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おはようございます。遅刻です。常習犯です。
念話の回線がぷつぷつと言っている。今は接続先を見つけているところだ。
テンシは自分の心臓が動いているのを確認した。ドクドクと、血液かどうかすら怪しいものを運んでいる。
念話の回線がとつとつと言っている。今は接続先を見つけたところだ。
テンシは自分の手の平を見つめた。そこにあるのはいつも通りの彼の手だ。
念話の回線がごにょごにょと言っている。今は接続先と会話中だ。
テンシは自分の呼吸が早くも遅くもなく、通常通りであることを確かめた。
『もしもし、聞こえる?聞こえるなら、もし今そっちで雨が降ってるなら、その雨には触れないで』
『え、えと、天使様ですか?』
『うん、久しぶり、フールラ』
『はい、お久しぶりです、天使様。…………雨、でしたか?はい、確かに降っていますね。私は今ビレービィさんと店番をしているので雨には打たれてないです。この雨に何かあるのですか?』
テンシは彼女の元気そうな様子を確かめ、小さく笑みを浮かべる。
ビレービィとの店番、想像しただけで少し面白そうだと彼は思った。
彼は会話の途中だったことを思い出し、咳払いをしてから話を続ける。
『………何かあるって決まったわけじゃないんだけど、自然なものじゃなさそうだから触れない方がいいかな』
『はい、かしこまりました』
『うん。もし雨に触ったりして体の様子がおかしくなったりしたら教えてね』
『………それは、天使様がここまでいらっしゃるということですか?』
『うん、そうだけど。何か変?』
『…………いえ、そうですか。分かりました。雨には触れないようにします。』
『うん、よろしくね。……それと、あれからどうかな?特に問題なさそう?』
『はい、問題ありません。今はビレービィさんと一緒に道具屋で働かせてもらっています。色々と教えていただくことも多いですし、しばらくこのままでも大丈夫そうです』
『そっか。……うん。学校だけどね―――』
『―――やっぱり難しいですか?』
彼の言葉に被せるように彼女の言葉が届いた。
『え、いや、まぁ難しいのは難しいんだけど、それはそれとして、置いといてね。どんな学校に行きたいのかな?フールラはどんなことが学びたい?』
『学びたいことですか。………そうですね。交友関係とか、ですかね』
『うん?それって人がいっぱいいるところで友達を作りたいってこと?』
『……っと、そうとも言えるかもしれません。もっと専門性の高いことの方がいいでしょうか?』
『ううん、大丈夫。なるほどね。なんとなく僕が見つけるべき校風が分かってきた気がするよ』
『そうですか』
『うん。………それじゃあ―――』
『――――天使様、一つよろしいでしょうか?』
またしても被せるように、彼女の言葉が彼を遮った。
『うん、何かな?』
『先ほどの話です。私に何かあれば天使様が来て下さるというお話』
『うん、何か無くても呼んでくれれば行くよ?』
『…………そうですか。えっと、そうですか。じゃあ、また今度、話しかけてもいいですか?』
『もちろん』
『ありがとうございます。では、何かあれば、何もなくとも、またお話ししましょうね』
『うん、じゃあ、またね』
『はい、また』
念話の回線がゆっくりと落ちていく。本当にゆっくりと、実はやめる気がないのではないかと錯覚するくらいにゆっくりと。
テンシは短く息を吐いた。
雨はまだ降り続けている。