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よく耐えたな……財務部

 連れ戻された翌朝。私はラピエース商会の財務部にいた。


「ご迷惑おかけして申し訳ございませんでした」


 今朝、無事追手を巻いて帰ってきたポールに「ラピエース商会の中では、ジゼル様は誘拐されたことになっていますから話を合わせておいてください」と注意された。しかし、自らいなくなった上に皆の手を煩わせてしまったのは真実なのだから……真相を伏せた状態でも謝っておかないと私の気が済まない。そう思いながら深く頭を下げた。


「ジゼル様……! よくご無事で……!!」


 そう言いながら一番に飛びついてきたのはアネット。わんわんと私に抱きついたまま泣いてしまい、後ろからダニエルがハンカチを差し出している。


「本当に無事で良かった。もうジゼル様無しではこのラピエース商会は回らなくなってしまって……過労死するかと」


 そう言うダニエルの顔は……やつれていた。ダニエルだけでなく、他の財務部社員の顔もげっそりしている。


「え? ごめんなさい……そんなに忙しい時期に留守にしてしまったなんて。今日から毎日頑張るから、溜まっている仕事あったら何でも言って? 読み書き計算は何でも出来るから」


 そう言えば、平民として暮らしていたのに読み書き計算が苦無くできるのは……やはり記憶がなくとも貴族時代の教育の賜物なのだろうか。とにかく、留守にしてしまった分働かなくては。


「いや、今日からはアルマン様とポール殿がある程度通常に働いているので、そこまででは……」


 どういう事なのだろう?あの二人と財務部に何か関係があるのだろうか? 当然同じ組織内で働いているのだからある程度は関与はあるだろうけど、過労死寸前レベルまで追い詰められる程関与があるとも思えない。


「……ぐすっ。ジゼル様が居ない間、本当に酷かった。あんなアルマン様見た事ないです」


 アネットの話によれば。どうやら普段はポールがアルマン様のラピエース商会オーナーとしての仕事やラピエース男爵としての仕事を手伝っているらしい。それが私の捜索にポールの手が取られた事によって、普段二人分の仕事をアルマン様が一人で抱えることになってしまった。そして私の事が気になり本調子では無いアルマン様がそんな二人分もの仕事を捌けるわけがなく、男爵としての職務で手一杯だったため……ラピエース商会オーナーの仕事はこの財務部が死ぬ物狂いで回していたらしい。アルマン様やポールは涼しい顔をしてこなしているが、実際の業務量は財務部社員が過労死するレベルだったようで……。

 ちなみに、財務部よりそんな仕事に適していそうな経理部は、任された初日に壊滅したらしい。よく耐えたな……財務部。


「アルマン様に指示を仰ごうとしても、鬼のように機嫌が悪くて……。ジゼル様が見つかるまで商会全社員休日返上ボーナスカットを通告された上に、アルマン様本人もあんなに大好きな金貨を一切愛でないという狂い様。唯一ストッパーになり得るポール殿も居ないとなると、もう……。全社員手が空けば血眼になりながらジゼル様を捜索していました」


 アルマン様、それはやり過ぎでしょう! そりゃアネットもわんわんと泣くわ!!


「……申し訳ございませんでした」


 再び深々と頭を下げる。いや、この程度では足らないな。土下座しよう。

 という訳で、くっついているアネットを離して、その場で土下座する。


「ちょっとジゼル様!? 何してるんですか!!」


 額を床につけて「申し訳ございませんでした!!」と再再度謝罪する。

 私のせいで善良なラピエース商会社員を苦しめてしまっていたなんて……こんな土下座では許されるような事では無いだろうが、せめて謝らせて欲しい!


「ジゼル様やめてください、こんな事をしているのをアルマン様に見られたら……」

「私がどうした? ……ジゼル、床に這いつくばるのは辞めろ。そして、私のジゼルに何て事をさせている」


 いきなり室内の気温が氷点下に落ち込んだ。地獄に突き落とされたかのような顔で凍る財務部社員達。真後ろから感じる殺気立った冷え切った空気。……あ、これは私がどうにか止めないと、財務部社員の息の根が止まるやつだ。せっかく壊滅を免れ生き延びたのに、トドメを刺されてしまう!

 私も一緒に凍りつきたいのだけど、必死で体を動かし床に座り込んだまま、突然後方に現れたアルマン様を見上げる。


「違うんです! 私が謝りたいからこうしているだけで、決して強要された物ではございません。……ほら、財務部の皆も私の行動にドン引きですし!? ね、みんなそうよね!!」

「「「はい!!」」」


 ここまで私と財務部社員達の気持ちが一つになった事があっただろうか?いや、ない。だって一緒に仕事をしたの、余裕で片手で数えれるような日数しかないのだから。片手どころか、指2本で足りる。


「……へぇ」


 明らかに納得していない声色で返事をしたアルマン様は、私の脇を掬うようにして、床に座り込んだ私を立たせる。


「ジゼルは悪くないのだから、謝る必要はない。……誘拐されたのだから。誘拐」


 誘拐、を強調される。「朝ポールに注意されただろう?」と言わんばかりの冷たい視線。


「ジゼル様、そうですよ! ジゼル様は被害者なのだから謝る必要なんて無いんです」

「怖かったでしょう? ジゼル様の辛さに比べたら、過労死の危険なんて痛くも痒くもない」

「二度と誘拐されないように、四六時中アルマン様の側にいてください。それが我々社員の命を救うのです!」


 財務部メンバーが必死にフォローしてくれる。いや、フォローというか、身の安全を守るための希望を述べている? とりあえず、本当は誘拐なんかじゃなのに、と思うと胸が痛い。


「……それでも、私の不用意な行動のせいで迷惑を掛けたのには変わりないから。帰ってこられて、またみんなと会えて嬉しい。どうかこれからもよろしくお願いします」


 私はアルマン様のコレクションとして、ここで一生自分の恋心を殺して暮らしていくのだから。この財務部の人達くらいとは、本音で話し合える関係に、いつか成りたい。


「気が済んだなら私と一緒に来て。今日ジゼルはもうここには戻さないから、全員通常の業務に戻るように」


 戻さない、という言い方が引っかかるのだが。部屋を氷点下にした張本人を早く追い出したい財務部社員一同によって、私はドナドナされていくのだった。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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