28:天使を落とす男 2
「おー、家庭的な味だー。家庭的な味って初めて食べたけど」
「じゃあ黙って食えよ………腕、本当に生えてくるとはな」
「そりゃあ腕は替えの効くものだからね」
「効かねえよ!ったく、そういう能力か?」
「そんな感じかな、多分ね」
「多分ってな……」
僕を射殺そうとしてきた男は、大人しく家に僕を案内すると、甲斐甲斐しく料理を作った。
「僕はテンシ、まぁ、仮の名前なんだけど、君の名前は?」
「テンシってお前…………いや、俺はトイジョーンだ。腕の件は本っ当に悪かった!」
男は何度目か分からない謝罪を口にする。
「うん、いいって言ってるじゃん。僕死んでないし」
「そう言われてもなぁ。天使臭いとはいえお前はちゃんと生き物やってるわけだし、そんなお前をいきなり射殺そうとしたってのがよ」
「はいはい、うじうじしない。僕は気にしないって言ったんだから切り替えて切り替えて」
「はぁ、分かったよ。……とりあえず俺にできることがあれば何でも言ってくれ。こっちは命を狙ったんだ、そのくらいはしないとな」
「重たいなぁ」
「お前が軽いんだよ!」
「お代わりー」
「………はいよ、ちょっと待ってろ」
僕が空になった器を差し出し、トイジョーンがそれを受け取る。
「天使について聞いてもいいかな?」
「天使について?まあいいけどよ。どうしてそんなん……ってお前が天使臭い理由を知りたいってところか」
「そうそう。何となくは知ってるんだけどさ、人類の敵ってこととか」
「人類の敵、か。確かにアイツらのやってることを考えればその通りなんだが、そこまで言い切っちまうのはどうなんだろうな」
「あれ?天使を憎んでる感じだからてっきり同じかと」
「同じって何だよ、お前も天使殺しやってんのか?」
「いや、そもそも会ったことすらないから聞いた話だよ」
「……お前にそれを教えた奴は頭逝ってるからもう会わない方がいいと思うぞ」
「あー、ははは」
それは厳しいかな。今も一緒だし。
「んで、天使についてだったな。アイツらはまぁ、単純にその役割を果たしてるだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「役割?」
「生き物の管理だ。ある生き物が増え過ぎて他の生き物に影響を与えるようなら減らす、逆に少ないときは何もしない。ただその種が途絶えるのを見ているだけだ」
「へー、詳しいね」
「……聞いたんだよ、天使に」
「会話ができるの?」
「多分珍しい奴だったんだろうな。無駄口を叩けるくらいには自由があった」
「へぇ、何か会ってみたくなったよ」
「やめとけやめとけ、仲間と思われても困るだろうし、壊れてるって認識されたら攻撃されるぞ」
「なるほどねぇ。えーっと、今の話を聞いた感じだと僕が射られた理由がよく分からないんだけど」
「あぁ、いや、スティービルの方に向かおうとしてただろ?だからあの国で大虐殺が始まるのかと思っちまったんだよ」
「あー、なるほど?」
「天使の奴らは基本的に姿を見せねぇ、姿現すときなんざぶっ殺すときだけだ。……ぶっ殺し終わった後にその辺に残ってる奴もいるみたいだけどな」
「まあとはいえスティービルの方に向かうのは殺し終わった天使というよりこれから殺しに行く天使って感じに見えるかな?」
「そういうこった。……いや、間違いだったから本当にどうしようもねえんだけど」
「まあまあいいからいいから」
その後も、トイジョーンはずっと申し訳なさそうにしていたので、もう僕は気にしないことにした。
「またねー」
「おう!俺は天使探してどっか彷徨いてるから、何か用があったら探してくれ!」
「それは面倒な探し人だね……」
「すまん、でもこればっかりはちょっとな」
「いや、いいよ。何かあったら探すさ」
「悪いが頼む!じゃあ元気でな!天使と間違えられて殺されんなよ!」
「そんなことポンポンあったら困るなぁ」
翼を広げて、空に上がった。
地面を見ると手を振っている男が見える。こちらからも手を振りかえしておいた。
いやはや、何ともこの世界は大変なことになっているらしい。救世主とかいう奴が欲しくなるほどに。