運も才能の内、顔も天賦の才(4)
「……ジゼルの髪は茶色というよりもカフェオレ色だね。見比べるとそっくりだ」
正面に座ったアルマン様が、その長い腕を伸ばしてきて私の前髪に触れる。こめかみから髪を掬うように長い指を差し込まれるので、額に指が触れる。横顔を愛でる意味ではない接触に……少し脈が速くなってしまう。
「くすんでいる色なので……アルマン様のような綺麗な黒髪とかハッキリとした色が羨ましいです。商会の美容部の人に頼めば綺麗な色に染めてもらえますか?」
例えば肖像画のジェラルディーヌのような金髪とか。髪色までそっくりになればアルマン様もさぞ嬉しいだろう。
「染める? そんなの必要ない。屋敷の調度品を見て貰えば分かると思うけど、私は上品でシックな雰囲気の物が好きなんだ。カフェオレ色のジゼルの髪、上品で好きだよ」
アルマン様は色について言っただけなのに、まるで私に対して好きだと言ってくれたように感じてしまう。横顔だけではなく、ジェラルディーヌ抜きにして、私に好きだと言ってくれたのではないかと。だから朝からカフェに連れてきてくれて私の好きな物を用意してくれたのではないかと……勘違いして、本当にアルマン様を好きになってしまいそう。
「失礼いたします。……オーナー、お話が」
ふわふわと気持ちが浮きそうになっていると、カフェの従業員が声をかけてくる。アルマン様の指が私から離れ、何やら従業員とこそこそと話をし始めた。危なかった、好きになってしまうかと……あれ、私はそもそもアルマン様を好きになるために、デートに行かされたのではなかった?
「ジゼル、少し用が出来たから……ここで待っていて。すぐに戻るから。君、新作の苺タルトケーキをジゼルに出してあげて」
「ケーキ!?」
平民ではなかなか手が出ないスイーツ! 勿論日本にいた時から大好きだし、そんな物をポンっと軽くオーダーしてくれるなんて、アルマン様ありがとう!
「そんなにケーキ好きだった? ジゼルはちょっとした表情まで可愛いね」
そう言いつつアルマン様は席を立ち、先程触れていた前髪越しに、私の額に口付けた。せっかくケーキのおかげで一瞬忘れていたドキドキが、甦ってきてしまう!
「ふふっ、ジゼルの顔が苺ケーキみたい」
そう笑いながら、アルマン様は従業員と共に半個室の部屋から出て行った。
「さすがに、好きとはいえ永久にケーキが出てくると……お腹いっぱい」
苺のタルトケーキを食べ終わると続いて出てきたのはチョコレートケーキ。その次はチーズケーキ。どれも小さめではあったが、食べ終わると次々とケーキが出てきて、飲み物もカフェオレではなく私の好きな紅茶が用意し直された。
壁に掛けられた時計を見ると、アルマン様が席を立ってからもう一時間。仕事が入ったのだろうけど、すぐに戻ると言っていた割には遅い。何かアクシデントでもあったのだろうか。
先程声をかけてきた従業員なら何か知っているだろうかと思い、席を立つ。紅茶のポットを持った別の従業員に声をかけられるが、お手洗いに行くのでと嘘を吐く。一階に降り先程の従業員を探すが、見当たらない。ついでにアルマン様も見当たらない。
「どこに行ったんだろう……?」
大人しく席に戻ろうかと思ったが、そのタイミングで店に入ってきた客の口から「たかが成金のラピエースが……」と聞こえてくる。身なりの良い初老くらいの男性がそのような言葉遣いをするなんて珍しい。
「あの、ラピエース男爵様が何か?」
声をかけた自分自身にびっくりしてしまう。靴磨きの仕事以外でこんな身なりの良い方に自分から話しかけるなんて初めてだし、アルマン様の事が知りたくて……殆ど無意識に話しかけてしまっていた。
「ただの成金が朝から公衆の面前で逢引きかと思っただけだ。お嬢さん見ない顔だね。ここの常連の娘さんかな?」
公衆の面前。逢引き。そして相手は私では無い。
――嘘。
「ああいう顔だけの男には気をつけた方がいい。貴女のような身分の良いお嬢さんにはとても聞かせられないような汚い事もしてきた男だ。……あんな男にだけは娘も孫も嫁がせたくないね」
気がついたら店の外に飛び出してアルマン様の姿を探していた。カフェが面する大通りから一本裏に入った、それでもそこそこ交通量のある道。そこにアルマン様はいた。……美しい女性と一緒に。
思わず建物の影に姿を隠し、見つからないように覗き見る。少し口論になっているようで、女性側は……泣いていた。泣き顔すら綺麗な人。そして泣いている女性を困ったように見つめるアルマン様。誰から見てもお似合いの二人だ。私のようなお子様には出せない色気が、周辺に漂っている。
そしてアルマン様に女性が縋り付くように抱きついていき……唇同士でキスをした。口付けの全ての過程が、ただ触れ合うだけではないその工程全てが、まるでスローモーションで見ているかのように……脳裏に刻まれていく。
頭が真っ白になり瞬きすら出来ない。その場に崩れ落ちないようにするのが精一杯で、何も考えられない。
ただ、これはお互い同意の上のキスだ、という事だけは本能で理解できた。
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