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新生天使は救えない  作者: yosu
第二章 そこに住む人々
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42:行方知れずの半身 2

遅くなりました!



「いやっ、ちょっと待っ」


 カラプルが喋るよりも先にシャステーレが動く。

 そこに割り込むように僕は彼女たちの間に入った。

 シャステーレの拳が再び僕の腹部へと打ち出される。

 予備動作はある、つまり本気じゃないってことだ。それは半身の記憶から分かっている。とはいえ、もう一度あの拳を喰らうのは精神的に来るものがある。


 だからといってここから退くのは違うだろうけれど。

 今は彼女に話を聞くのが優先される。悪魔だろうが吸血鬼だろうが人間や天使に比べたらマシだ。

 だから今からこの拳を受けたとしても仕方がない、そう仕方がないことなのだ。


「なぜ邪魔をする」


 そう考えて衝撃に備えていたのだが、結局その拳は届かなかった。


「なぜって、そんなの決まってるよ」

「……言ってみろ」

「今はそんなことしてる場合じゃないからね」

「そいつがティルシーの失踪とも関係しているかもしれないぞ?」

「だからと言って殴ってから確かめるんじゃ遅いよ。……それに、君が思うほど彼女は危険じゃないさ」

「…………楽観的だな、根拠も無さそうだ。その判断で隣人を失ってからでは遅いというのに。……だが、私は嫌いではない。いいだろう、貴様のことを認めよう。まずは名前を聞こうか」

「……僕はテンシ、天使っぽくて、天使って呼ばれたからテンシ。分かりやすいでしょ?」

「ふっ。……あぁ、分かりやすいよ。分かりやす過ぎて聞いたら忘れられないかもだ」

「そりゃよかったよ」

「はっ」

「ははは」


 道の真ん中、誰も彼もを置き去りにして二人で笑う。

 何故笑っているのだろう?シャステーレという人物が今になってやっと僕の名前を聞いたのがおかしかったのだろうか?

 それともシャステーレの拳が当たることを恐れて緊張していたのが、急になくなってやり場のなくなった緊張感が笑い声として出てきてしまったのだろうか。


「ふっ、ははは」

「ははははは」


 ともかく、何だかおかしい。笑っている場合じゃないのだが、何かがツボに入ったらしい。

 お互いの顔を見ているだけなのに笑っている。


「え、えっーとぉ、じゃ私はこれで」

「はっはは。おいテンシ、悪魔が逃げるぞ」

「ふっくく、それは大変だ」


 そして、僕らはカラプルが居なくなろうとしたその時まで笑い続けることになった。



「あのぉ、ちょっと怖いんですけど。正直二人とも未だ出会ったことのない人種です。」

「まあまあ、そう言わないでさ。ティルシーに話したことを僕らにも教えてよ」


 僕に左腕を掴まれたカラプルが不安そうに話す。


「そう言われましても、別に大したことは話していませんよ?ただちょこーっと今の王様の話をしただけで」

「その少ししたという話をしろと言っている。ここで言えないならその話ができる場所に行け」

「う、うぇーん、分かりましたよぉ」


 右腕をシャステーレに掴まれたカラプルがメソメソと歩き始めた。



「シュッターさーん、ただいま帰りましたー。酷いのに捕まってるので今日は強めのお酒下さい」

「いらっしゃい」


 カラプルの進む方向について行き、一軒の酒場にたどり着いた。

 カラプルはカウンター席の端の方へと向かおうとしたが、シャステーレが彼女の腕を掴んだまま中央の席に座ってしまったため、彼女もその隣に座らざるを得なくなった。

 僕はカラプルの左隣に座り、右側にいるシャステーレのことを少し確認した。

 うん、見てもよく分かんなかった。


「それで、悪魔の話が何だ?」

「コロンセント王に悪魔が憑いてるんですよ」


 シャステーレが会話を切り出し、それに合わせてカラプルが話していく。


「貴様も悪魔だろう」

「いやー、まあそうですけどー。ぶっちゃけ私と彼じゃ住む世界が違い過ぎるっていうか」

「何が言いたい」

「……まぁ要するに、あっちのやってることと私は全然関係ないってことですよ。聞いたことありません?10体悪魔が居れば10体分の個性があるっていう話」

「知らんな」

「あぁ、そですか。まー、とりあえず、今の王様には悪魔が憑いていて、影で色々とやってるって噂です。誰か居なくなったってなら、それがこの前会った天使さんっていう話なら、ここの王様がやった可能性は十分あるんじゃないですか?」

「………聞いてもいない情報をボロボロと。お前が黒幕か?」

「えぇー、嫌だなぁ。私そんな風に見えるんですか?」

「見えるが」


 シャステーレとカラプルが話をしていると、店主がお酒を持ってきた。

 店主は僕ら全員分のお酒をカウンターに置くと、静かに去っていった。


「わーい、お酒お酒」


 カラプルはシャステーレのことなど忘れたように目の前のグラスを傾ける。


「テンシ、貴様はどう思う?」

「うーん、どうかなぁ。ティルシーが王様について一人で調べ出したとはあんまり思わないけど、夜の町をふらふらと歩いていたところをガバッと、っていうのはありそうな話かな。……その相手がここの王様で更に悪魔も憑いてるっていう話はちょっと微妙だけど」

「……そうだな。しかし、他に情報もないのは確かだ。そこにティルシーが居なかったとしても、ここの王だ。この町ではそれなりに役に立つだろう」

「……うん。まぁ、そうかな」


 流石はシャステーレ、ここの王様をこき使おうとしてる。最早貴女が王様だよ。


「行くぞ、テンシ。場所はここの王城だ」

「正面から殴り込みに行ったりしないよね?」

「するわけがないだろう。貴様の羽は何のために付いているんだ?」

「そりゃあ、空飛ぶために付いてるけど」

「ならばそういうことだ」


 シャステーレは席を立って店の外へと歩いていく。


「雰囲気良かったし、また今度来るかも」

「……また来るといい」

「そのときはお客さんですね。迷惑料込みでたんまり持ってきて下さーい」

「ははは、君が働いてない時間探そうかなぁ」


 僕も席を立ってシャステーレの後を追う。後ろから聞こえて来る非難の声は聞こえないことにした。

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