31:眠らない二人
僕は館の中でもそれなりに広いらしい部屋に案内された。そこには二つのベッドがある以外には何もない。
すやすやと、寝たふりを続ける。
僕は基本的に眠れなさそうなので、ライラルさんが眠るのを待って、適当に館を見て回ろうと思っているのだが、彼女はどうにも眠りにつく気配がない。
「よっと」
どうせ相手も眠らないならと体を起こす。
「ライラルさんはどうしてアルヴァインと一緒にいるの?」
「………そうじゃな」
ライラルはパチリと目を開くと体を起こした。
「テンシ殿は、吸血鬼殺しについて知っておるか?」
「ええっと、吸血鬼を殺す人間ってこと?」
「あぁ、そうじゃ。吸血鬼を目の敵にしている奴らのことじゃよ」
「その吸血鬼殺しからアルヴァインを守ろうとしているの?」
「うーん………吸血鬼というものは、基本的に人間を襲うものじゃ。じゃから人間に襲われるのは当然じゃし、そこに居るだけで厭われるのも仕方がない」
「とはいえな、吸血鬼は元よりあまり数を増やさん生き物じゃ。人間に付け狙われれば簡単にその数を減らす。儂の知己も殆どがその姿を消した」
「ちょっと待ってね。数を増やさないっていうけど、アルヴァインは何人も女の子を連れていたよ?あの子たちは全員吸血鬼なんじゃないの?」
「あぁ、あれな。あれは吸血鬼ではない。吸血鬼擬きじゃ。人間は吸血鬼に血を吸われるとその吸血鬼の眷属になるが、その人間が本当に吸血鬼と同じような力を手に入れるにはそれだけでは足りんのじゃよ」
「足りないって、具体的にはどうするの?」
「魔物や人間を食い殺したり、とにかく力を付けねばならん」
「えーと、じゃあ吸血鬼って基本的に人間と同じように数を増やすってことなんだ」
「ああ、そうじゃな」
「……それはまぁ、なんていうか」
「なんじゃ?」
何というか、思っていたよりもちゃんと生き物っぽい。勝手に沸いて出てくるような生き物ではないということか。
「……えーと、つまり、数の少ない吸血鬼の未来を憂いて、アルヴァインっていう吸血鬼を守ることにした、ってこと?」
「かか、吸血鬼の未来を憂うとまで言われると流石に反応に困るがの」
ライラルは照れ臭そうに笑った。
「アルヴァインとはどのくらい一緒にいるの?」
「………いやぁ、あんまり覚えてないんじゃよ」
「あー、結構長いんだね、やっぱり」
「そういう風に見えるのかの?」
「すごい仲良さそうだったからさ」
「ん?そうかの?最近は反抗期かと思っていたのじゃが。仲が良さそうとな」
「うん、微笑ましい感じ」
「ふぅむ、お主は変わっておるの」
「えぇ、そうかなぁ」
「かかか、テンシ殿は変わり者じゃよ……ほんとにの」
ライラルは楽しげに笑っている。
僕らは結局眠ることはなかったが、それは互いを警戒してのものではなく、ただ会話が弾んだだけのことだったのだと、僕は思っている。