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ラウルは我慢しましたからね!?(1)

「ラウル! やだ、私こんな事されるの嫌!」


 絶対に逃さないという屋敷中の強い意志で、私はクリステル様の部屋に押し込まれた。そしてラウルに、クリステル様のベッドに押し倒され、頬に口付けられる。


「どうして? ジゼルは俺のお嫁さんになるんだよ。この部屋にいるのも、それまでの辛抱だから」


 後ろ手に縛られた手首。きっちりと縛られており、緩めようと手首を動かそうとしても、ろくに動かない。ちょっと待って、この状況は大変マズい!!


「ラウル、お願い! 私……」

「そんな泣きそうな顔しても駄目だ」

「……キスは結婚してから!! マナーも守れないラウルなんて嫌い!! 私の好きだったお兄ちゃんはそんなんじゃ無かった!!」


 咄嗟に出た言葉。しかしラウルを止めるのには効果絶大だったようだ。


「ジゼルに嫌われたくはないな……うん、我慢する。しばらくここで大人しく待っていてね。伯爵様と俺で守ってあげるから」


 そう言いつつ散々頬だけには口付けて。ラウルは部屋を後にした。正直身の危険を感じていたのでこの程度で済んで良かったが、こうして私はクリステル様の部屋に閉じ込められてしまった。この部屋にもテラスは存在するが、部屋に出入り出来る場所には窓も含め全て南京錠が掛けられてしまい、廊下に繋がるドアにも外から鍵かかけられている。これではマーガレットさんと約束したテラスに出られない! 可能性に賭けてテラスに通じる観音開きのガラス戸にぶつかってみたり、南京錠を咥えて引っ張ってみたりするが、どうにもならなかった。


「どうしよう……」


 まさかこんな事になるなんて考えてもいなかった。悩んでいる間にも夜の闇は深まっていく。……もう私は諦めてここで暮らしていくしかないのだろうか。


「お母様」


 テラスへ繋がるガラス戸の前にしゃがみ込み、ぽつりと呟いてみる。初めて言ったけど、初めてな気はしない。覚えていないけど、きっと私はクリステル様をそう呼んでいた。どのようにして私の死を誤魔化したのかは分からないが、お母様のお陰で私は今生きている。


「お父様」


 ついでに口に出してみたが、こちらには口馴染みが無い。まさか私が王族の庶子だったなんて、思いもよらなかった。庶子、と言うのもクリステル様が伯爵令嬢なのだからおかしいけれども。


「……アルマン様」


 最後にもう一回お会いしたかったです。せめて、


「……お別れの言葉だけでも言いたかった」

「何? 私はジゼルとお別れしてあげるつもりなんて無いけど」


 降ってきた、ずっと聞きかかった声。反射的に顔を上げる。ガラスの向こう側にあったのは、初めて会った時と同じく目を奪われるような、月明かりを受け輝く美しい黒髪。服装は庶民風の格好をしているが、纏う服に関係なくアルマン様独自のオーラは変わらない。


「嘘……」


 アルマン様の元へ帰りたいと思いすぎて、幻でも見ているのだろうか? コレクションの為とはいえ、男爵様ともあろう方が、伯爵邸へ不法侵入なんてする訳がない。


「嘘じゃない」


 観音開きの戸の隙間からU字型を複雑化したような針金が差し込まれる。そしてアルマン様は器用に戸の内側に掛かっている南京錠に針金の先端を入れ、錠を外してしまった。


「嘘……」


 先程とは違う意味で、全く同じ言葉が出た。今をときめく成金男爵様で大商会のオーナーが、こんな泥棒みたいな真似できるの?


「そんな顔で見ないでくれる? ……実はこれ昔から得意なんだ。ガラス戸なら鍵が見えるから余裕」


 そう苦笑いしながら扉を開き、縄を解いて座り込んでいる私を立ち上がらせる。


「ジゼル、迎えに来たよ。私のものなのに他の男に捕まるなんて、悪い子だね」

「あの、アルマンさ」


 途中で唇に口付けられ、続きの言葉は消えていってしまう。「さ」の発音の時、口が開いた状態で口付けられたので、初めてなのに深く舌を絡められ……立たせてもらったのに腰が抜けてしまった。ふにゃふにゃと力が抜け再び座り込む私を、唇を繋いだまま追いかけるようにして求め続けてくる。このまま食べられてしまうのではないかと思うほどの長い口付けのから開放された後、アルマン様は自分の口元に人差し指を立てて当てた。


「……静かに。囚われのお姫様は今から悪い泥棒に脅されて誘拐されるのだから、無事助かりたかったら大人しくして、抵抗はしない事。いいね?」


 抵抗なんてするつもりは無かった。ただ、迷惑をかけてごめんなさいと、謝りたかっただけなのに。


「あのっ偽造硬貨が」


 謝るのは後でもいいが、この重罪だけは先に伝えておかなければ。そう思い、静かにするように言われたばかりだけど、口を開く。


「大丈夫だ。そちらも対処してあるから、黙って」


 アルマン様は腰が抜けて座り込んだ私を肩に担ぎ、テラスに出る。テラスの壁に垂らされた一本のロープ。私を担いだまま器用にロープを伝い壁を蹴って屋根まで上がる。……担がれている方が生きた心地がしませんでした。キスで腰抜けてなくても、これで腰抜けるわ……! 少し手を滑らせて落とされたら死ぬよ!?


「ポール、ロープの回収を頼む」


 屋根の上にはアルマン様の専属執事のポールの姿もあった。アルマン様と同じく変装なのか庶民風の格好をしている。


「お久しぶりですねジゼル様。次は向こうの木に飛び移りますから悲鳴は厳禁ですよ」


 ……向こうの木?

 チラリと、その向こうの木とやらを見る。……結構離れているように見えるんですけど!?

 助けに来てくれたのは本当にありがたい。ありがたいのですが! ……もうちょっとマシなルートで助けて欲しかったと思ってしまった私は、贅沢なのでしょうか?

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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