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ジゼルそっくりの横顔なんて(1)

アルマン様目線回です(*´꒳`*)

 ──見られたかも知れない。


 そう思ったのはカフェでジゼルがいたはずの半個室に戻った後だった。

 ジゼルに言えないような事も色々して、今の地位まで這い上がってきた私。その言えないような事には……女性関係も含まれる。

 利用出来るのなら男女の関係だって利用してきた。先程押しかけて来たのも、そのうちの一人。男爵位を得てからは使えない女から順に関係を切るようにしてきたのだが、先程の女性は中でもしつこかった。やっと諦めて帰ってくれたと思ったら、すでにジゼルの元を離れて一時間半。

 キス一つで別れると言ったくせに、しつこく今日の夜まで引き伸ばそうとしてくるのだから……ああいう女は面倒だ。ちょっとした動作すら愛らしく、食べ物一つで目を輝かせるジゼルとは大違いで、嫌悪感が半端ない。ジゼルに知られないうちに関係を切らなければと、ポールに残っている関係全ての処理を秘密裏に進めさせていたが……こう突撃されるとなると困ったものだ。


 ジゼルが座っていたはずの座面と空のカップに触れる。温かさはもうない。席を立ってからすでに時間が経っているようだ。席を立たせないようケーキをサーブし続けるよう命じてあった従業員は、私が戻る前からジゼルが居なくなったことに気がつき、大慌てで他の従業員達と周辺を捜索していたらしい。それでもどこにもいない、と……震えている。

 当然だろう、命じられたことを実行出来ないようでは、ラピエース商会に身を置き続ける事は出来ない。お手洗いに行くとジゼルから直接聞いた者もいたが、そちらにもジゼルは居なかった。


「ふん、成金風情が。公衆の面前で下品な事をする奴がオーナーではこの店も終わりだな」


 揶揄うような口調で客からヤジを飛ばされる。……直接見られていなくとも、偶然このような言葉をジゼルが聞いた可能性もある。そう思いながら早足で店を後にした。


 元々ジゼルが暮らしていた家の近くには、常に私兵を配置してある。――万が一ジゼルが逃げ帰ってもすぐに捕まえられるように。そちらから連絡がないという事は、屋敷に帰ったか、街中にまだいるか。屋敷に帰っていて欲しいと願いつつ戻ってみたが……やはりいなかった。ジゼルの部屋は朝出かけた時のままだし、誰も戻ってきた姿は見ていないと言う。ならば街中にいるジゼルは身一つで所持品も殆ど無いはずだ。


「……ポール」


 有能な専属執事を呼びつける。私が一人で戻った時点である程度状況は察していたらしい。


「すでに私兵を街中に回してあります。しかし、足の速いジゼル様が本気で逃げたとなると、厳しいかも知れませんね。なんせ初日にアルマン様が撒かれていますから」

「すぐに見つからなくとも、金銭を持っていないジゼルが行く場所なんて限られているはずだ。鎖で繋いででも連れてこい」


 ……そのために銅貨の一つすら持たせていなかったのだから。


「手に職があるとは言え、客を取る業種ですから表に出ればすぐに見つかるでしょうね。靴磨きの道具を買う店と、ドレスや装飾品を現金化出来そうな店にも私兵を送りました」


 相変わらず執事が有能すぎる。敵に回せば一番嫌なタイプだ。


「ポール、煩わしい女達の始末を頼んでおいたはずだが? 先程その一人が押しかけて来て対応している間にジゼルに逃げられたのだが、どうしてくれる?」


 八つ当たり、だとは自分でも分かっている。下手をして相手に刺されないように、裏道とは言えそう離れていない交通量の多い道を選んだのだが、もう少し遠く離れた場所で話をするべきだった。それでもジゼルに逃げられた苛立ちを何かにぶつけないと、殺気立った気が鎮まらない。


「私は手切金の提示をし同意書を全員から頂いて来ました。それでも押しかけてくるという事は、お相手の方に問題があるのでは? もしくはアルマン様の対応がまずかったのか。顔が良い男は大変ですね」

「煩い。肝心のジゼルに逃げられたのでは、手切金も同意書も意味がない。無駄金、無駄紙、無駄手間だ」


 八つ当たりされても飄々として返答してくるポールに更に苛立ちが募る。


「しかし、よかったのではないですか? ジゼル様が逃げて。……怖い怖い、そんなに睨まないでください」


 全く怖いと思っていないだろうという口調。ポール以外ならここまでキツく睨めば黙って大人しくなるのだが。視線だけでポールに説明を求める。ジゼルが逃げてよかった? そんな事を言うとは、よっぽど自分の命が惜しく無いのだろう。特にポールは、私が二重の意味でジゼルを欲していたのを知っているのに。


「予兆が無かったのに逃げた、という事はアルマン様が女性といる場面を見てしまったのでしょう。そして逃げる、という事はそれが嫌だった。ジゼル様はアルマン様がお好きなんでしょうね。お互いに想いあっているのだから、ジゼル様が見つかれば仲直りして解決じゃないですか。両想いおめでとうございます」


 まさかの超ポジティブ論だった。私と一緒に居ない方がジゼルは幸せ、とか言い出すと思っていたので拍子抜けしてしまう。


「……相変わらずポールの発想には驚く。そうプラス思考ばかりで考える事が出来ればいいのだが」


 恐らく私はジゼルを傷つけてしまった。本心だったのかどうかは怪しいが、私を好きだと言ってくれたばかりだったのに。抵抗もせず私の膝の上に座り愛され続けてくれた昨日の様子が、一緒に話をしながら寝入った夜が……まるで夢だったかのようだ。数時間前まであんなに可愛い笑顔を私に向けてくれていたのに、今頃どこかで一人泣いているのではないだろうか。私が泣かせてしまったのだと思うと、頭が痛いし気が滅入る。


「そんなに凹んでいるアルマン様は初めて見ました。……ジェラルディーヌでも見て元気出してくればいかがですか? 捜索の指揮は私が取りますから、何時間でも楽しんできてください」

「……無理」


『ジゼルそっくりの横顔』なんて、見る気分にもならなかった。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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