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新生天使は救えない  作者: yosu
第三章 救いたいもの
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64:魔物という名の彼ら達



 雨によって湿度の高くなった、じめじめとした森の中をテンシは歩いている。ざーざーと雨は降りそそぎ、テンシは雨合羽を着ているとはいえ肌に感じるその雨水を鬱陶しく思った。


「なんかもう帰りたいよ」

「そんなに雨が嫌かい?」

「普通の雨だったらいいんだけど、こういうのはちょっとね………」

「うーん、私の魔法で何とかならなくもないけれど、肝心な時のためにとっておきたいしなぁ」

「いや、大丈夫、うん………」


 テンシは小さな声でそう答えた。



 テンシは雨によって垂れ下がってきた葉っぱを押しのけつつ森の中を進む。魔物は彼らの付近に近寄るだけで襲い掛かって来る様子はない。


「魔物にこんな丁重に扱われるのは初めてだ。やはり君が特別な存在だからなんだろうね」

「さあね」


 エイメルは独り言のように話したので、テンシは短く返事をするだけに留めた。

 そんな彼らの前に何匹かの狼のような魔物が現れ、その行く手に立ちふさがった。


「ここから先は行かせないってことかな?」

「ううん、違うみたい」


 エイメルの言葉をテンシが否定する。テンシが魔物たちに近づいていくと彼らはそれを確認して前に進んでいった。


「…………道案内でもしてくれるのかい?」

「そうみたい」


 テンシとエイメルは魔物たちの後を付いて歩いていく。狼のような魔物以外にも猿のような魔物が木の上からテンシたちを見に来たり、鳥のような魔物が空からやってきて彼らを見に来たりした。


「さながら百鬼夜行だ」


 エイメルはその様を見て楽し気に笑った。




 二人がしばらく進んでいくと、大量の魔物が集まる広場のような場所へとたどり着いた。

 猿の魔物は大きな葉っぱを雨水の受け皿にして集め、その雨水を浴びるために猿の魔物の前に並ぶ鳥や狼、猪、など、様々な魔物が並んでいた。

 そしてその奥には小さな山と見間違えるほど大きな体を持った魔物たちがいて、やってきたテンシたちをその大きな瞳でじっとりと見つめていた。


「うーん、これは確かに人類滅亡の危機かもだ」

「おっきいね」


 エイメルは見上げるような大きさの彼らを見てもやはり楽し気に笑い、テンシはその姿に目を奪われていた。


「ようこそいらっしゃいました」

「ようこそー」


 大きな魔物のすぐ傍から人の声が聞こえ、テンシは上を向いていた首を下げてその人物たちを見た。

 切れ長の目をした手足の長い女性と、丸い顔が特徴的な頭に葉を乗せた少女がテンシたちにお辞儀をしていた。

 二人とも傘を差しているが、女性は赤色の鮮やかな傘を持っているのに対し、丸い顔の少女は茶色の地味な傘を持っている。そして、丸い顔の少女は頭の葉っぱが落ちそうなのか、片手で葉を抑えていた。


「葉っぱ?」

「葉っぱだよー」


 丸い顔の少女は顔を上げてニコリと笑った。


「貴方様が何者であるか、おおよそのことは理解しているつもりです。此度はどのような御用でいらっしゃったのでしょうか?」

「どうして来たのかなー」


 手足の長い女性の言葉を、丸い顔の少女が言い直した。それを聞いた手足の長い女性は、やれやれと言った様子で小さくため息を吐いた。


「君たちがどのくらい元気になったのかと気になって見に来たんだよ」

「心配してたのー?」


 テンシの言葉に丸い顔の少女は驚いたように目を丸くした。その様子を見た女性はこほんと咳払いをした。


「そうでしたか。我々はこの通り、この雨によって力を取り戻しました」

「元気もりもりだよー」


 彼女たちの近くに居る大きな魔物は静かに佇んでいるだけだ。

 けれど、テンシは彼らから大きな力のような物を感じ取れた。


「そうだね、とても元気そうだ。君たちの無事を確認できたことだし、私たちは一度帰るとするよ。次に来るときは何か手土産でも持って来よう」


 テンシが言葉に困っていると、エイメルがそれを察したように彼女らに向けて話し出した。


「お土産ー、くれるのー?―――あいたっ」


 土産、と聞いてテンシたちに近付こうとした丸い顔の少女を、手足の長い女性が後ろ頭を叩いて止める。


「そうですか。それでは次にお越しになられたときに歓迎できるよう準備しておきましょう」

「宴だー。―――いたいっ」


 飛び跳ねて喜ぶ少女の後ろ頭を女性が叩いて止める。


「それでは」

「じゃあねー」


 手足の長い女性は静かに頭を下げ、丸い顔の少女はぶんぶんと手を振ってテンシたちを見送った。


 彼女らから離れたところでテンシは空へと飛び上がる。それに付き合うようにエイメルも隣に並んだ。


「ヤバくない?」

「……うむ、そうだね。めっちゃヤバいってところかな」


 テンシとエイメルは顔を見合わせてお互いの表情を確認した。

 テンシが真剣に真面目な顔をしているのに対して、エイメルが真面目な顔をしようとしているのが印象的だ。


「エイメルさん?笑ってる場合じゃないよこれ」

「いやいや、笑ってないよ、全然」


 テンシは彼女の態度が少し気になったがそういう人―――コロンセント王のような少し変わった人―――だと気にしないことにして会話を続けることにした。


「エイメルは彼らが人間を襲ったらどうなると思う?」

「うん、そうだね。まず、彼らには種族の違いを気にする様子があまり無さそうだから、人間を襲うとなればデレーティ周辺に住む魔物のほぼすべてを引き連れて来るだろう。その場合人間は数で劣ることになるだろうね。そして魔物は攻める側だから何も気にせずに好きなだけ攻撃すればいいが、人間側は防らなきゃいけないものが多いから、ただ目の前の魔物を倒せばいいってものじゃない。一騎当千の強さを持った人間も居ないことはないだろうが、それだけでは魔物を倒すということしかできないから、結果的に人間の敗北という形になってしまうんじゃないかな?」

「あー、やっぱり厳しいよね」

「もちろん、デレーティの国民が一致団結し、1か所にでも集まって防衛の負担を軽減させ、その上で魔物たちを追い払いつつ、人間への攻撃を諦めてもらうように何かしらの策を練れれば、人間は最低限の被害で魔物に勝利することができるだろう。――――――まぁそもそも魔物が襲ってくると決まったわけでもないさ、そんなに暗い顔をしない」

「うーん、まぁ、ね。そうなんだけどさ」


 テンシは暗い顔で頷いた。


 魔物である彼らは基本的にその生活圏を侵されなければ攻撃はしない。しないのだが、人間は自分の生活圏を広げたがる生き物だから、どうしたって人と魔物は争うことになるだろう。

 そうなったときに、魔物たちが「いつも人間に襲われるんだけど、面倒だし滅ぼした方がいいかな」と思うときが来ないとも限らない。


「どうなるのかなぁ」

「どうなるだろうね」


 不安そうな顔と楽しそうな顔が二つ並んでいた。



短編書きます。興味あったら見ていって下さい。来週末には書ききれるはず。

今作の方は明日の分が無いです。

どうにかできたらどうにかします。


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