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新生天使は救えない  作者: yosu
第三章 救いたいもの
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66:温かな光



雨は段々と弱まってきている。もうじき晴れるだろう。


「どうしてアマリアって名乗ったの?」

「普段アマリアと名乗っているからね。人に名乗るときはそちらの方が不都合が少ないのさ」

「そう、なんだ」


 テンシはいまいち理解できなかったがそういうものだと納得することにした。


 テンシとエイメルはゆっくりとした足取りで町の中を歩いていく。

 静かだった町は少しづつ喧噪を取り戻しているようだ。これもあの雨のお陰なのだろう。

 テンシはそんな町の様子をぼんやりと眺めていた。


「さて、そろそろ雨も止む。出かけるとしようか」

「………そうだね」

「ネシア?どうかしたのかい?」

「いや、ちょっと不安でさ」

「まぁ、そんなに考え込まなくともいいさ。……考えることは大事だし、考えないことは罪とも言えるが、考え過ぎて動けないんじゃ話にならない」

「ふぅむ。まー、それもそっか。とりあえず、行ってみるしかないよね」


 エイメルの言葉を受け、テンシは息を吐ききって気持ちを切り替えることにした。

 そんな彼の様子を見てエイメルは満足そうに頷く。


「そういうことだよネシア。それに元々君の性格は行き当たりばったりだろう?」

「何を根拠に言ってるのさ…………合ってるけど」

「話していれば分かるよ」

「そんなに僕って適当かな?」

「あぁ、自信を持つといい」

「そこに自信持ってもなぁ」


 不敵に笑うエイメルに感謝しつつも、呆れたようにため息を吐くテンシだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「お土産ー!」

「あ、忘れてた」

「お土産ないのー?」

「もちろん持ってきたとも。これなんかどうかな?」


 テンシたちは、魔物の住む森に入ってすぐ、この前の頭に葉っぱを乗っけた少女に出会った。

 

 エイメルが袋から何かを取り出して彼女に渡す。


「これなにー?」

「砂糖菓子さ。食べれるよ」

「食べ物ー!…………うぉいふぃー!」


 渡されたのはキューブ状の小さなお菓子、いくつかあるそれをまとめて口に放り込んだ彼女は満足そうに頷いた。恐らく『おいしい』と言ったのだろう。


「そうかそうか、それならよかったよ」


 エイメルがどうだと言わんばかりに得意げな表情でテンシの方を見てきたため、彼は小さな声でお礼を言った。それを受けたエイメルはよろしい、とでも言うような態度で大きく頷く。


「それでー、何しに来たのー?」

「君たちが普段どういう風に過ごしているのか気になってね」

「普段の暮らしー?見たいのー?」


 テンシの言葉に少女が不思議そうに首を傾げる。


「うん、ダメかな?」

「んー、別にいいとは思うよー」

「そっか、ありがとう」

「でもー……」


 少女は人差し指を口元に付けてテンシたちを数秒見つめる。


「その前に私と一緒にこの森を回ろっかー」


 そして、ニコリと笑みを浮かべた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 頭に葉っぱを乗せた、どこか間延びした雰囲気の少女。名前はお福というらしい。『オフク』だと発音が違うらしく注意された。『お』で一度間を空け、その後『ふく』と発音するのが正解らしい。

 以前お福の隣にいた女性の名前はミスメというらしい。彼女の場合は発音はどうでもいいようだ。


「ネシアさーん、ちゃんと付いて来てるー?」

「………一応付いて行ってるよ」

「アマリアさんはー、大丈夫そうだねー」


 彼らはそれぞれ、ネシア、アマリアと名乗った。

 テンシは、そちらの方が名前らしいからという理由で選んだが、それからエイメルの機嫌が少し良くなったような気がしている。


 お福は、わざと歩きにくい道を選んでいるのではないかというほど、急斜面や崖などを登っている。テンシは若干疲労を感じながらもお福の後を追った。

 エイメルは鼻歌交じりに歩いているので、余裕そうだ。


「これ、どこに向かってるの?」

「ひみつだよー」


 先ほどから何度か問いかけているテンシだが、お福は答える気がないらしい。

 ぴょんぴょんと、先を行く彼女を見て少し不安になるテンシだったが、その度に陽気な鼻歌が聞こえてくるお陰で落ち着いていられた。


「もうそろそろだよー」


 テンシのずっと前を歩くお福が振り返って声を掛ける。彼はずっと鼻歌を歌いながら歩くエイメルの肩をつついた。


「♪~♪~、っと、なんだい?」

「彼女、何が目的だと思う?」

「さぁね。少なくとも私たちを殺すことが目的ってわけじゃなさそうだ」

「まぁ、それは分かるんだけど」


 お福は急斜面に苦戦するテンシに手を差し出したり、登り方を教えたりと、とても親切に接していた。

 これから殺そうと思っている相手に対しての行動とは考えにくい。

 しかし、彼女はどこか薄暗い雰囲気も持っている。明るく笑う裏で何か別のことを考えているような、そんな風にも感じたのだ。

 テンシは怪しいとも親しいとも言い切れない彼女に困惑しながらもとりあえず彼女の元まで歩くことにした。

 そんな彼の後にエイメルが続く。やっぱり陽気に鼻歌を歌いながら。



 テンシがお福の居るところまでたどり着くと、草木に覆われていた視界がすっきりと晴れた。


「どうー?」 

「おー、綺麗だね」


 テンシの後ろからエイメルの感嘆の声が聞こえてくる。


「これを、見せたかったの?」

「そうだよー」



 茜色の太陽が空の向こうに消えていく。

 テンシはオレンジ色に染まった空を眺めながら深く息を吐いた。




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