54?:不思議な雨の降る中で
遅刻者です。二本用意していたという言い訳をさせて下さい。
雨はしとしとと降り注いでいる。止む気配は無さそうだ。
テンシはこの雨に打たれてでもコロンセントの元へ急ぐべきかどうか悩んでいた。
「いや、行くしかないか」
ここでぼうっと見ていても仕方がないし、ティルシーも今のところは問題ないと言っていた。
そう考えた彼は冒険者ギルドを出て、雨の中を走り出した。
ぴちゃぴちゃと雨水が跳ねる。
テンシは肌に当たるその不自然な液体が酷く不快だった。
コロンセントの住む城の前まで着くと、城門で衛兵らしき人物に名前を聞かれ、屋根のある場所へと案内され、そこでしばらく待つように言われた。
「雨の中大変だなぁ。何か王様に頼まれごとでもされたのか?」
「あぁ、うん。そうなんだ」
「やっぱりそうか。コロンセント様はかなりの切れ者だって話だが、その分俺たちには分からないことを仰られるからなぁ」
「そうなんだ」
テンシは暇そうにしていた別の衛兵に話しかけられ、彼と話すことで時間を潰した。
城門を通され、テンシは一人の使用人と共に執務室へと向かう。
「失礼します。お客様をお連れしました」
「……よろしい。入りなさい」
使用人がドアを叩くと、中から厳かな雰囲気の女性の声が届いた。
ドアが開き、テンシはその中へと入る。
「おや、雨の中走って来られたのですか?」
「うん、とりあえずあの雨の安全性は保障できたってところかな」
ドアが閉じると、以前と同様にクツクツと笑う声が聞こえ、書類の山の向こうにコロンセントの顔が見える。
外套を着た背の高い人物も相変わらず、彼女の傍に静かに立っている。
「そうですか。…………では、せっかく来ていただいたことですし、早速あの雨のことについてお話を伺いましょうか」
そうして、コロンセントとテンシは謎の雨について会話を交わしていく。
―――本来ならば、こうなるはずだった。