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新生天使は救えない  作者: yosu
第二章 そこに住む人々
35/75

33:吸血鬼殺し



 隠された館は、迎え入れる者を慎重に選ぶ。それは、その主人が臆病な性格をしているからなのか。


「おかえりじゃな、テンシ殿」

「うん、ちょっと流石に疲れたよ」

「かかか、あの娘は中々変わっておるからな」

「ライラルさんはちゃんと寝れたの?」

「テンシ殿があの娘に捕まっているのが分かってたからの。ぐっすり眠らせてもらったわい」

「はは、まあちゃんと寝れたようで何よりだよ」

「テンシ殿も少し休むか?茶でも出すぞ?」

「おー、それはありがたい」

「うむ、ではその辺りに座って待っておれ」


 その辺り、と言われた方には大きなソファが置いてあった。あんなところにソファなんてあっただろうか?

 何とも不思議な館だ。

 ライラルは扉を開けてその奥へと入っていく。


 この館はどうにも見たままの構造をしているわけではないらしく、館の外から見たときよりも、中は広く感じるし、以前入ったときにあったはずの扉が壁になっていたりする。


 ソファに座って内装を眺めていると、ライラルが盆の上に湯呑みを載せてやってきた。


「あれ?」

「ぬ?どうかしたかの?」

「えっと、中身は緑茶?」

「そうじゃけど、紅茶の方が良かったかの?」

「あー、いや、全然。緑茶、嬉しいよ。……吸血鬼が緑茶飲んでるの想像できなくてね」

「吸血鬼って、結構人間の作ったものとか気にする生き物じゃから、儂以外にも茶くらい飲む奴は居ると思うぞ」

「へぇ、そうなんだ。なんかてっきり人間の作ったものとか興味ないかと思ってたよ」

「まあそういう奴も居ないわけではないじゃろうけど、大半は人が作り出すものを面白く思っておる」

「へぇ、ライラルさんは特に好きなものとかあるの?」

「茶じゃな!」

「……あぁ、うん、そうなんだ」

「茶は面白いぞ?作り方をちっと変えれば味が全く変わったりするし、その生まれにも中々歴史がある」

「……うん、うん」


 ニカっと笑ったライラルさんのお茶についての話を聞きながら、しばらく過ごした。



「いやー、葉っぱの動きだけでも面白いんじゃよ。なんか、こう、癒される感じがあるっていうのかの」

「あー、うん、なるほどなるほど」

「そうして目で楽しんだ後に、ぅん…………ふむ」


 ライラルはにこやかに会話を続けていたが、突然表情を固くした。


「どうかしたの?」

「んー、いや、なんでもない。儂はちょいと外に出てくるからテンシ殿は適当に休んでおれ」

「ん、そう?まあ、じゃあ座ってるけど」


 ライラルは僕の返事を聞くよりも早く館を出て行った。


「さて、何かあったんだろうけど」


 彼女の様子を見るに、只事では無さそうだ。僕は何をしようか。


「ま、とにかく行ってみようかな」


 残っていたお茶を飲み干し、ソファから立ち上がる。


「今思ったけど、もしかして和室もあるのかな」


 腕や首を回して体の具合を見ながら、館から出て行く。

 ライラルが向かった方向を確認するために周りを見ていると、声のようなものが聞こえた。

 助けを呼ぶ声とは違うが、人が何かを訴えている。そんな風に感じるもの。

 僕は翼を広げると、その声のする方向へと飛び立った。



 向かった先ははサリネインの家があった方向だった。

 そこで、ライラルがぴょんぴょんと飛び跳ねていて、それを何かが追っている。

 ライラルは追いかけてくる存在に向けて槍のような鋭い物体を空中に呼び出しては

撃ち込んでいるようだ。

 ライラルを追いかけているのは、僕の3倍はありそうな大きな体を持った人の形をした何か。

 その異形は、ライラルの放つ槍を手で掴んで受け止めたり、体に刺さったとしてもそれを抜いて投げ返したりと、まるで意に介した様子がない。


 サリネインの家は先ほどの異形が暴れ回ったのか、ずいぶん酷い状態だ。

 僕はライラルたちの様子を横目で確認しながら、サリネインの家だったものへ近付いた。


「サリネインさーん!サリネインさん、居ませんかー?」


 声はしない。けれど、何かが動いた音がした。

 崩れた家の残骸を退かしてそこへと向かう。


 たどり着いた先には、腰から下を失ったサリネインさんが居た。


「サリネインさん、大丈夫?」

「う、んん、テンシ様?そこに居らっしゃるのですか?」

「うん、居るよ。サリネインさんはその状態で大丈夫なの?」

「あぁ、はい、もうダメかと思いましたけど、何とか生きてます」

「その状態で大丈夫なんだ?」

「大丈夫か大丈夫じゃないかと言われれば大丈夫ではないですが……少し休めれば治りますから」

「そっかそっか。とりあえずここは危ないだろうからライラルさんの館まで運ぶよ」

「ライラル様のお屋敷ですか………私が入っても良いのでしょうか?」

「え。……大丈夫なんじゃ、ないかなぁ」

「ふぅ。いえ、ここに居られてもお邪魔でしょうし運んで下さい。後でライラル様にどう罰せられようと今は構いません」

「ん、んー、大丈夫だと思うけどなぁ」

「だと良いのですが」


 不安そうなサリネインさんを抱えて、空へと上がる。


 ライラルさんと異形は先ほどと変わらずに今も闘っている。

 いや、ライラルさんの扱う槍の本数が増えたり、若干ライラルさんの動きが速くなっている気がする。

 まあどちらにせよ僕が今何かしなきゃいけないことは何かと言われれば、サリネインさんの救出だろうから関係ない。


 僕は彼女を抱えてライラルの館まで飛んだ。

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