58:傭兵とその付き人
ティルシーは黙りこくったシャステーレを片目に見ながら、立ち寄った店で注文した紅茶をのんびりと飲んでいた。
「私の分も頼んで来い」
「やっと口を開いたと思ったらこれですよ」
ティルシーは口ではそう言いながらもウェイターに注文をする。
「何か分かったんですか?」
「特にすることがないということが分かったぞ」
「よかったですねー」
ティルシーは火傷しないようにゆっくりと紅茶を啜った。
「雨はまだ降っているようだな」
「しばらく止まないんじゃないですかねぇ」
シャステーレの元にも紅茶が置かれ、彼女もそれをゆっくりと飲んでいく。
「それで、外にはあんまり出たくないんですけど、何しますか?」
「そうだな………仕事でもするか」
「仕事って、護衛のやつですか?」
「そうだ。屋敷内の警備を頼まれることも偶にある」
「シャステーレさんってどこで依頼受けてるんですか?」
「基本的には冒険者ギルドだな。大抵の依頼はあそこに集まる」
「へぇ」
ティルシーは自身の紅茶が無くなったことに気が付き、ウェイターにお代わりを注文した。
「面倒だが一度外に出るぞ」
「お代わり頼んじゃったんですけど」
「そうか、ならば置いていこう」
「いやいや、ちょっとは待って下さいよ。それに傘とかもないですし、濡れていく気です?」
「心配するな、私は荷物に雨具がある」
「私はないですけど」
「そうか、ならば置いていこう」
「二つくらいないんですか?」
「………あるぞ、仕方がないから貸してやろう」
「わーい、明日は雪ですねー」
「とりあえずここの会計はお前持ちでいいな」
ティルシーが紅茶を飲み干すのを待ってから、二人揃ってお店を出て行く。
「これ、どうやって着るんです?」
「羽織るだけだが?」
ティルシーが雨具の使い方をシャステーレに教えてもらってから、二人は冒険者ギルドへと向かった。
からんからんとベルが鳴る。
荒くれ者たちの視線が彼女たちに突き刺さった。ようにティルシーには見えた。
シャステーレはスタスタとギルド内を歩いていき、受付の女性に話しかける。
ティルシーは初めての冒険者ギルドが物珍しく見え、キョロキョロと辺りを見回していた。
「おい、依頼を受けてきたぞ」
「おぉ、早いですね。どんな依頼ですか?」
「『最近力をつけて調子付いてきた息子に格の違いを教えてやってほしい』そうだ」
「どんな依頼ですかそれ」
「知らん。私を指名してくる依頼にまともなものは少ないからな」
「指名依頼とか入るんですね、シャステーレさん」
「まあな」
シャステーレは面倒そうに肩を落としながら冒険者ギルドの外へと歩き出した。
ティルシーはしばらくシャステーレの後について行って、大きな屋敷の前にたどり着いた。
「なんか、やばそうな感じがするんですけど」
「早く行くぞ」
シャステーレはその屋敷を前にしても特に思うことはないようで、塀を越えてズカズカと屋敷内に入っていく。
「いや、その入り方でいいんですか?」
「私を指名したんだ。迎えがない以上、この程度で腹を立てられても困る」
「いや、それはそうかもしれないですけどね」
堂々と屋敷内を歩いていると、使用人と思わしき人に出会った。
「え?……な、何者ですか?!」
「依頼を受けた冒険者だ。息子に手を焼いていると聞いた」
「あ、あぁ、なるほど。ええと、少々お待ち頂けますか?今旦那様をお呼びいたします」
使用人はバタバタと走っていった。だいぶ慌てている様子だ。
「ふむ、そこそこ期待できそうだ」
「えっと、もしやこういうことをやり慣れていらっしゃる?」
使用人の反応を見たシャステーレが機嫌良さそうに頷くのを見て、ティルシーは困ったように頭を抱えた。
07:眠れない夜を書き換えました。
具体的に言うとフールラとの会話が増えました。
読んでね。