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後頭部からダイブする変態(1)

「美しい、なんて美しい横顔なんだ……」


 私の横で感嘆の声を上げる変態。あ、違った、男爵。

 兵達によって結構乱暴に男爵の屋敷まで連れていかれた私は、そのままメイドらしき人達に引き渡された。そしてお風呂に浸けられ、全身スキンケアされ、髪の手入れまでされる。適当に長く伸ばしてきた平凡な茶色の髪がある程度切り揃えられ、胸下あたりの長さに整えられた。そして凝った髪型に結われ、まさにお貴族様が着るようなドレスを着せられ……今に至る。締められたコルセットが苦しい。


 着飾った私が通された部屋は……信じられない部屋だった。

 見渡す限りの金貨の海。金貨の山。沢山ありすぎて、中身がチョコレートの偽物なのかと思ってしまうが本物のようだ。その金貨の中に豪華な革張りの椅子が一つ置かれており、私はそこに座らされている。


「まさにジェラルディーヌだ……!」


 先程顔を動かすと怒られたので、横目でチラリと左側にいる変態の方を見た。相変わらず恍惚とした表情でこちらを見続けている。

 今度は右側を見てみる。壁にかかっているのはジェラルディーヌ三世……二百年ほど前にこの国を食糧危機から救った女神として伝えられている王家の姫の肖像画が何十枚も壁一面にかかっている。そしてこの部屋一面に広がる……金貨に描かれているのはジェラルディーヌ三世の横顔。まさかこの変態、ジェラルディーヌ三世の強火ファンなのか?

 確かに、言われてみれば自分でも横顔が似ているような気はする。髪色や瞳の色は肖像画とは異なるが、造形自体はそっくりだ。しかも先程着せられたドレス、整えられた髪型、どちらも金貨のジェラルディーヌと一緒。えーっと、これはコスプレ?


「ジゼル、貴女は本当に素晴らしいよ! この横顔には何にも変えられない価値がある。感動で倒れそうだ!」


 そう言いながら顔を手で抑え、本当に金貨の海に後頭部からダイブしていく男爵。あ、違った、変態。


 一瞬でもイケメンだとか、見惚れてしまった自分が恥ずかい。親方が逃げろと言ったのも納得な人物だった。金貨に埋もれるのが大好きという噂は聞いたことがあったのだけど、金儲け大好きという意味かと思っていた。こうも物理的に埋もれるのが好きなんだとは……普通思わないだろう。


 金貨の海の中で感嘆の声を上げ続ける変態に軽蔑の視線を送りながら、今から私はどうなるのだろうと考えを巡らせる。もしやこのジェラルディーヌルームに閉じ込められて一生をここで監禁されて過ごす……とかだろうか? どう転んでも明るい未来はなさそうだ。


 暗い考えをしていると、コンコンと部屋のドアをノックをされた。「アルマン様、開けてください」と男性の声がする。その呼ばれている張本人は金貨の海に沈んで出てくる気配がないので、私が事情を説明してあげようと思い椅子から立ち上がってドアの鍵を開けにいく。鍵を開けた瞬間「あれ、今日は早いですね」とか言いながら一人の男性がドアを開けてきた。


「おや? ジゼル様が開けてくださったのですか」


 メガネをかけた執事風の男性に声を掛けられる。年は三十代くらいだろうか。


「あの、男爵様はあちらに沈んでいらっしゃるので……説明しようと思いまして」


 変態の方を指差して言う。普通ならドン引きであろう光景にも、この男性は表情一つ変えなかった。


「いつもの事ですから気になさらないでください。声をかけ始めて三十分は鍵が開かないのが普通ですから」

「……そうですか」


 返す言葉が見つからなかった。


「そもそも私は、いい加減ジゼル様をこの部屋から解放するように注意しに来ただけなので丁度良かった。ジゼル様の為に用意した部屋がございますのでこちらへどうぞ」


 そのまま執事風の男性に部屋の外へ案内される。「やった! ジェラルディーヌルームの外に出してもらえた!」といそいそと部屋の外に出て、ドアを閉める。もう二度とこの部屋には入りたくないし、変態を見るのもこれで最後であって欲しい。


「あのっ、私いきなりここへ連れて来られて状況がよく分かっていないのですが……。男爵様はジェラルディーヌ三世のファンなのですか?」


 慣れないヒールの靴で、廊下を先導して歩いてくれる執事らしき人について行く。


「ファン? そんな生優しい物では無いですね。アルマン様にとってジェラルディーヌ様は己の欲求の全てと言える程の存在です。その為に金を稼ぎ、その為に生きていると言っても過言ではありません」

「……そうですか」


 やっぱり私には上手く返す言葉が見つからず、先程と同じ返答をしてしまう。私も前世ではオタクと呼ばれる趣味をした人物であったが、そこまでの情熱は捧げていなかった。

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