誰かとそっくりな私(1)
「おお、クリステルにそっくりだ……。クリステル、こんな老ぼれの父の元へ帰ってきてくれたのか?」
シャロン伯爵の亡き娘、クリステル様の遺品のドレスを着せられた私は、本当に生き写しだった。古くからいる使用人達から見ても生き写しらしく、伯爵以外にも涙している人がちらほら。……私の顔って、そんなに他人とのそっくり度が高いのだろうか? アルマン様といい、シャロン伯爵といい、私の顔を通して誰かを思い起こしすぎでは?
「本当に、肖像画のクリステル様そっくりですね。伯爵様、あの父娘二人を描いた肖像画の靴と同じものを履いてみませんか? よろしければ御用意いたしますが」
今私が着せられたドレスは、壁に掛けられた肖像画でクリステル様が着ているドレスと同じ物。そしてその親子写真のような肖像画を再現しようと、ラウルが提案する。
「良い考えだな。はて、あの靴はまだあっただろうか」
「先日三番倉庫の棚にあるのを見つけてありますので取って参ります」
流石靴コレクター専属の職人。靴の管理まで完璧だ。
靴を探すために伯爵様の私室を退出したラウルと入れ替わるようにして、古くから使える使用人達が、クリステル様そっくりな私を一目見ようと集まってくる。おかげで屋敷の主人の部屋だというのに、入り口周辺がガヤガヤと騒がしい。
「クリステル、どこに行っておったのだ? もうあれから十年と少しになるのか……アリエルの事は本当に申し訳なかった」
足を悪くして長くは立っていられない伯爵は、先程から椅子に腰掛け私を見上げている。いや「私」ではない。愛娘の「クリステル」だ。完全に私をクリステル様として扱っている。
「あの、シャロン伯爵様?」
ジゼルとして声を掛けるが、完全に思考回路がそっちになっているらしく、反応は無い。
「お父様?」
意を決してクリステル様になりきって声をかけてみる。
「どうしたクリステル?」
私を通して私ではない人を想う姿がアルマン様と重なり、余計に胸に引っ掛かりを感じてしまう。私を真の娘だと思い込んで愛おしそうに手を握るシャロン伯爵に対しての方が……私をジェラルディーヌではないと理解しながらも愛でてくるアルマン様に対してよりも、感じる罪悪感は強い。
「お父様、アリエルの事……って?」
アリエル様の話題はタブーなのだろうか。先程までクリステル様そっくりの私を見てガヤガヤしていた使用人達の声が、まるでラジオの電源を切ったかのようにぷつりと切れる。
「わしがお前を嫁がせる為、アリエルを消そうとしたのを……怒っていたのであろう?」
静まり返った部屋の中に伯爵の声だけが響いた。
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