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バタバタと使用人が走っていってからすぐに、時間にして約5分後、この館の主人と思わしき小太りの男がティルシーたちの前に現れた。
その男は急いで出てきたようで、自身の汗を拭ってから、二人に挨拶をした。
「シャステーレ様、いやぁ、ようこそおいで下さいました。本当に助かります」
「貴様の息子に稽古でも付ければいいのか?」
「えぇ、はい。立ち話もなんですからとりあえず中にお入り下さい」
男に案内されて、二人は館へと入っていく。
ティルシーは並べられた調度品を何となく目で追っている内に、不自然に空いた空間を見つけた。恐らくここにも調度品が置いてあったのだろう。
「ここにも何か置いていたんですか?」
「あぁ、そこには私の大切にしていた壺があったのですが、息子が壊すかもしれないと思って下げてしまったんですよ。………そういえば貴女はどちら様でしょうか?」
「こいつは私の従者だ」
「え?」
「あぁ、なるほど、そういうことでしたか。失礼いたしました」
男の中でティルシーがシャステーレの従者になったところで、二人は応接室らしきところへと入った。
大きなソファが二つ置いてあり、中にはギラギラとした、相手に見せつけるような派手な品物が並んでいる。
「ええと、どうして息子さんが暴れるようなことになったのでしょうか?」
ティルシーはその調度品たちに驚きながらも、男へと質問をした。
「一時期、病気が流行って家に居る機会が増えたでしょう?そのときに息子と喧嘩になりましてね。いやぁ、派手に負けてしまったんですよこれが。それからというもの息子はどうも悪い意味で自信が付いてしまったようでして」
「それで、貴様の息子とやらはどこに居る」
「えぇ、はい、今は自室に居るかと」
男がそばに立っていた使用人に目配せすると、使用人は応接室の扉を開いてそこに待機した。
「案内しろ」
シャステーレは一言そういうと応接室を出ていく。ティルシーは彼女の言葉遣いが怒られないものかとビクビクしながら後をついていった。ドアを開けていた使用人がシャステーレの一歩後ろ程の距離に控え道案内を開始する。
「こちらが―――」
使用人が立ち止まり、手で一つの部屋を示すと、即座にシャステーレはその部屋のドアを開けた。
「貴様がこの屋敷の主人の息子か?」
「なっ、何者だ!」
「冒険者だ、依頼を受けてきた」
部屋の中には、小太りの男の息子とは思えないほど引き締まった体をした男がいた。
「冒険者?……なるほど、自分の手では私をどうにもできないと踏んで力のある者を呼んだか」
「選択肢をくれてやる。大人しく父親と話し合うか今ここで私の拳を受けるかだ」
「ふむ、どうやら自らの腕に自信があるらしいが、さぞ名のある冒険者なんだろうな?」
「早く選べ」
シャステーレは少しずつ男へと近付いていく。まさかすぐに殴りかかってくるとは思わなかったのか、男は驚いたような顔をした。
「っ、いいだろう。そんなに戦いたければ貴様と戦ってやる。場所を変えるぞ」
男はシャステーレの横を通って部屋を出ていく。ティルシーはシャステーレが通りすがりに拳を出さなかったことに安堵していた。
二人が男の後を付いていくと、屋敷の玄関前へとやってきた。
辺りに物は少なく、比較的動きやすい場所だと推察できる。
「ここでいいな?」
立ち止まった男へとシャステーレが声を掛ける。
「あぁ。折角だから貴様の名前を聞いておいてやろう」
男の言葉にシャステーレは露骨に嫌そうな顔をした。
「何だ?あれだけ大きな態度を取ったんだ。それなりに高名な冒険者だと思ったんだが、名乗ることもできないか?」
「従者、勝手に名乗っておけ。おい、もう始めていいな?」
「え?えっと、この人はシャステーレって言いまーす」
「なっ?!しゃ、シャステーレ?い、今シャステーレと言ったか?」
男はワタワタとこちらに聞き返しているが、もう既にシャステーレは動き出している。
ティルシーはせめてあの男が大きなトラウマを抱えないように、とだけ祈った。




