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塗りたての靴墨のような、あの黒が好き

 私がお願いしたのはドレスだった。クリステル様のドレスでは少しサイズがきつくて、一枚でもいいから違う服を買っていただけないかと交渉した。……本当はそこまでキツくはない。少々はキツイの? というツッコミはやめて下さい。生粋の伯爵令嬢とは元の体格が違うんです!!


「ジゼルの頼みなら何枚でも買ってあげよう。どこの仕立て屋を手配しようか?」

「ならラピエース商会がいいです」


 今日は調子が良いのか、私の事はジゼルと認識したようだ。ラウルが、私に迫って来たのがアルマン様だと言っていなくて良かった。


「ほう、あんな男爵風情の店でいいのかい?」

「伯爵様、それでもあの商会のドレスは流行の最先端なのですよ?クリステル様はお洒落な方だったとお聞きしました。きっと生きていらっしゃったら、着てみたかったに違いないわ」


 クリステル様を絡めると恐ろしいほど事がスムーズに進んだ。シャロン伯爵の娘への愛情が重い。





 連絡を受けたラピエース商会は、まるで待ち構えていたかのようにすぐに人員を送り込んできた。文を持たせた使用人が帰ってくるのに同行してくるとは思わないよね? こういう行動が素早い所が、顧客を増やす重要な要素となっているのだろうなと、客側になってみるとよく理解できる。


「今回はラピエース商会をご指名頂きまして、ありがとうございます。シャロン伯、女性物のドレスとお伺いしましたが……そちらのお嬢様の物でよろしいですか?」


 応接室でシャロン伯爵と一緒に出迎えたラピエース商会の担当者は、まさかのマーガレットさんだった。私を見て驚く風もなく、平然としている。もしかして、私がここにいると、知っていたのだろうか? 見た目が完全に女性とは言え、本物令嬢の採寸だと認識していたのならば、性別が怪しい者を送り込むとは考えにくい。


「そうだ。死んだ娘に良く似ていてね。このまま養女として迎え入れても良いと考えている。ラピエース商会のドレスは流行の先端なのだと強請られてね、この子に似合う物を頼むよ」


 伯爵様は本当に調子が良いらしい。私の事をジゼルだと認識し続けているようだ。


「畏まりました。ラピエース商会の名にかけて、お嬢様にピッタリのドレスをお仕立ていたします」


 採寸をするからと応接室から伯爵様は退出したが、壁際に使用人の女性は控えたままだ。これではこっそり話をする事も助けを求める事も出来ない。


「お嬢様、採寸前にお名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「ジゼルと申します」


 名前も、なんなら全身のサイズも知っているだろうに、何故か質問される。質問されたら答えないと変なので、答えはするけど……頭の中は疑問符だらけだ。


「ジゼル様ですね。ジゼル様はどのような経緯でこちらのお屋敷に?」


 ……あぁ、これは事情聴取か。きっとアルマン様に聞いてくるように言われているのだろう。世間話のフリをして、どういう経緯でこうなってしまったのか問われているのか。


「えっと、結婚を迫られて悩んでいたら、こちらで働いていた兄弟子に連れて来られ、シャロン伯爵様に保護されまして。……死んだ娘に似ているから、と申し訳ないほど本物のお嬢様のように扱っていただいております」


 病的にクリステル様を崇拝している使用人の女性達に聞かれているので変な事は言えない。当たり障りのないように、事実だけを述べる。


「そうだったのですね。いきなり貴族のお嬢様になって心細くはないですか? 帰りたい、と思うことは?」


 こっちが言葉選んでるのに、いきなりぶっ込んだ質問しないでくれます!? そりゃ帰れるのなら帰りたいよ! ……アルマン様の事、好きになってしまう前に。あんな綺麗な女性とのキスシーンを見てしまう前に、帰りたい。


「あります。ただ、ここまで良くしてくれる伯爵様の元を去るのは、と思うと」


 帰りたいと本心のまま言えればどれほどよかったか。使用人に聞かれている事を考えると、これ以上は言えなかった。下手に出て、監禁されてしまっては終わりなのだから。それくらい、ここの屋敷の人達は病的だ。ここ数日で鍛え上げられた私の変態察知対応センサーがそう告げている。


「そうですか。ジゼル様、ところで好きな色は? ドレスを作る際の参考にしますので教えてください」


 マーガレットさんは、私の好きな色も知っている。散々ウエディングドレスの試着の時に話をした。そのはずなのに、聞いてくるということは、これも……。


「黒です。艶々の、塗りたての靴墨のような……あの黒が好き」


 きっとこの人は、アルマン様に私の言葉を届けてくれる。私は、やっぱりアルマン様が好きだった。例え横顔しか求められていなくとも、彼の側にいたい。ショックで自分で飛び出して来てしまったのに、帰りたいだなんて虫の良い話だと思うけれども。妻でなくていいから、コレクションの一つでいいから、近くにいたい。コレクションとしてでいいから、アルマン様に求められたい。


「黒ですね。畏まりました。では、採寸しますので背を向けて貰えますか?」


 商会でされたのとは違い、きちんとメジャーが当てられる。胴回りを測るために、顔を近くに寄せられた瞬間、


「……今夜、テラスに」


 コソッと耳元で呟かれた一言。私がアルマン様の髪色について言ったのだと、気が付いてもらえた!

 通じ合えた事が嬉しくて思わず涙が溢れそうになったのを、私は必死に我慢した。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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