48:半身の裏話 3
「ええと、あなたが病気を撒いたと言ってましたけど、どうやってですか?」
「その話は秘密です。聞きたければもっと私と仲良くなって下さい」
「なるほど。好感度が足りないんですね」
「好感度、いい言葉ですね。…………質問は以上ですか?」
「はい、特には」
「ではあなたの知人について教えて下さい。何か重要な使命を背負ったその人について」
「あぁ、そうですね……」
「言いにくいことですか?口止めをされているとか?」
「いえ、そういうことでもないんですけど」
救世主の話とか誰が信じるんだろうなぁ。
「突拍子もないことでも構いませんよ。今私が話したことも大概だったでしょうし」
「…………そうですね、私の知人、というか親戚というか家族というか血を分けた姉弟というか兄妹というか」
「分かりにくいですね…………」
「まぁかなり近しい存在です。名前が無かったそうなので適当にテンシと名乗っています」
「天使ですか。天使なんですか?」
「天使とは思われない天使ですね」
「ふむ、貴女に近しい存在、ということですか」
「そういうことです。それでそのテンシなんですけど」
「少し待っていただいてもよろしいですか?」
「はい、なんです?」
「貴女の名前を聞いていませんでした」
「…………今更ですね、ティルシーですよ。それでそのテンシなんですけど、世界を救う使命を持ってるみたいなんですよね」
「世界を救う使命、ですか」
「そもそも何から救うかすら分かっていないみたいですけどね」
「………今この世界はあまり良い状況ではありませんからね。そういう存在が現れても不思議ではないのかもしれません」
「魔物が成長して大変、という話でしたよね」
「ざっくりと言えばそのような感じですね。……今は魔物の弱体化に成功していますが、これは一時しのぎでしかありません」
「となると魔物から世界を救う存在として現れたんですかね」
「どうでしょうね、更なる試練が待ち受けているのかもしれません」
「そんな次の敵は神!、みたいな安直なノリでぽんぽん敵が出てきても困りますよ」
「ふっ、くく。いいですね、面白いですそれ」
「いやいや、面白くはないですよ、縁起でもない」
「………まぁ、何が待ち受けているかは分かりませんが、私たちは自身のやれることをやっておくだけですよ」
「おぉ、肝が据わってますね」
「えぇ、もちろんですよ。何せ王ですから」
彼女は自慢げな表情で胸を張った。
いや、そういうとこが王様らしくないんですよ。えっへん、って自分で言ってそう。
「さて、もう少しで日が昇りますね。……貴女との会話は実に有意義でした。どうでしょう?しばらく泊まっていきませんか?」
「それはありがたいです。宿に泊まるお金すら持ってない状態だったので」
「なんと、幾らか渡しましょう」
「え、いやいや悪いですよ」
「構いませんよ、何せ王ですから」
「そのお金の使い方は問題では?」
結局、私は要らないといったのに渡されたお金を持って客室に泊まることになったのでした。
「一応、貴女の立場のことを考えて結界を張っておきます。必要はないかもしれませんが」
「ん、あー、ありがとうございます」
「いえいえ、ではごゆっくり」
コロンセントは静かに頭を下げて部屋を出ていった。
侍女か。侍女なのか?もう侍女にしか見えない。よくてどこかのお嬢様といった腰の低さだ。
「そういえばさっきの言葉ってどういう意味だったんでしょう?」
コロンセントは部屋から出ていく前に何か気になることを言っていた。
確か、結界がどうのこうのって言ってたような。聞いた話を整理しながらそれを聞いてしまったので適当に返事だけして聞き逃してしまった。
「まぁいいや。とにかく半身に連絡入れときましょう」
テンシに連絡をしようと思い立ったが、何も起こらない。
「そういえばどうやるんでしたっけ、あれ」
半身を意識することすらできず、念話のねの字も成り立たない。
もしかして私は念話を使えない個体?その機能はもう片方が持っていきました、みたいな。
「いや、場所が悪いんですよ。そうここが圏外なだけ!」
そして私は勢いよく客室の扉のノブを捻り、押そうとしてドアが動かないことに気が付いた。鍵でもかかっていただろうか?
そう思い、ドアの隙間を覗いてみたが鍵のかかっている様子はない。
「これが結界パワーですか。うーん、どうしましょうかね」
半身と連絡は取れない。部屋から出れない。ベッドはあるけど寝れない。
そんな風に部屋の中を見ていると窓が目に入った。パタパタと急いで窓に駆け寄る。
「がしかし、案の定窓は開かないのであった」
どうやら窓も開かないらしい。壊してもいいのだが、これがその結界というものの効果ならわざわざ張ってくれたコロンセントに悪い気もするので大人しくしていよう。
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「という感じで客室で絵を描いたり、寝れないか試したりしてたら二人が来たんですよ」
ティルシーは話し終えると、いかにも大変だった、という表情をした。
「要するにふらふらと知らない相手についていった挙句帰れなくなったという話か?」
詰まらなそうに話を聞いていたシャステーレが呆れたように肩を竦めた。
「いや、貴重な情報持ち帰ってきたじゃないですか!私頑張ったと思います」
「おつかれー」
「なんか扱い雑ですね………」
不服そうに唸るティルシーをよそに僕は自分の役割について考えていた。
魔物の成長、その弱体化のための病気。病気をどうやって撒いたのかは彼女の傍にいた悪魔が関わっているのだろう。
成長した魔物を止めることが僕のやるべきことなのだろうか。
…………未だ自分のやるべきことは見えてこない。
「とりあえず、ちょっと魔物について調べてみようかな」
とはいえ、何かやるべきことがありそうな気がするということが分かっただけ前進か。