物語はハッピーエンドで終わりました感
「重曹だあぁぁー!!」
アルマン様によって連れてこられた日用品のストックを入れておく倉庫。その片隅に私が求めていた粉はいた。粉を包んでいる袋の上には埃が積もっており、長い期間ここに置かれたままだった事がわかる。埃をはらうと、読めない外国の文字。……重曹を知らないかと従業員達に聞いて回っても分からないはずだ。アルマン様に聞いてよかった。
「いくらでも使うといい。余っているから」
「こんな便利な物が? 余っている!?」
信じられない! 重曹といえば料理から掃除まで使い道はいくらでもあるはずなのに!
「便利? ただの臭い消しだろう? 珍しい粉だから隣国から仕入れたものの、臭い消しなら他の物で代用できるからわざわざこの粉を使う必要も無い」
アルマン様のきょとんとした表情を見る限り、本当に臭い消しとしか使い道を知らないのであろう。っていうか、アルマン様はやっぱり変態の顔をしていなければただのイケメンだな。きょとんとした顔すら格好いい。本当に勿体ない。
それにしても……この世界の人々は、重曹の真の力を知らないのか。ならば私が重曹に日の光を当ててあげましょう!
「見ててください。アルマン様をびっくりさせてあげますから!」
アルマン様に、財務部まで重曹を持って帰ってもらい、早速水で練って銀貨を磨く。え? オーナーを都合良く荷物持ちにするなって? いいんです、近い将来の旦那様なんですから! 奥様特権はこういう時にこそ有効活用しなければ!
「こんな感じでこれをクリーナーにして磨くと……ね? すぐに綺麗になるでしょう?」
「わぁ! ジゼル様がクロスで磨くより早いですね!」
すぐに銀色の輝きを取り戻した銀貨を見て、横にいたアネットが感嘆の声を上げる。そうでしょう? すごいでしょう? ちなみに重曹とアルミと銀貨を一緒に加熱しても綺麗になるのだけど、この世界にアルミは無さそうなのでこの方法は諦めている。
「他にも重曹は焦げ落としや掃除にも効果があってね?」
嬉々としてアネットに重曹の使い道を教えていると、急にアルマン様が割って入ってきた。
「ジゼル、重曹に詳しいのはいいんだけど、何故そんなに隣国にしかない粉の事を知っている?」
――あ。やってしまった。
訪れた沈黙。
「靴磨きの仕事は、お客様のお話を聞く事も多いので!他国から来た人がお客に付く事も多いですし、意外と色んな事を知ってるんですよ」
――無茶があったか。
それはそうだろう。絶対に怪しまれているに違いない。
「へぇ、そうなんですね」
納得しているのかどうか怪しいが、言葉上はとりあえず納得してくれるアネット。問題はアネットではない、アルマン様の方だ。普通に考えて、普段から情報収集のために隅々まで商売センサーを張り巡らせているアルマン様が知らず、こんな小娘が知っているなんて、変なのよー!!
……どうする、私。初めての前世カミングアウトする? いや、そんな面倒な事出来ればしたくない。ここは……色仕掛けならぬ横顔仕掛けで乗り切る!
出来るだけジェラルディーヌに成り切って姫っぽく可愛く。マーガレットさんがアルマン様好みの顔と言ってくれた自分の顔を信じて!この横顔に賭ける!!
「……アルマン様のために、頑張って思い出したのに。大好きなアルマン様に怪しまれるくらいなら、黙っていれば良かった」
両手で口を抑えながら黄色い声を上げるアネット。目を見開いて伝票を落とすダニエル。動揺からざわつく他の財務部従業員。そして顔を赤くして片手で口元を隠し固まるアルマン様は、視線が色んな場所に動いて全然定まっていない。
――乗り切れたか?誤魔化せたか?
「ジゼル……今、何と?」
隠しきれていない嬉しそうな表情。うん、やっぱり成功っぽい?良かった!
とりあえず復唱を求められているようなので、もう1回!
「アルマン様のために、頑張って思い出したのに。大好きなアルマン様にいぃ!? きゃ───っ!!?」
しまった!! 役になりきりすぎて、思ってもいないセリフまで言った!!
焦る私とは対照的に嬉しそうなアルマン様は、私を強く抱き寄せて。耳元で名前と……好きだと囁かれる。その目元にはうっすら涙すら浮かんでいて……はい、とても罪悪感が襲ってきています。
ごめんなさい、アルマン様本当にごめんなさい──っ!!
アネットも「うわーん、こんなに早く両思いになるとは思わなかったよー!」と感動した様子で泣いているし、そんなアネットにダニエルがハンカチを差し出している。何、この「物語はハッピーエンドで終わりました」感は。
周りの感動・お祝いムードとは裏腹に、私は……今後どうしていくかを高速で脳内で考えていた。
いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡
閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪