57:君は運命の人
預けていた傘を受け取り、雨の降る町を再び歩き出す。
疲れた顔をしていたテンシだが、傘に当たる雨音を聞いて少しづつ元気が出てきたようだ。
コロンセント王によって行われていた魔物の弱体化。それは天使たちによって無効化されようとしている。これから魔物による被害がどんどんと増えていくことだろう。
救世主である彼がすべきことは一体何だろうか。人間を守るために魔物を全て殺す?
テンシはあの村でフールラと共に出会った大きな魔物のことを思い出す。彼はテンシの意見を聞き入れてくれていた。人間と魔物は住み分けさえできれば争う必要はないだろう。
「それができないから争ってるんだよなぁ」
テンシは深くため息を吐いた。
「おやおや、何か嫌なことでもあったのかい?」
下を向いていたテンシが顔を上げると、そこには傘を貸してくれた白髪の女性が居た。
彼女は傘を差してテンシの前に立っている。
「あれ、エイメルさん。どうしてここに?」
「エイメルでいいよ。私はちょっと散歩していただけさ。もうそろそろ冒険者ギルドに戻って君を待とうと思っていたんだが、ばったり会ったね」
「うん、僕も今から傘を返しに行こうと思っていたところでさ」
「あぁ、なるほど。今はこんな雨だし、まだ持っているといいよ。私はこっちがあるしね」
彼女はそう言って差している傘を少し揺らした。つるつると雨粒が地面に落ちていく。
「そっか、それはありがたいよ」
「どういたしまして。それで、何か嫌なことでもあったのかい?」
「あー、うん。ちょっとね。この雨のことで」
「あぁ、この雨か。確かに不自然な雨だよ。憂鬱になるのも分かるかもしれない」
「えっと、多分エイメルが想像しているのとは違うかな」
「そうなのかい?よかったら教えてくれないかな?」
「うぅん、言ったとしてもちょっと信じられないかも」
「いいからいいから、話してみると楽になることってあるだろう?」
「…………じゃあ、話してみようかな」
そう言って、テンシは彼女にこの雨の詳細と魔物について語っていった。
「へぇ、この国の王様が病気を撒いて魔物を弱らせていたのか。それでこの雨がそれを打ち消す効果を持っていると」
「信じられる話じゃないでしょ?」
「そんなこともないさ。納得のいく話だよ」
「納得?エイメルは天使について何か知っているの?」
「まあ少しだけね。私も色々と調べているのさ」
「ふーん、天使について知ってる人は珍しいって聞いてたんだけど、最近はよく会うなぁ」
「それはそれは、色々と大変だったんじゃないかい?」
「いや、ほんとにね。変な人が多くてさ」
「そうかそうか」
テンシはエイメルと話しながら静かなカナリビの町をふらふらと歩いていった。
エイメルという人物はとても聞き上手なようでテンシの話を遮ることなく、むしろどんどんと話すように促していく。
「それでさ、いきなり殴られたんだ。もうすごくびっくりしたよ」
「うんうん、それはすごく驚くだろうね」
辺りが暗くなっても雨は降り続いていた。
「あー、すっかり暗くなっちゃった。なんだか僕がずっと話していた気がするよ。エイメルは疲れなかった?」
「とても面白かったよ。君は中々稀有な運命にあるらしいね」
「そっか、退屈させなかったならよかったよ」
「うん。それで、一つお願いがあるんだけどいいだろうか?」
「もちろん、何かな?」
「さっきも言った通り、私はこの世界を色々と調べていてね。君の話を聞いて思ったんだ。君とならもっと多くのものを見つけられるんじゃないかってさ」
「えっと、それって僕のよく分からない旅のメンバーに加わりたいってこと?」
「あぁ、迷惑でなければね」
「拒否権はある?」
「それはもちろん。無理にとは言わないよ」
「空は飛べる?」
「魔法使いだからね」
「…………僕にとっては願ってもない話だけど、いいの?」
「もちろん。これからよろしく頼むよ、テンシ」
白髪の女性はそう言って明るく笑った。
「………少し、急だっただろうか?」
テンシが旅の仲間ができたことを静かに喜んでいると、エイメルが不安げにそう問いかけた。
彼女の眼にはテンシが状況を飲み込めずに戸惑っているように見えたのかもしれない。
「いやいや、まぁ急なのは急だけど、僕としては旅の仲間ができてすごい嬉しいから!空も飛べるし!」
「そうかい?喜ばれているならよかったよ。…………なんだか空を飛べることが一番喜ばれているような気がして少し複雑だけどね」
エイメルは安心したというように表情を柔らかくしたが、テンシの言葉を思い返して少しだけ眉を下げた。
キミはウンメイのヒト




