47:半身の裏話 2
「んっんん、旅人、ですか?」
きょとんとした顔を浮かべてしまったのに気が付いたのか、彼女は咳払いをして表情を正した。
「はい、何かおかしいですか?」
「い、いいえ、おかしくはないですよ。ええ、そういうこともあるのでしょう、仕方ない仕方ない」
「……やっぱり期待にそえない感じですか?」
「………お気になさらず、質問を続けます。貴女は天使でもなく、何か重要な使命を背負っているわけでもない、自由な旅人だと自身を称しましたね」
「はい、そうです。私はそんな感じです」
「では、何か重要な役割を持っている知人がいるのではないですか?………………あぁ、なるほどなるほど。居るのですね」
「うっ」
表情や反応から居ると断定されてしまったらしい。合っているから困る。これでは顔を見せているだけで情報を相手に渡しているようなものだ。顔隠そうかな………。
「その方の役割について聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あの、ここまで話しておいて何ですけど、私のことだけじゃなくて、あなたの話も聞きたいかなぁって、思うんですよね」
「そうですね。そうでしょうとも。ならば話しましょう。さあ質問をどうぞ」
待ってましたとばかりに返事が返ってきた。
「ノリノリですね…………」
「気にしないで下さい」
「聞いて欲しかったんですか?」
「気にしないで下さい」
「…………えーと、今病気が流行ってますよね」
「流行ってますね」
「この国がその発生源、というか、ばら撒いたとかいう話を聞いたんですけど。本当ですか?」
「本当ですよ」
「理由って分かりますか?」
「もちろんです。なぜなら首謀者ですから」
「あなたがですか?」
「はい、そうですよ」
「へぇ」
世間話をするような穏やかな雰囲気のまま会話が進む。その内容はかなり殺伐としているが。
「どうしてそんなことを?」
「まずは、この世界の現状からお話ししましょう」
彼女は席を立つと窓辺に寄ってそこから外を眺めた。
「この世界に住んでいる魔物と呼ばれる存在。少し前に彼らは急速に成長しました」
「魔物の成長、ですか」
シーラたちの住んでいた村が襲われたのも群れの中に他より優れた個体が居たからだった。
「少し前、というと?」
「はい、少し前です。最近のことではありません。実は数年前にあった魔物による大侵攻、あれは急成長した魔物によるものだったんです」
魔物による侵攻とか聞いたことないけど話の腰を折るのもなんだから黙って聞いていよう。
「その侵攻はなんとか乗り越えましたが、このままでは魔物による攻撃が酷くなる一方だと、誰もが思ったでしょう」
「それで病気を撒いて魔物を弱らせたんですか」
「……そういうことです。最も、人間にも影響は出ているので明るいところには持っていけない話ですよ」
「その話、してよかったんですか?私に」
「そろそろ誰もが気付き始めた頃でしょうからね。別に少し気付く人が増えるくらいでしたら構いませんよ。あぁ、貴女は人ではないのでしたか」
「その辺は気にしないで下さい、大体一緒ですし」
「そのようですね。貴女は天使だというには仕草が人間に近すぎます」
「天使ってそんなに人間と違うんですか?」
「貴女の方が天使について知らないなんていうのはおかしな話ですけど、そうですね。天使というのはどこまでいっても天使ですよ。多少人間に近づくことはあっても、貴女のようにコロコロと表情を変えたり、軽々しく冗談を言うのは苦手な生き物です。生き物というのも少し語弊があるかもしれませんね」
「ははぁ、不便な生き物ですねぇ」
「他人のように言いますが、貴女も一応天使ではあるのでしょう?」
「うーん、実感ないんですよね」
「……そのようですね」
窓辺に立ってこちらを見ていたコロンセントは、やれやれと言った様子で小さく肩を竦めた。