45:そこにある日常
特に進展はないです。
『もしもし、シャステーレさん。今からそっちに行くけど、ティルシーは見つかった?』
印を付けたシャステーレの居る方向を確かめて、城内の人間に見つからないようにしながら歩く。
『この眼で見たわけではないが、反応が戻っている。すぐに見つけられるだろう』
『隠密は忘れてないよね?一応コロンセント王に話はしてるけど、見つかったらマズイよ』
『当然だ』
彼女の言葉を聞いて深く安堵した。既に城内を走り回っているのではないかと考えていたのだ。
壁に背を付けて、通り過ぎる人を待つ。
『おい、テンシ、私の能力が生きているのだ。お前の念話というやつでティルシーに話しかけられないか?』
『あ、それもそうか。ちょっと待って、試してみる』
自分の半身を意識してみる。
『おーい、おーい、無事ー?』
『あ、やっと繋がったみたいですね。はい、無事ですよー』
『とりあえず城から出ようと思うんだけど、動ける?』
『あー、出られるか分からないですけど、やってみます』
『出られるか分からない?まぁいいや』
向こうからの反応を確認し、シャステーレの方に意識を切り替える。
『繋がったよ、シャステーレさん。ティルシー無事っぽい』
『そうか、とにかく無事ならそれでいい』
シャステーレからも安心したような声が聞こえた。なんだかんだ心配していたのだろう。
『あ、出られました。今からそっちに向かいますね』
『出られた?うん、とりあえずそっちにシャステーレさんが向かってるから捕まえといて』
『え、シャステーレさんと遭って大丈夫だったんですか?』
『大丈夫じゃなかったけど、その話は後で』
『大丈夫じゃなかったんですね………いえ、とにかく合流します』
殴られた腹部が今も痛むことはないけど、トラウマにはなっている。
『テンシ、見つけたぞ』
『あ、シャステーレさん居ました』
二人からほぼ同時に連絡が来る。こちらも二人に向けて念話を飛ばした。
『了解、先に脱出できるようならしてていいよ。僕は一人で大丈夫だから』
『了解した』
『分かりました、じゃあ先出てますね』
どうやら二人とも先に行くらしい。二人が無事に出られたのを確認してから出ようかと考えたが、そういう自分は大丈夫という慢心で取り残されても笑えないのでさっさと脱出することにした。
特に問題もなく城内を抜ける。まぁ、使用人を一人気絶させ、服を奪い、記憶を覗き見て、その使用人の姿形を真似て移動したのだからむしろ失敗する方が恐ろしい。どういう警備体制だ。
シャステーレ達も無事に脱出できたようなので待ち合わせ場所を決めてそこで落ち合うことになった。さっさと来いと言われているので急いだ方がいいだろう。
コロンセントの言葉を思い出す。
この国が今流行している病気の発生源なのだという話。真実かどうかは分からないが、真実だったとして、事故だったのか故意だったのかすら分からない。
ティルシーから話を聞けば分かるだろうか。もし分からなかったら、僕はもう一度彼女と会わなければいけないだろう。あの不気味な雰囲気の王様に。
「遅かったな」
「ごめんごめん。ちょっと考え事してた」
「そんなこと言って本当は道に迷ってたんじゃないですか?」
「……殴っていい?」
「いいぞ」
「シャステーレさんが許可出すのは違くないですか!」
「今回一番仕事をしてるからな」
「関係あるんです?それ」
「あるだろう、なぁテンシ」
「いやー、こんな頼もしい人と一緒だなんてー、羨ましいなーほんとー」
「ほら」
「何が、ほら、ですかどう考えても感情籠ってないですからね。いつも大変なんですからね、後処理とかほんと」
「最近は諦めてることの方が多かったように思うが」
「よく見てますねいちいちやるのが面倒になったんですよ周りは見えてる癖に顧みようとはしないのほんとだるいですというか見えてるならもうちょいその性格どうにかならないんですか」
「あー、よしよしよく頑張ったよく頑張った」
「殴っていいか?」
「それ僕も標的に入ったの?」
「もののついでに殴っておこう」
「よーし、相棒逃げる準備はできてる?」
「もちろんですよ、ただ鬱ってたわけじゃないんです」
そんなわけで、何も大事な話はできていないけれど、シャステーレから逃げるために走り出すことにした。どうしようもないくらい無駄が過ぎるけれど、無駄は溢れてるくらいでちょうどいいのだ。