?」


 逆効果だったのだろうか。唇は開放されたが今度は首筋を甘噛みされてしまう。


「ひゃっ……ち、違います……!」


 甘くて危ない雰囲気に流されてしまわないよう、必死に否定する。


「やっとこの香りのする肌に歯を立てられる……どれだけ夢見た事か」


 歯を立てるのを夢見る!? 驚きの発言に戸惑っている間にもカプカプと首筋を噛まれ、その噛み跡に舌を這わせている……変態!? 


「……ごめん。ジゼルを悲しませてしまった私の行動を許して欲しい。私が愛しているのはジゼルだけなんだ。ジェラルディーヌ抜きで、ジゼルをジゼルとして愛している。ただのコレクションなんかじゃ無く、ジゼルだからこそたった一人の妻として迎え入れたい」


 耳元で囁かれた謝罪の言葉。悲痛な響きを含んだ、許しを乞う言葉。


「二度と他の女性には触れないと約束する。もう一度あの強固な警備の屋敷に忍び込もうと思うのも、戸籍のために闇ルートを使うのも、ジゼルだからだ。それ程までに恋焦がれて……こんな大人がここまで執着するなんて、情けないだろう?金貨が全てジゼルの横顔に見えてきて、見るのが辛かった」


 私の右手を縫いとめていた手が体の側面、腹から腰、太ももまで一直線に撫でるようにして辿り、私の右足を持ち上げる。


「ちょっと……!?」

「許してくれるなら、やめる」


 そう言いつつ私の右足のヒールを脱がせて、足先に口付ける。と思ったら更に足先を口に含んでしゃぶりつくようにして舐められる。ざらりとした舌が這い、爪の間に生暖かい液体が入ってくる感覚。


「ひゃっ……ゆ、るします。許しますから、やめて……!」

「二言はないね?」

「ないです!」


 これでは変態の思う壺だろうか? でも、こんな場所でこんな事をされるのに比べれば……許す方が遥かにマシ!


 やっと開放された体を、硬い机の上から起こす。もう息も絶え絶え、涙目だ。まさか商会内でこんな目に遭うなんて、少しも考えていなかった。


「あぁ……上気したこんな可愛い顔を見せてくれるようになるなんて。昨日までの地獄の日々はこれを味わうためだったのかと思うと、苦しみが報われるかのようだ」


 出ました、恍惚とした変態の表情。当初は私の横顔を通してジェラルディーヌに対して向けられていたその表情は、今は私本人に向けられている。

 恋って、怖いものね。こんな普通の人が見れば引くような情景ですら……嬉しいなんて。私を通して、私では無い誰かを見つめられていたからこそ理解できる、私自身を見て欲してもらえる喜び。ただのコレクションじゃなかったんだ……アルマン様はちゃんと私自身を好きになって、私だから結婚したいと、望んでくれていた。


「その上品で花が綻ぶような笑み、淡いピンクの薔薇が徐々に色を変えながら開花していく様子に似ていて……無自覚だろう?まさか硬貨を磨かずともその笑顔を出してくれる日がくるなんて、思ってもみなかった」


 押し倒されはしなかったが、結局再び強く抱きしめられて……「仕事出来ないーっ!!」という服飾部社員の抗議の声が部屋の外から聞こえて来るまで、私はその腕の中に囚われたままだった。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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