こんなにまともな内面を持った人だったんだ(1)
本当に申し訳ないのだけど、ちょっと時間を巻き戻してもらえますか? うん、そうそうあの色仕掛けならぬ横顔仕掛けシーンの前まで。撮り直しで! ……って人生で出来たらどれほど楽だろうか。
屋敷への帰りの馬車。あれからずっとご機嫌なアルマン様。その膝の上に横抱きの形で載せられた私。はい、罪悪感で倒れそうです。
「ジゼル可愛い……」
何だかもうアルマン様は横顔溺愛モードに入っちゃって、ずっと頬にキスしてくるし。全然離してくれないし。
……これは屋敷に帰ったらポールが大笑いするんだろうな。気が重い。
アルマン様は元々馬車に乗り降りする時は紳士的にエスコートしてくれていたけど、それもお姫様抱っこに進化してしまって……申し訳なさすぎて辛い。
という訳で屋敷につくと、お姫様抱っこで降ろされてそのまま屋敷内まで連れて行かれる。
「アルマン様ジゼル様、おかえりなさいま……せ?」
入り口で出迎えたポールの目が点になる。ご機嫌なアルマン様と固まる私を交互に見て、表情で「何があったんです?」と聞いてくる。私がやらかしただけです、本当にごめんなさい。
「ポール、聞いて。ジゼルがね……」
うわっ! お願いだから広めないで!?
慌てて私を抱えるアルマン様の口を塞ぐ。何故? という顔をされるが、何故じゃないでしょ!? もう私は恥ずかしいやら罪悪感やらで倒れそうなんだから傷を広げないで欲しい!!
「……言わないで?」
思わず涙目になりながらお願いし、口を塞いでいた手を離す。もうこうなったら出来る所まで横顔頼みだ!
「恥ずかしいから、アルマン様と私の秘密にして欲しい。こういう抱っこも、二人……だけの時にして?」
ノックアウトするアルマン様。罪悪感の増す私。呆然とするポール。本当にアルマン様好みの横顔で良かった。
……明日から私、生きていけるのかな。思わず遠くを見つめてしまった。
「成程、それで……」
無事アルマン様は人の目がある場所では横顔偏愛を控えてくれるようになったので、私は夕食後も屋敷の使用人達の目が届く場所に居続けた。今も広間でポールに屋敷内の事を教えて貰う、といった名目で一緒にいてもらっている。そしてやはりこのアルマン様専属執事のポールには隠し事は出来ず、何があったのか白状させられた。うん、この人はやっぱり敵に回してはいけない。とりあえず前世の記憶以外の事は正直に全て話した。
「アルマン様側からも話を聞きましたが……なかなか面白い事をしてくれましたね」
と言いつつ全然笑っていないポール。今まで大笑いされてきた分、逆に怖い。
「申し訳ございません……」
「本当に……朝より拗れて捻れてひっくり返って帰ってくるなんて思ってもみませんでした。アルマン様はマーガレット様のお陰で気が付いたようですが、貴女がこれでは……どうしましょうか」
好きでも無いのに好きと言ってしまうのはとても罪深い事だ。その好意が偽物だったと分かれば、言われた側は深い悲しみに突き落とされる。冗談でも許されない。
「いっそ今から真実にしてしまえばどうです?」
「……はい?」
「今からアルマン様を好きになればいいでしょう?簡単な事です、金持ちで造形も良い人なのですから。好きになるのは容易いはずです」
さも名案といった風に提案される。あのアルマン様を? 私が本当に好きになる!?
「……横顔偏愛男爵様を好きになれと?」
そりゃ顔はクールで清潔感のあるイケメンだ。360度どこから見ても格好いい。可愛いとか好きだとか言われると……正直、勘違いしそうになる。横顔に対してそう言っているのに、まるで私自身に言っているのかと。……アルマン様はジェラルディーヌしか愛していないのは分かっているのに。
好きになってはいけない、後で傷つくだけだ。そう自分を律してきた部分も大きいのだから……きっと好きになるのは簡単。私が、自分自身が傷つかないよう卑怯な事をしているだけ。
「アルマン様は確かに横顔偏愛男爵ですが、それ以外の顔もお持ちです。まずは話し合い、お互いを知る。というわけで、明日はデートにしましょう。幸いアルマン様の明日の予定は移動可能ですので空けておきます」
待って待って、勝手にデート日にされてるんだけど!? でも元を辿れは私の失言が原因なので、深く突っ込めない。
「デートって……どこに行けばいいの?」
「それはアルマン様に丸投げしましょう。ジゼル様の仕事は今からアルマン様の部屋まで行って『明日のアルマン様を私に頂戴』と可愛くおねだりする事ですよ。大丈夫、ジゼル様にはその横顔があるんですから」
また横顔仕掛け!? 今日1日で何回使ったんだろう……。
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