04:思春期の少女
修正中のため、前の話との繋がりはほぼないです。
僕は、そこに降り立った。
「…………てん、し……?」
誰かが僕のことをそう呼んだ。そちらを見れば女の子が獣達に襲われていたことが分かる。
獣は少女を襲うのを止めたようで、こちらをじっと睨んでいる。幸いにも少女に深い傷はなく、襲われていたと言っても少女もそれなりに応戦していたらしい。
「だいじょうぶ?」
細くて、綺麗な音が鳴った。
「あ、えっと、大丈夫、です」
少女は少し目線を下げて返事をした。その顔はほんのり赤い。
『服を着て』
そんな声が聞こえた気がした。
「ふく?」
あぁ、服か。確かに自分は衣類というものを何も身に着けていない。生まれたままの姿というやつだ。これでは彼女と会話するのが難しいということに気が付いた僕は、周りを見渡して着れるものを探す。
幸いにもそこかしこに服が落ちていたので、僕はその一つを貰うことにした。
それにしても、洗濯物を風に飛ばされたのかという程に衣類が転がっている。まるで、ここには先ほどまで人がいて、たった今人間だけ消えてしまったような、そんな有様だ。
服を着た僕は改めて少女と向き合う。獣はじっとこちらを睨んだまま動いていないようだ。
「あの、天使様、ですか?」
少女はおずおずと話し掛けてきた。
「てんし………天使?」
「あ、えっと、違うのでしょうか?」
僕が天使か、それとも天使じゃないのか。自身の肉体を確認する。白い翼が生えていた。天使ならばあるはずの頭上の輪っかはないらしい。
これでは天使というより天使擬きだろう。
まぁ、それでも。
「天使であってるよ」
「……あ、やっぱり、天使様」
彼女に天使と呼ばれるならば、僕は天使なんだろう。何とはなしに、そう思えた。
「………救世主」
「えっと、なんでしょうか?救世主?」
頭に残っていた言葉を声に出す。救世主という言葉には何の思い入れもないはずの僕だが、どうにもその救世主というのが自分だという思い込みがある。
「そう。救世主」
「天使様は救世主なのですか?」
「多分、そうなんじゃないかな」
「えっと?」
女の子は分からなさそうに首を傾げた。僕もよく分かっていないので同じように首を傾げておく。
獣はそろりと動き始めている。そろそろ我慢の限界のようだ。
「それで、可愛い女の子。その横にいるのは殺さないといけない相手なのかな?」
「えっ?……あ、いや、別に」
「そっか。じゃあ、君たちは森に帰るといいよ。もう十分だろう?」
そう言うと、獣たちは森へと走っていった。
話のできる相手というのは非常に助かる。人間は言葉を理解しているのに言葉を聞かないという暴挙に走るから本当に困る。
「うわぁ」
少女はその姿を口を開けて見ている。
「それじゃあ僕は行くよ」
「あ、えっと、ありがとうございました?」
「どうして疑問系なの?」
「いや、何かよく分からないんですけど、貴方には感謝以外の言葉も伝えなきゃいけない気がして」
彼女は自分で言っていて、本当によく分からないという顔をしていた。
けれど、僕が見たところ、その中には喜び以外にも、怒りや悲しみの感情が混ざっているように感じた。彼女の能力か何かだろうか。
「ははっ、それは怖い」
彼女から逃げるように空へと飛ぶ。
「待って!!!」
「えっと、どうかした?もしかしてお腹でも痛い?」
声が聞こえたのでもう一度降りる。
「あ、あの、あのっ!」
彼女は泣いていた。
何故泣いているのか分からないといった様子でボロボロと泣いていた。
「こ、この、ばか!」
そうして、唐突に暴言を吐くと涙を拭って走り去ってしまった。
ぽつりと空白の村に取り残される僕。魔物も人間も居ないこの村はあんまりにも静かで、まるで一世一代の告白に失敗してしまったような敗北感を覚えた。
「何だったんだろう……」
ぽつんと飛び出た言葉は無理解を表していたが、僕の記憶のふちに引っ掛かっている感情は、きっと喜びなんだろう。