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新生天使は救えない  作者: yosu
第二章 そこに住む人々
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35:夜の館の主人 2



 僕がライラルのところへ向かうと、異形の男と戦っている女性がいた。

 短い槍を振るって、男にいくつもの穴をあけている。男に槍を突き立てては槍の形を霧のようなものに変えて手元に戻し、止まることのない攻撃を続けていく。


 異形の男は女性にその鉤爪を突き立てようとしているようだが、女性はその攻撃を全て躱している。


「………すごいな」


 他に言葉が出てこなかった。僕にあれと同じことができるだろうか?ただ同じ威力で槍を突き立てるだけならできるかもしれない。その場合異形の男の攻撃の的になることは言うまでもないが。


 女性は僕を横目で見ると、男を引き連れたままこちらに近づいてきた。


「いや、ちょっ」

「テンシ殿、悪いが時間を稼いでもらっていいかの?」

「えっと、ライラルさん?」


 近くで見ればどこか彼女に似ている。


「あぁ、そうじゃよ。それで、時間稼ぎは頼めるかの?」

「えーっと、まぁ多分……」

「じゃ、ちっとあれの相手をしておいてくれ」


 ライラルと思われる女性は、ぽんと僕の肩を叩いて高く飛び上がった。

 あれ、と言われた異形の男は僕を無視してライラルの方へと向かおうとする。


「あー、ごめんね。ちょっと君の相手をするように頼まれてさ」

「そこを退いてくれ!私は娘に用があるだけなんだ!」


 僕が男の前に立ち塞がると男は律儀にこちらに退くように指示した。

 驚いた、会話ができるのか。


「娘って、ライラルさんの父親ってこと?」

「娘は娘、私の娘はフェイユ。早くフェイユを止めなければいけないんだ。私はあの子の父なのだから」


 男は、僕と話しているはずなのに、まるでこちらを見ている様子がない。

 またしても僕の横を通り過ぎようとした男に対して、遮るように僕が男の前に立とうとしたときだった。

 男はその大きな腕を振った。


「あたっ。……いやぁ、よく避けるなぁこんなの」


 ライラルは軽々と躱していたようだったが、僕からすれば腕が動いたと思ったときには攻撃が当たっている。

 破損した右腕を修復しながら再度男の前に立った。


「あぁ、フェイユ。どうしてお前は私を遠ざけるのか」


 今度は忠告はない。男は真っ直ぐにこちらを攻撃した。回避できずにそれを喰らう。


「あだっ」

「フェイユ、今行く。今楽にしてやるからな」


 男は空に浮かぶライラルを見ながら呟いた。翼が生えている様子はないので恐らく跳躍して向かうつもりなのだろう。


 男が足に力を込めるのを片目に見ながら僕は翼を広げる。

 男が地面を蹴って空に跳んだ。かなり速い。確かにあれならライラルの元まで届くだろう。

 僕は空へと飛び上がって男の足を掴む。


「おっとっと」


 あわよくば地面に叩きつけようと思っていたが、やっぱり無理だ。

 なんとか跳躍の勢いを消して地面へと落下させる。


「なぜだっ!なぜ邪魔をする!」


 落ちていく男の様子を眺めてからこちらより高いところにいるライラルのことを見た。


 目を瞑って集中している様子。手に持った槍が赤く輝いている。


「必殺技かー、僕も欲しいなぁ」


 僕がライラルから目を離して男の方を見ると、男はまたしても跳躍してこちらに突っ込んで来ていた。


「おわ、やばいやばい」


 翼を羽ばたかせ、男に向けて全速力でぶつかる。


 男にぶつかった衝撃で色々と体が壊れた。

 流石に頭から突っ込んだのは良くなかったらしい。


 とりあえず動けるように修復して周囲の様子を確認する。


 男が翼を生やしてライラルのところへと向かっていた。


「……飛べるなら最初から飛べばよかったのに」


 不調を訴える体を起こして翼を広げる。


 一直線に、男の元まで飛んでいってその翼を掴んだ。


「……なるほど。こんなんじゃ空は飛べないね」


 無理矢理くっ付けたようなその不恰好な翼を剥がして男を地面に落とす。


「テンシ殿、長らく待たせた。準備が終わったゆえ、少し離れておれ」


 ライラルは赤く輝く槍を持ってゆっくりとこちらに近づいてきた。

 いや、僕に近づいたというより異形の男に近づいたのだろう。


「了解。じゃあよろしく」


 言われた通り彼女から距離を取っていく。

 男はまたしても跳躍して彼女のところへと跳んだ。


「フェイユ、そこで待っていてくれ!」

「言われなくとも待っておるよ」


 ライラルは槍を片手で持ち、もう片方の手を男へと向ける。

 そして、槍を持っている腕を体の後ろへと引き絞り、体の捻りを加えて槍を投擲した。


「フェイユ!我が娘よ!今その苦しみから救ってやるぞ!」

「苦しんでるのはお前じゃろうが」



 放たれた槍は更に強く輝き、男へと真っ直ぐに向かっていく。

 そうして、槍は男に突き刺さると同時に大きな爆発を起こした。


「………はぁ」

「どうかしたの?」


 ライラルは手元に槍を戻すと、大きなため息を吐いた。


「なんでもない。少し疲れただけじゃよ」

「そっか」


 僕は男の居た場所を振り返ってから、ゆっくりと動き出した彼女の後を追った。






 静かな夜に現れた異形の客は鮮血のように赤い花を咲かせた。狂気に取り憑かれた男は、最後くらい穏やかに眠れただろうか。

 それとも、有りもしない幻想を追い続けたのだろうか。


 どちらにせよ、彼はここで終わって良かったと言えるだろう。あれ以上生き恥を晒すこともない。

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