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重曹ください!

 アルマン様を待つ間、私は銅貨を磨いていた。レモン水に付けると、銅貨は見違えるほど綺麗になる。それを軽く歯ブラシで擦ると、金貨にも負けない輝きを持った銅貨の完成だ!


「うん、綺麗になった!」


 レモン水から引き上げた銅貨達を一枚一枚丁寧に歯ブラシで擦っていく。

 日本で流通していた硬貨にも少しは有った事だけど、この世界の硬貨は一枚一枚表情が違う。日本で例えるなら穴の開く位置が少しずれた50円玉とか……この世界の硬貨もそれと同じように作る際の作り手の違いによる癖の出方なのか、描かれる模様のズレくらいは良くある。でも、


「これは……銅貨? 違う気がする」


 汚れが取れる事によって出てきた模様。大きさや色は似ているのだけど、模様や彫りが普通とは少し違う気がする。


「ジゼル様、何かありましたか?」


 ソファーの隣に座り売上計算をしていたアネットが手元を覗き込んでくる。


「うん、これって……銅貨じゃないよね?似てるけど、別の国のお金?」

「明らかに違和感がありますね。でも近隣の国の硬貨でも無いような気が」


 二人で頭を突き合わせて確認するが、やっぱり銅貨ではない。慌てて同じ瓶に浸けていた銅貨を全て出すが……似たような見覚えのない物が何枚か出てくる。


「ジゼル、ただいま。……何かあったのか?」


 そこにアルマン様が帰ってくる。服飾部で怒りを爆発させ発散できたのだろうか、やけにスッキリしたような顔をしていた。


「こんな硬貨が出てきたのですが、見たことありますか?」


 ラピエース商会オーナーともなれば近隣の国の硬貨も見たことがあるかもしれないと思い、アルマン様にも見てもらう。見せた瞬間、眉間に皺が寄った。


「……見たことないな。これは何処から出てきた?」

「この銅貨を入れた箱から出てきました。昨日レモン水に浸けて帰った物です。……偶然でしょうか?」


 偶然違う国の硬貨やおもちゃの硬貨が混ざってしまう事は、日本でも無くはなかった話だ。しかし……これが沢山出てくるとなると、話は変わってくる。


「まだ分からない。ジゼルはこの先注意しながら磨いて欲しい。アネットも、他の財務部の従業員も、この事は他言無用だ」


 財務部全員が深刻そうに頷いた。……当たり前だ。偽造硬貨なんて、本来あってはならないのだから。


「じゃあジゼル、私にも硬貨の磨き方を教えてくれるか? アネットは、そこの場所を譲ってくれると嬉しいのだが」

「はい! 勿論ですアルマン様!」


 アネットが飛び退くようにしてダニエルの方へ移動していく。……もしかしてアネットはダニエルの事好きなのかな? よくこそこそと二人で話をしているし、そういう関係なのかもしれない。今度聞いてみよう。


「ダニエル! 来たわよ、鈍いジゼル様VS攻めるアルマン様よ! ジゼル様の趣味に興味を持ったアルマン様がどう出るのかが楽しみね!」

「アネットさぁ、そんな事聞いたら失礼だとか言ってた癖に、一番楽しんでるよな?」


 アネットに場所を譲ってもらったアルマン様が、私の横に腰掛ける。また横顔タイムの始まりかな? 段々と慣れてきてしまっている自分が恐ろしい。これほど自分に順応力があるとは思っていなかった。


「で、銅貨は何故レモン水に浸けると綺麗になる?」

「……あれ? 本当に磨き方を知りたかったのですか?」

「そう言ったはずだが」


 完全に、横顔を眺める為の口実だと思っていた。私が勘違いしてしまったのは、普段のアルマン様の行いが悪いせいだと思う。でも、せっかくアルマン様が知りたいと言ってくれているので、一から説明していく。


「銅貨は時間が経つにつれて表面が膜を張るように酸化してしまいます。その酸化した部分がレモン水など酸が含まれる水に触れると、膜が取れるように綺麗になるんです。残った汚れもブラシで軽く擦ると取れるんですよ、こんな感じで」


 実演するように磨いて見せると、目を見開いて「凄いな」と心から感動してくれているようだ。……ちょっと実演販売の人の気持ちが分かったような気がした。


「で、銀貨はどうやって磨く?」

「銀貨は銀食器と同じように専用のクロスで磨いています。……重曹があればもっと速くできるんですが」


 重曹を水で溶いた物で銀貨を磨くと、クロスで磨くほどは綺麗にはならないが、ある程度までなら簡単に綺麗になる。銅貨用のレモンはさすが食品も扱う大商会なだけあってすぐに調達できたが、重曹は見つからなかった。日本ではその辺中に溢れかえっていた重曹が、この世界ではこんなに見つからないとは思ってもみなかった。平民として生活しているから見かけないだけだと思っていたのに、もしや存在しないのだろうか? 日本で当たり前に使っていた物でも、作り方も分からず使えないのであれば、無駄知識だ。


「重曹? 確かあったような気がする」

「え!? 嘘、誰に聞いても解らなかったのに!」


 さすがオーナー、取り扱い商品知識で右に出る者はいない!!

 顎に左手を当てて、確か……と考えているアルマン様の右手を両手で握り締める。


「アルマン様、私に重曹をください!」


 私の勢いに押されてしまったのかタジタジになっている。どうだ普段私が横顔を迫られている気持ちが分かったか!

 ……じゃなくって、お願いだから重曹ください!!


「そんなに重曹が欲しいのか? あんな粉が?」

「私にとってはあんな粉じゃ無いんです! お願いします、私に出来る事なら何でもしますから!」


 もう横顔でも何でも差し上げますから、私に硬貨を磨く術を! 趣味を堪能させてください!!


「なぁアネット、あの二人案外似たもの夫婦になりそうじゃない?」

「アルマン様はジゼル様を意識して赤くなっているのに、ジゼル様は重曹とやらの事しか考えてないわ……。いつになったら甘い展開になるのかしら……」

「一生ならなかったりして」


 ダニエルの返答に、アネットが深いため息をついた。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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