46:半身の裏話
結論から言うと、シャステーレから逃げ切ることはできなかった。というか走ってる最中に我に返ったのだ。早くティルシーに話を聞こうと。
だから彼女の拳を防いだ腕が痛いのは仕方がない。うん、仕方がないんだよ。
「とりあえず何があったのか話を聞かせてもらおうかな」
「はい、分かりました。ところでその腕大丈夫です?」
「大丈夫じゃないからほっといて」
「…………とりあえず、話しますね」
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「付いてきていただけますか?貴女と話がしたいのです」
その言葉を額面通り受け取るべきではない。そんな第六感が働いているようだった。
「話、ですか」
「はい、天使と話ができるのなら色々と聞いておきたかったんですよ。…………立ち話もなんですから私の城まで来ませんか?」
「私の、城?」
「はい、お城です。なにせ私この国の王様ですから」
「え……全然見えないですね」
「ふっ、くく」
「あ、気に障りましたか?」
「いえ、少し珍しかったもので。特に気にはなりませんよ」
目の前でクツクツと笑う女性は高貴な存在なのだとは感じるが、この国の王様とは思えなかった。
「それで、付いて来ていただけますか?」
「はい、いいですよ」
そうして、私は軽々しくこの怪しい女性に付いて行ってしまったのだった。
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私はコロンセントの後を何も考えずに付いて行って、そして城内を「豪華なところだなぁ」くらいに眺めながら歩き、客室に案内されていた。
「まずは、どうしてこの町にいらしたのか聞いてもいいでしょうか?」
「どうして、ですか。特に理由はないのですが、しいて言えば相方の勘ですかね」
「勘、ですか。……中々侮れないものですね」
「では、次に、貴方たちは人間の成長についてどうお考えですか?」
「人間の成長ですか。ん?……あなたたちってなんですか?」
「貴方たち天使の総意ですよ。貴女も個別の思考を獲得したとはいえ、完全に接続がなくなったというわけではないのでしょう?」
「…………」
個別の思考?接続?何の話をしているのだろうか。
「え、貴女もしかして分からないの?天使なのよね?」
「えぇーっと、私って天使の中でもかなり異質な存在らしくて」
「天使なのに他の天使と繋がってないの?」
「はい」
「………ちょっと冗談を言ってみて?」
「冗談、ですか?えっと、あそこにある絵すごく綺麗ですね。……まあ私は絵の価値なんて分かりませんけど」
「……………そう。もしかして、いえ、もしかしなくてもかなり珍しいわよね、これ」
彼女は無表情で、なにやら考えごとをしている様子だ。
「あの、期待に応えられない感じだったんですかね、私」
「いえ、そういうわけでもありませんよ。竜退治に出かけたら神に会ってしまったような感じです」
「分かりにくい例えですね、それ」
「ふふふ、そうかもしれませんね。では質問を変えましょう」
彼女はすぐに笑顔に戻ると話を続けた。
「あなたは一体何者ですか?」
「天使の紛い者、みたいな感じですかね」
「それは貴女の言葉ですか?」
「私の言葉というよりは私に掛けられた言葉ですかね」
「では、貴女の言葉で貴女のことを表していただいてもよろしいですか?」
「えっと、そうですね。自分の言葉で」
この場合は、救世主というのが正しいんだろうか。
いや、きっと違うのだろう。確かに私たちは二人で一つだが、救世主は一人でいい。
「私は、そうですね。自由な旅人って感じです」
「………はい?」
望む言葉からかけ離れていたのか、彼女はきょとんとした顔を浮かべた。