確実に手に入れるために(1)
「ここなら邪魔は入らないな」
連れてこられたのはラピエース商会内にあるアルマン様の執務室。なんと財務部の部屋の目と鼻の先にある。成る程。財務部にタイミング良く度々現れるなぁとは思っていたのだけど、こんなに近くにいるのなら納得できる。ジェラルディーヌ成分が切れたらいつでも補充できる距離ですね。
しっかりと内側から鍵を掛け、私をソファーに座らせる。そしてアルマン様自身は私の横という定位置に座る。
そういえば昨日屋敷に連れ戻されてからは「私は後処理があるから」と言って、朝まで一人自室に篭っていたから、もしや成分切れ?
「……お好きなだけ、どうぞ?」
「お願いだから横顔で私を煽って耐久力を試すのは辞めてくれ。真面目な話をするつもりで連れてきたのに、つい目を奪われてしまう」
そう言いつつ私に渡される、書類の束。その分厚さ約五センチ。
「何ですかこれ?」
「ジゼルの出自について、ポールが調べ上げた書類だ。……ジゼルはどこまで知っている?」
パラパラと書類をめくって読んでいく。
私の母の名前は、クリステル・マリア・シャロン。
私の本当の名前は、アリエル・ローズ・シャロン。
父の名前は、ラファエル・ド・ロベール。現国王の弟。
ラウルは「シラを切られた」と言っていたが、この世界の戸籍は必ず生物学上の父母の名前が記載される。なんて酷い国王の弟、と思っていたが戸籍上名前を載せてくれるという事は、シラを切ってはいない。だって、結婚していなくとも、生物学上の父だと認めてくれている訳だし? 行為自体はタブー中のタブーだけど。
そして私は、
「戸籍上、ちゃんと死んでいる……」
今ここで生きているのに除籍されている。クリステル様は……お母様はどのようにして私の死を戸籍まで偽装したのだろうか。シャロン伯爵に嘘を付き、戸籍上は生かしてくれているのだと思っていた。
「なんだ、その顔だとある程度知っていたのか。ならば私にも教えてくれればよかったのに」
「シャロン伯爵邸で初めて気が付いたんです。余りにもクリステル様と顔が似ているし、なんとなく屋敷内に見覚えがあって、そこから……」
だから決してアルマン様に隠していた訳ではない。
「あそこの伯爵家は昔から王族との繋がりも濃い。ここまでジェラルディーヌに似た横顔を持っている時点で私も怪しむべきだったのかもしれないが、まさか王族の血を引いた者が平民としてその辺を歩いているとは思わないだろう? 元々貴族だったのだろうな、くらいにしか思っていなかったから心底驚いた」
アルマン様によって私の手にある書類が何枚か捲られていく。現れたのは信じられない文章。
「これって裁判の判決状?」
出てきたのは、クリステル・マリア・シャロンの、有罪判決。罪名は、殺人。被害者は、
「私?」
伯爵令嬢が家出からのストレスで子殺し。遺体は火葬後埋葬された状態で発見。埋葬場所や伯爵邸からの家出後住んでいた部屋からアリエルの髪色と同じ毛髪が多数確認された。証言と状況証拠からアリエル・ローズ・シャロンは死亡と判定。そしてクリステル・マリア・シャロンは獄中で早々に病死。
……これなら、シャロン伯爵邸の人々が病的にクリステル様を想っていたのも理解できなくはない。お金の為に私を亡き者にして娘を嫁がせようとしたばかり、愛娘は家出して結局殺人まで犯し投獄されてしまったのだから……後悔して当然だろう。判決まで出ているのだから、私を見てもアリエルが帰ってきたなんて考える訳がない。
「恐らくこの遺体は別人なのだろう。本当に他人を殺したのか、骨だけ何処かから調達したのかは知らないが。ジゼルの髪を使っている時点で計画的な犯行だろうな。ちなみにジゼルが一緒に暮らしていた親方とやらは、これより以前にクリステル・マリア・シャロンから直接アリエルを託されていた。……吐かせるのに時間がかかったが」
「まさか親方に酷いことしてないでしょうね!?」
吐かせるのに、という単語で出会った初日に親方が蹴られた事を思い出してしまう。
「していない。ジゼルが誘拐されて出自と関係があるであろう貴族宅で酷い目にあっていると大袈裟に説明したらやっと吐いてくれたと聞いている。身を狙われているから貴族には近付けないで欲しいと、お願いされていたらしい。それもあって私の元へは嫁がせたく無かったのだと。……よくも可愛い娘を、と聴取に向かった兵が私に対する愚痴を散々聞かされたと言っていた」
だから親方は貴族宅に出向いて仕事をしなかったのか。腕が良く何度も良い条件で貴族から声をかけられていたのに、ただの貴族嫌いなんかじゃなくて、私を守る為に断っていたのか。
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